第3話 母と、究極の汁もの
母が作る料理、そのレパートリーは、相当数あって、母が編み出した料理も数知れず、父の言いつけで、食事の際には必ず5品以上おかずを出すことになっていますが、母曰く、例えば、朝昼晩、一日三食、一度に5品ずつおかずを出すとして、毎回被らずに、3年間異なるおかずを出す自信があると言っていました。
その母の1、2を争う得意料理は、味噌汁で、実は、私たち家族は、外食で味噌汁を飲んだことがありません。父も、こればかりは口にしていましたが、うちの味噌汁を飲んだら、よその味噌汁はドブ汁のようで飲めたものじゃないと言っていました。どんなに味噌汁が売りの店に行っても、そこそこ飲めますが、母の味噌汁にはとてもかないません。
だいたい、母は、そのために味噌を何種類かを割合を変えて、合わせて使います。そして、鍋に入れる際、必ず、網で丁寧にこしながら、溶いていきます。網でこして溶かないと、粕が残り、えぐみが微妙にでてしまうというのです。出汁の取り方や、火加減も絶妙で、母から作り方を教えてもらっていた姉も、そこまでの味は出せなかったようでした。とても繊細で、その出汁の味は完璧で、これを飲んだことのある知人は、美味しいという感想はもちろん、この味噌汁の出汁の旨さには感服していました。
和食の料理人の達人は、潮汁という汁ものを作ることがあるらしいのですが、なんと味付けは、たった塩だけというなんという繊細な味付け。母の作るお味噌汁には、これにも似た味の繊細さが求められているのだろうと思いました。
私が、その後、妻を初めて実家に呼んだ時、母の作った夕飯の味噌汁を飲んだ時、あまりの美味しさに相当に驚いていました。もう、よそでは飲めないと言っていました。そんなすごい料理、誰か母の料理を受け継いでほしかったと今更ながら思う今日この頃です。