第10話 母と、進化するサンドイッチ
時は、かなり遡りますが、私が小学生の三年生くらいの頃でしょうか。もうかれ、かなり前のことになります。初めての遠足で、お弁当を持って行くことになりました。この時が、私が生まれて初めて、お弁当を持っていくことになった時で、また、ちょっとおおげさな言い方ですが、実は、この時初めて母の料理が家族以外の人に食べてもらうこととなったのでした。
遠足が近づいてきたある日、母から、
「遠足のお弁当、サンドイッチでいい?」
正直言って、普通のお弁当かおにぎりかと思っていたので、意外でした。もちろん、どちらも美味しいし、必ずどちらかと思っていたので嬉しくてテンションが上がりました。
そして、遠足の当日、母は、4時から起きて作っています。そして、出来上がり。
「お弁当箱は、大きいのと小さいのと2つあるから、小さい方は、サンドイッチで、少し大きい方は、おかずが多めに入ってるから、お友達にあげなさい。」
と言われても、もう蓋がしてあるので、今は中身は見れませんが、まあ、それはもう行ってからのお楽しみということにしました。
初めての遠足は、確か都内の博物館か何かだったと思います。山登りのような体力的にきついものではないので、それほど疲れもなく楽しく見て回り、いよいよお昼の時間です。
蓋を開けると、3種類のサンドイッチが彩りもきれいに詰めてありました。なるほど、これなら、お弁当やおにぎりよりも、更に、見栄えも良く、同級生の女の子たちに見られても、ウケそうな気がしました。一方で、おかずは、唐揚げにウインナーと、たしか、しょうが焼きが入っていたと思います。
ああっ、危険なんです、このしょうが焼き。唐揚げも美味しいんですが、このしょうが焼きは一度食べたら止まらなくて、本当に危険です。無限ループのしょうが焼き、これを入れたのかあ、と思いました。自分だけじゃないおかずにとは、本当に危険危険。案の定、みんなは唐揚げやウインナーは自分たちでも持ってきているので、しょうが焼きは珍しい。みんな、おかずに興味津々、そして、このしょうが焼き、一つ食べたら、最後、あっという間になくなりました。結局、自分は、結局、唐揚げを一つ食べただけでした。
仕方なく、気持ちを切り替えて、とにかく、メインはサンドイッチ。三種が定番で、一つ目は、ハムサンド。基本はマヨネーズですが、微妙にマスタードと他にもスパイスが入っていて、マイルドなマヨネーズにほんの少しだけスパイスの刺激の後味があとを引きますアクセント。絶妙な刺激が子供にも受ける味。そして、2つ目は、タマゴサンド。ゆで卵を粗く砕いて、マヨネーズと母の特製ソースを入れて混ぜていく。パンの両側にマーガリンを塗って、混ぜたタマゴを盛り付けてパンで挟み込むというシンプルな作り方。でも、卵の厚さは、なんとたっぷり2㎝以上。なんともいえない卵の味が、重くないのに、しっかりと主張して大満足。
そして、3つ目は、野菜サンド。これが、使うパン二枚の両方にマーガリンを塗って、パン全面にレタスを敷いて、千切りにした赤キャベツをお酢、醤油、胡椒、マスタード等々を混ぜた特製ドレッシングに絡めたものをひきつめて、その上に薄切りにしたきゅうりを、さらにひきつめて、パンで挟んで出来上がり。この、赤キャベツをドレッシングで絡めたものがなんともいえない。やさしい野菜だけなのに、この赤キャベツの千切りが特にいいのです。そして、本当なら、この野菜サンドは、母の特製のしょうが焼きと一緒に食べるように言われていたのですが、しょうが焼きは、友達にぜんぶ取られてしまったので、今回は仕方なく、野菜サンドだけで食べました。もちろん、これだけでも、とても美味しかったです。
この3種のサンドイッチは、母のサンドイッチの初期形だったのですが、実は、ここからなんです。野菜サンドもハムの質が向上して、縦長に1㎝幅に切ったあと、きゅうりも同様の長さと幅に切り、パンにマーガリンを塗ったあときゅうりとハムを交互に並べて乗せます。塩胡椒をして、母手作りの玉ねぎから作ったドレッシングをかけたら、レタスを全面に乗せて、最後にパンで挟み込む。グレードアップして最高でした。
あとは、サンドイッチ用に考えたトンカツを自家製のウスターソースにくぐらせてから、マスタードを塗ったパンに挟んだカツサンドです。これがまた美味しいのですが、極めたのちに生まれたのが、ローストビーフサンドイッチ。
これが、そこまで難しいわけではないようですが、なんせ手間がかかります。塩胡椒をすり込んで、3時間置くとか、周りをしっかり焼かないといけないのに、中は赤身がしっかりと残らないといけないのに、生ではないという焼き加減が絶妙で難しい。あっ、やっぱり難しかったですね。
どうやら、母も、一度で成功したわけではなくて、最初は微妙にステーキサンドイッチになってしまったようですが、この、ローストビーフサンドイッチは、かなり回を重ねて進化していき、その極め付けは、その特製ソースでした。
これが、2種類あって、玉ねぎとニンニクのソースに、ワサビ醤油ソース。この2種類が、まったく違う味付けで、このソースにサッとくぐらせてから、パンにはさんで出来上がりです。これが、宮本家の、母特製の究極のサンドイッチになりました。使う牛肉も高いものをあえて使うので、ちょっとお弁当には、もったいないと思ったものでしたが、この昔からのサンドイッチの進化をたどると、母の料理道の進化してきた流れをとてもわかりやすく感じて、母のすごさを改めて感じたものでした。感謝感謝の一言です。