凍った池
「寒いねぇ」
「寒いですねぇ」
「釣れないねぇ」
「釣れないですねぇ」
北上を始めて数日後、だんだん寒い季節、地域になってきた。
現在、湖の氷上で、地面の氷に穴を開けて釣りをしている。
わかさぎ釣りのようなものらしく、表面の氷の下の魚は普通に生きているらしい。
なぜ、らしいと言うか、まだ釣果がゼロだからだ。
現代のように魚群探知機なんてものはないから、本当に不明。
遥か後ろの小屋に現地の人がいるにはいるが、寒いから竿とかを返す時だけ声を掛けろと言われている。
「ん? なんかこっちに来てないか?」
人影のようなものが木陰から姿を現し、こちらに向かって滑ってきているようだ。
全身真っ赤な衣装を身にまとい、スケート靴のようなものを履いて滑ってきていた。
「このクソ寒いのにようやるなぁ」
「スケートなんて冬場にしかできないからでしょうよ」
そんなことを言っていると、その人は目の前の開けた氷の上でポーズをとったり様々な動きをしている。
「・・・・・・あっ、引いてる!」
俺は竿から伝わる手ごたえで魚がかかったのがわかったので、椅子から立ち上がって糸を引っ張る。
糸も何製か不明ならば、リールなんてものはない。
糸が切れないように慎重に、かつ急いで引き上げた。
「キター!!」
釣れたのはもちろん手のひらサイズの小魚だった。
針からはずして、水の入ったバケツに放り込む。
針に餌の小さな幼虫をつけてから、また穴に沈めた。
「・・・・・・これで腹いっぱいに食うのは無理じゃねえ?」
「こっちも来まして、2匹ですけど。20匹くらい釣ってなんとかってとこでしょうね~」
「日本ではもっと釣れる感じだったんだけどもなぁ。こっちのはみんな釣るからすくねぇのかなぁ」
俺たちが釣りに精を出していると、赤い服の人が近くまで来て話しかけてきた。
「釣りですか? 寒いのにわざわざ?」
「あんたもそんなペラペラの服1枚でよくやるわな」
「まあ。仕事ですので。この服は特殊で、あんまり寒くないんですよ」
話しかけてきたのは整った顔をした男性だった。
背もそれほど高くなく、パッと見は女性に見えるほどだが、顎鬚を生やしていた。
「ふーん。スケートのプロってやつか」
「そうですね。街にもできる場所はあるのですが、初心者もいますし、混みあいますから」
「自由に練習できる外でってか」
「はい。冬場はいつもこの湖で練習しています。かれこれ10年は通ってますね」
10年、ということは20才くらいに見えるこの男は、おそらく10代からスケートをやっているということのようだ。ベテラン。
「ん? 街に滑る場所があるんだよな? 屋外じゃないのかい?」
「ええ。室内リンクがあります。夏でも涼しいですよ」
「?? ここは年中寒いのかい? 氷が解けないくらい」
「ああ、違います、魔石によってリンクに張った水を凍らせているんです」
「へぇ。そんなところがあるんかい」
「今日の夜、よかったら見に来てください。ピーツの知り合いだと言えば入れますんで」
そうして、ピーツと名乗った男は練習へ戻っていった。
「俺たちも、あと10匹釣ったら切り上げるか」
結局、日が暮れる前まで少し粘って、ワカサギのような小魚と、少し大きいフナのような魚を釣り上げた。
2人で合計13匹。
竿を借りた小屋へと戻ると、店主が魚のワタ抜きをしてくれた。
これで、街へと持っていけば調理してくれるそう。




