第17話 母と、こんなものまで
ある日、夕食の時間になりました。私は、母から頼まれて、夕飯のテーブルに新聞紙を敷いて、回りを留めていきます。そうです。今夜は、焼肉なのです。新聞紙を止め終わると、ホットプレートを運んで、配線の準備をします。
「おっと、忘れてた。」
冷蔵庫に向かい、ドアを開けて、懸命に探します。が、見つからない。当時、うちでは、エバラ焼肉のたれ、一択です。市販の焼肉のたれは、当時はあまり種類がなかったですが、うちはこれでした。ところが、これが見当たらない。母に聞くと、あるから大丈夫だという。ということで、たれは母に任せておこうと。
肉や野菜を運んで、全員食卓についた。たれが、まだきていないと思っていたら、見たこともない瓶を、母がもってきました。中身の色からすると、焼肉のたれらしい。
聞けば、父から、もっと美味しいたれを作れ、と言われて作ったのだという。色々な野菜や果物を入れて、煮込んで、かなりの時間と手間がかかったらしい。見た目は、濃い茶色をしているけれど、さらっとしている。肉を焼いてから、つけて食べてみる。
しかし、これが見た目の色とは大違いで、意外にさっぱりでさわやかだけど、しっかりした味付けなのです。エバラのとは大違いで、これまで食べたことのない味でした。果物が入っているせいなのでしょう。母は、こんなものまで作ってしまった。ところが、母は、このようなものを作るのも得意だったのです。
別のケースの話しになりますが、うちの家族は、夏場の暑い時、風呂上がりに、かき氷を食べます。自分が作る係で、氷を作っておくのも、かき氷機の準備も、各種シロップの調達など。当時のメニューといえば、定番のイチゴに、メロン、レモン、カルピスなどですが、1番人気は、圧倒的にイチゴです。多めに買っておいても1番最初になくなるのですが、ある日、冷蔵庫から出そうとしたら、イチゴシロップの瓶の中身の色がなんか違う。母に聞くと、自分で作ったという。
というのは、いつもかき氷を食べていて、もっと美味しいイチゴシロップが作れないかと思っていたようで、色々と試して作ったようです。とにかく、すばらしく美味しかったのですが、こんなものまで作ったのかと思っていたのですが、いえいえ、それにはとどまらない。
たとえば、中華料理や様々な料理に使うラー油ですが、母はこれも自家製です。普通に売っているものはただ辛いだけのものが多いですが、やはり、作ったものは味わいが深くて全然違う。あと、マヨネーズも、ドレッシングも、その料理用に作ります。
そして、一つ料理を作ると、そのための特製ソースを作ったりもします。普通、料理に直接味付けをしますが、料理によっては、ソースを作って後からかけるというやり方の方が、より味わいが引き立つ場合があるらしいのです。やはり、味の出し方を知っているので、その料理の味の攻め方がわかっているのでしょう。父は、ソースの後付けもけっこう好きなので、そういう理由もあって、考えてもいるのかもしれませんね。