痛み
「召喚成功だ!」
一番高級そうな黄色の服を着た男がそう叫ぶ。
『救世主さまが降臨なされた』
誰かがそう言うと、
『救世主さま! 救世主さま!』
の大合唱になった。
俺は全裸で恥ずかしかったし、そんな感じであがめられるのも面映ゆかった。
「救世主様、あなたさまにはその証明のために印を押させていただきます」
そう言われ、俺はされるがままに首の後ろにスタンプのようなものをされる。
少し痛みが走ったが、そんなものだろう。
『おおー』
『これで完璧だ!』
観衆は盛り上がっている。
(俺はどうすべきなのか・・・・・・)
救世主ということは、何か独裁者的な存在がいるのか?
世界を救うべき? それとも勝手気ままに過ごすべき?
そんなことを考えていると、
「跪いてお手だ!」
(・・・・・・は?)
数瞬のときの後、
俺の首から全身へと激痛が走った。
俺は痛みで叫びながら、床をのたうちまわる。
徐々に痛みがひいて、周りの声が聞こえてくる。
「よーし、うまくいったぞ」
俺を踏みつけながら高級そうな黄色の服の男が言う。
言っていることが理解できなかった。
「みぐるしいものをみせるんじゃねぇ、これを着ろ」
周りからボロボロの服、上下を投げつけられる。
訳が分からず、ボーとしていると、また激痛が走る。
俺はまたしばらくのたうち回ったあと、言われた通りにぼろい服を着る。
「お前らみたいなイイ見てくれのやつは全員が転生者、それはつまり俺たちのための奴隷だ」
そりゃあ自由に容姿を決められるのならよくするに決まっている。
つまりは嵌められた。
転生という名の奴隷生産だったのだ。
(理不尽なことはないんじゃなかったのかよ・・・・・・)
「ひとまず連れていけ。こいつらは頑丈だ。この程度では死なん」
俺は地面に這いつくばったまま、手枷をされ、無理やり立たされる。
背中には硬い物が当たった。
振り返って見ると槍が腰に突きつけられている。
抵抗したいが命令に逆らった時の激痛が脳裏に焼き付いていて無理だった。
「歩け」
命令されるがままにローブの男について行く。
「入れ」
すぐ近くの小屋の地下に鉄格子のついた牢があり、俺はそこに入れられた。
他にもいくつか牢が並んでいるが人の気配はない。
今のところ俺だけの施設のようだ。
ガチャリと鍵が掛けられ、格子越しに手枷がはずされ、男たちは去っていく。
「待ってくれ!」
去っていく男たちに声を掛けるが無視された。
ギィ、バタンと地上へのドアが閉じる音がした。
(実は超パワーだったりしないか?)
鉄格子をこじ開ける感じで力を入れてみる。
しかし、ビクともしない。
(それなら床を掘って脱出!)
ペタペタと手あたり次第触ってみる。
床は全面が石で掘れない。
奥の壁も石でできており掘ることはできなさそうだ。
(魔法はどうだ?)
「ファイヤー! アイス! ウォーター! ウインドカッター!」
右手をグーパーしながら振りおろしてみたが、何も起きない。
(そういえば地下なのに真っ暗ではない?)
通路をよく見ると光る石がポツポツと埋め込まれている。
これで地下内でも明るいようだ。
(牢屋、ここの中にあるのは壺と薄い木片か)
壺は蓋つきで、中は空。
高さと大きさは30㎝ほど。
おそらく壺はトイレだ。木片はトイレットペーパー。
流石に陶器の壺をぶつけても格子は壊れないだろう。
(割って破片で格子を削るとかはどうだ?)
そう思い至ったが、すぐにやめることにした。
もし男たちの機嫌を損ねて、また激痛が走るのはどうしてもイヤだった。
そうすると、とりあえず打つ手なし。
俺は体育座りで人が来るのを待つことにした。