◆序章② 契約解除
「あっひゃっひゃっひゃ! ……どうせ、お前みたいな〈アホ〉は、『リトポロジー』の意味もわかんねぇだろ⁉」
ある日、ベテランエンジニアの振山スエオに、社長の前で罵倒された。
(えぇ……? そんなもん知ってるどころか、毎日その作業してるんだけど……)
反論したかったが、社長の前だったのでその場ではグッと堪えた。
趣味で既存のゲームモデル使って遊んでるだけの男に知ったかぶりされて、バカにされるのは普通に納得いかないし、腹立つ。
博士号を持つ振山は自分以外の全員をバカにしていたが、相手が知っている事を、知らない前提で話すのはナンセンスだ。どっちが〈アホ〉なんだかな……。
あの会社は、魑魅魍魎が巣食う魔窟だった。どいつもこいつも、他人を見下したり、出し抜いて蹴落とす事しか考えていなかった。
そういった環境だからか、社員が男子トイレで自殺未遂を起こした事もあった。血痕が生々しかったのをよく覚えている。会社はそれを隠蔽した。
セキュリティがいい加減で、社内で泥棒騒ぎが起きた事もあった。深夜1時に会社に戻って来て、プレゼント品を盗んだ奴がいたらしい。
以前、締め切りに追われた俺が0時半まで深夜残業してた時、アルバイトの中城ダイジが会社に戻って来た事があった。
そもそも一般的なオフィスビルなら深夜入室は不可だし、泥棒騒ぎの後で怪しまれても仕方のない行動だったので、先輩として「それは良くないぞ」と注意した。
そしたら、かなり優しく注意したのに『パワハラ』扱いを受けた。なんでやねん。
その時は、それが後々〈尾を引く〉とは思わなかった。
どうやら、裏で俺の事を潰そうと画策している連中がいたようだ。
さらに立て続けにストレスが溜まる出来事が起きた。
プロデューサーの山鷲ユウゴと、俺を蹴落としたがっていたデザイナーの背戸ダニエル、保科マヒトが共謀して、俺が以前から練り上げていたアイデアを盗み、勝手に発表したのだ。
これは思い込みなんかじゃない。
何故なら、他の社員達は「武見さんのアイデアなのに……」と、一緒になって怒ってくれたし、社長からも、俺のコンセプトデザインは、かなりの評価を受けていたからだ。
俺はその日、勝手に発表された事に怒り、オフィスの廊下で山鷲を問い詰めた。
「山鷲さん! ……さっき発表してたアイデアって、俺のアイデア……ですよね?」
「ははははは。……アイデアはね、実現した者勝ちなんだよ。君は会議室で楽しそうに話してただけでしょ? あれ? 企画書出してたっけ?」
山鷲は心の底からぶん殴りたくなるような憎たらしい顔でそう言ってきた。
「企画会議で社長が認めたのは、俺のアイデア……ですよね……?」
俺は、怒りの表情で睨みつけてしまった。近付いてきた背戸が俺に暴言を吐いた。
「プッ……何だよその顔? どうせお前なんかに企画は通せねぇよ。……バカだから‼」
「……は? お前、ふざけんなよ‼」
俺は思わず怒声を上げ、背戸の腕を掴もうとしたが、手を引いた。他の社員の目もあったし、余計に立場が不利になりかねない。
保科がお姉言葉で「やだぁ~ん。恐いぃ~」と、さらに煽ってきた。
山鷲と背戸と保科は、憎たらしい笑顔を浮かべ、その場を立ち去った。
そして数日後、俺は人事部長の明内ウミコに会議室に呼ばれた。こいつはバリキャリで嫌味な女だ。
その場には、副社長の峰岸シンノスケもいた。
峰岸は、大きな口の屈託のない笑顔で「困った事があったら何でも言ってね」なんて甘い言葉をかけてくれていたのに……。俺はハメられたような思いがした。
明内は、冷たい目線を俺に突き刺して言った。
「武見さん、暴言はいけませんよ」
「……いや、暴言って……むしろ自分の方が、いっつも罵倒されていましたが……?」
「言ったのは事実ですよね……? それは立派なパワハラです」
(俺の立場なんてそれほど高くもないってのに……?)
俺は唇を噛み締めた。確かに俺自身の言動は悪かったかも知れない。しかし、納得できるわけがなかった。さすがに俺は反論した。
「……で、でも、アイデアを盗んだ山鷲と背戸と保科が悪いんじゃあないですか⁉」
「……盗んだ? それは言いがかりですよ。武見さん。社内で話したアイデアなら、それは会社に帰属します」
「だ、だけど……‼」
峰岸も肘を突いて身を乗り出してきた。
「あなたに対するクレームが、多数入っています。バイトの子からも、パワハラがあったと報告を受けているんですよねぇ~……」
峰岸の笑顔が悪魔の笑顔に見えてきた。
「な……⁉ むしろ、パワハラされてるのは俺の方じゃないですか⁉ 何度も酷い言葉で罵倒されてましたよ⁉」
明内と峰岸は、全く聞く耳を持たなかった。
「ですので……契約は今月末で終了という事で、ご了承頂けるでしょうか?」
俺は契約社員だった。しかし、そもそもこの会社にはほとんど正社員がいない。
「……⁉ 納得できません……‼ 年契約したばかりですよ⁉」
明内が書類をスーッと出してきた。
「この書類にサインを頂ければ、プラス『2か月分』の金額を合わせてお振込み致します。会社はあなたとの契約を今すぐに打ち切る事も可能です。いかが致しますか?」
俺は悔しくて、しばらく無言で書類を見つめた。目が充血するような感覚があり、うっすらと涙が出かかっていた。
その時の俺には冷静な判断ができなかった。
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この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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最終的には縛りがありつつも、【主人公が圧倒的な強さで無双する物語】です☆
ゲームやアニメのアニメーション経験者ならではのアクション描写にご期待下さい!
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