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第6話 母と、お弁当

朝、目が覚めると、台所から、トントン、トントン、と、まな板で切っている音が聞こえてくる。これは、普通の家庭の話しであって、実は、うちは違っていました。


うちの場合は、ペッタン、ペッタン、という音がする。


それは、母は、朝から手作りでハンバーグを作っているのです。手ごねで空気を抜いている音。自分は、中学生になってお弁当を持っていくのですが、母は、冷凍食品ではなくて、手作りでハンバーグを作ってくれるのです。それも、当日の朝作っていました。料理好きの母は、決して手を抜きません。お弁当のおかずなんて、前の日の夕飯のおかずの残りとか、そういうのが定番だけど、母はすべて手作り。おまけに、すべて当日の朝作っています。


例えば、定番の卵焼きなんて、ただ焼くだけではなくて、その都度、出汁を入れたり、色々と炒めたものを入れたり、中身の具材のバリエーションも豊富で毎日変えてくれます。ご飯自体も、上には、そぼろや炒り卵などなどで、三色にして彩りも鮮やかに作り、これまた定番の唐揚げなどは、母の特製で絶品なんです。こんなお弁当が毎日でたら、学校で昼食が楽しみでたまりません。当時といえば、お弁当用の冷凍食品なんてほとんどありませんから、メニューも母のすべてオリジナルなんです。


中学は男子校ですが、やはり人のお弁当の中身は気になるもの。色々とみせてもらうと、いましたいました、強者たちが。ソーセージを炒めたものだけが入っているお弁当。焼き魚だけご飯に乗っているお弁当。さすがに強烈だったのは、ご飯だけ詰まったお弁当箱に添えてあるレトルトカレー。 


それに比べて、自分のお弁当は夢のように思えました。


さっそく、持っていくと、寄ってきました、食いしん坊たち。

「おおっ、宮本君のお弁当すごいな。なにこれ、綺麗だし、売っているのみたいだ。唐揚げとか美味しそう、ちょっと一つくれよ。」

「ええっ、すごい。僕にもくれよ。」


聞きつけて、何人も集まってきて、あっという間におかずはなくなって、自分は最後にご飯だけ食べました。

うちに帰ると、母に


「お弁当のおかず、みんなにぜんぶ食べられて、まいったよ。お昼になったら、どこかで隠れて食べることにしようかな。」


すると、母は、

「まあまあ、ありがたいじゃないの。そんなに美味しいなんて言ってくれるなんて。」

「えっ、だけど、ぜんぶ食べられたんだよ。おかずがなくなったんだ。」

「ありがたいじゃないの。そんなに喜んでくれて。明日から、みんなの分も作るから持っていきなさい。」


次の日、朝、台所に行ってみると、なんと大きなお弁当箱。自分のお弁当箱の3倍はありそうな大きさです。

「大きいなあ。ちょっと大きすぎない?こんな大きいと思わなかった。」

「いいじゃない。みんなに食べてもらえるわよ。じゃあ、これから、毎日もっていくのよ。みんな喜ぶわね。」

「えっ、これから毎日?」

「みんなに宜しく言ってね。」


母の勢いに押されて、仕方なく大きなお弁当、頑張ってもっていきました。

「わあっ、すげえ。」

みんな大喜びで、みんな食べる食べる。あっという間にになくなりました。今までこなかった人たちも聞きつけて、集まってくるようになり、とうとう担任の先生まで、時々つまみにきます。


母にこのことを伝えると、とても喜んでくれて、もっと大きいのにする?と言われましたが、さすがに断りました。


それから、1年続いて、中学2年になり、クラス替えもあり、やれやれここまでかと思いきや、他のクラスに行った友人たちもそれぞれお弁当箱の蓋を持って取りにきて、足早に帰っていきました。


というわけで、中学の3年間続きましたが、実は、どうやら1番喜んでいたのは、おかずを取りに来た友人たちではなくて、毎日たくさんのおかずを作ることができた、うちの母だったようでした。どれだけ、料理を作るのが好きなんだろう、と思いました。



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