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第8話 母と、思いやりの心

母は、食に限らず、回りの人や相手の気持ちをよく見ていて、配慮するのが本当にすごいと思っていました。そして、それが食に関しても、特に発揮されていたように思います。


自分と父と姉の3人の言動などをよく見ていて、それが食事のメニューに表れていました。


たとえば、自分や姉の場合、学校の試験が近づくと、自分たちが好きで元気が出そうなおかずを1品加えるとか、夜、勉強をしていると夜食を作ってくれるのですが、はっきりした味なのに、消化のいいメニュー。ここは、母の腕の見せ所。たとえば、鶏ガラ出汁の、そうめんを使ったラーメンとか。美味しいのに重くなく、食べたあとも、すっきりしているので、そのあとの勉強にも影響がありません。


それから、特製のおじやです。卵がやさしい味ですが、消化がいいし、そのやさしい味の中に、少しの胡麻油のアクセントがなんとも食欲をそそります。とにかく、食べて重くなく、それでいて栄養満点で、元気が出て、やる気もでます。


ところで、父の会社は、父が事務所にいて、輸入した穀類などを買いに多くの業者がやってきます。取引先の多くの会社から来る人は、決まっていつも来る人たち。その人たちは、いいおじさんなのに甘いものが大好きな人がなぜか多い。そこで、母は、冷蔵庫にいつもケーキを常備しておきます。


普通、お茶菓子と言えば、ちょっとしたお煎餅とか和菓子とかクッキーのようなもの。しかし、母は、その人たちのために、ケーキを用意しておくのです。それも、そのケーキは、その人それぞれに好みのケーキを買っておくのです。チョコレートケーキが好きな人、はたまたショートケーキが好きな人、フルーツがたくさん乗っているのが好みの、見た目のイメージとはあまりにも違いすぎる社長さん。おまけに、お茶が好きな人、コーヒーの人、紅茶が好きな人、コーヒーはブラックかミルクだけかとか、そういう好みまで熟知しています。


それに、例えば、数種類ケーキをお出ししてお好きなものをお選び下さい、みたいなことでも充分親切だし、その方がかんたんかもしれません。しかし、あらかじめ、一人一人の好みを知っていて、それをお出しする。自分の好きなケーキでおもてなしをされたことと、好きなものを覚えてくれていた、というそのこと自体も、ケーキにプラスした、母からのおもてなしです。


今でこそ、スーパー、コンビニ、どこででも簡単に買えますが、 当時は、ケーキはケーキ専門のお店でしか買えなかったので、それらの好みのケーキを買い揃えるのも、けっこう大変なことでした。おまけに、毎回、そのおもてなしのケーキはなるべく同じものを続けて出さないようにしていたようです。


母は、とにかく、いつも人のために常に動くというすごい人でした。そのおもてなしの思いやりの心、この心こそ、母の料理の美味しさを生み出す元になっているのかなと思いました。母曰く、自分は作る人であり、自分以外は食べる人、食べる人には常にもてなす気持ちで料理を作る。そして、美味しいものを食べた時、人は、元気になるし、幸せになる。だから、常に美味しいものを追求して、進化していきたい、ということです。

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