◆第二章② 目覚めと戸惑い
気付いたら見知らぬ天井……古い遺跡のような場所に俺はいた。
「……どこ、ここ?」
少し頭がボーッとして、しばらく茫然としていた。俺はどうやら若いお姉さんに抱きつかれているようだ。俺の身体に豊満で柔らかい素敵なものが当たっていた。
「……あ、あれ? 何だ? この状況……」
お姉さんはギューッと強く抱き締めてきた。凄くありがたい状況だったが、気絶から目覚めたばかりで身体が疲れているのか、少し痛かった。
「ちょ、ちょっと痛い……かも」
(あれ? ……なんか声がおかしい……)
「あ、ごめん!」
そのお姉さんはバッと少し離れた。
(うぉっ、なんてかわいいお姉さんなんだ!)
俺は顔を見て「痛い」と言った事を瞬時に後悔した。めちゃくちゃ綺麗なお姉さんじゃないか! 人種はわからなかったが、とにかく俺の好みのドストライクのめちゃくちゃかわいいお姉さんが目の前にいるじゃあないか!
(外国人? いや、ハーフか?)
茶色みが強めの金髪で、パッチリ二重で優し気な目に、綺麗な鼻筋、痩せているがシャープ過ぎず、少しふっくらした柔らかさを感じる輪郭で、ぽってりした薄いピンクの唇もかわいい。東欧系にいそうな雰囲気だと感じた。
(何だこの状況? 夢? それとも新しいVR? 俺、そんなの体験してたっけ?)
そう言えば、聴いた事がない言語を喋っているのに、何故か理解できていた。自分から無意識的に発する言葉も外国語っぽい。何故か言葉が通じた。自分が話したい事が、初めての言語でスラスラと喋れているようだ。自動翻訳機能付きのVRなのだろうか?
VRゴーグルを装着していないか頭部を確認したが、何も装着していない。頭をガシガシ触る様子をお姉さんは心配そうに見ていた。
俺は心の中で「こんな事があり得るのか?」と戸惑った。
傍から見たら、割と短時間で色々と考え過ぎていたようだ。お姉さんは両手で軽く肩を揺すってきて、心配そうに見てきた。
「ほんと、大丈夫⁉ 痛い所はない⁉」
「……痛い所……ちょっと全身筋肉痛みたいな感じはあります……」
「き、筋肉痛で済んだの?」
「……は、はい」
(あれ? やっぱ声がおかしいな)
俺は身体の痛みより精神的な戸惑いが大きく、状況把握ができない。理解に苦しむ。
それよりこの女性は誰なんだろう?
彼女は俺の事を知ってるようだし、名前を聞くのは失礼だろうか?
さっさと聞けば良いのに、変に遠慮して中々聞き出せなかった。
ちょっと肩を回すように動かしたり、頬を触ったりしてみた。それで自分の身体の異変に気付いた。ほっぺの柔らかさが違う。妙に柔らかい。
何か身体が小さいし、肌もやけに白いし、女性物っぽい服を着ているじゃないか。
「あれ? ……なんかある……えっ⁉」
若干の胸の膨らみに気付き、触る。柔らかい。
(ちょっと待て待て……なんかの人体実験か? 俺の知らぬ間に性転換手術された⁉)
太腿とお尻を触る。柔らかい。恐る恐る股間に手を伸ばす。
(ない! ここにあるべきものが……、な、『無い』!)
「あっ」
俺は少しビクッとしてしまった。変な所を触ってしまったようだ。
「ちょっと……頭打ったのかも知れないけど、いきなり何してるの? 大丈夫?」
お姉さんが不審がって見てきた。
(ヤバ! 何て恥ずかしい事を人前でしてしまったんだ俺は⁉)
「あ、ごめん……。おしっこしたいのかな?」
お姉さんは真顔になり、母親が子供に聞くように言った。
「あ……え……と、大丈夫です! あははは……」
「それなら良いけど……」
お姉さんは訝しげな顔で見てきた。
(い、いや、何も大丈夫じゃないぞ……俺はれっきとした男だ……アレが無くなったら困る! どうしたらいいどうしたらいい……)
ここで考えても答えが導き出せるわけがなかった。
「大丈夫? レイリア?」
(レ、レイリア⁉ だ、誰~~⁉)
俺はそう呼ばれた事に驚きを隠せなかった。
「えっと……、レイリアって、もしかして、俺の事? ……ですか?」
(お、女の名前……だよな?)
お姉さんは目を丸くした。いや、目がグルグルしてた。
「え? え? レイリア?」
お姉さんは俺の頭を触ったり肩を触ったり、少し慌てたように俺の事を見回した。
「い、いやっ。レ、レイリア? ま、まさか……、記憶喪失? それに『俺』って⁉」
(え、そうなのか? 俺は武見和親……だよな……え? もしかして、これって……まさかの……て、てん……てん……)
俺は何かを言いかけて、口をパクパクさせた。
「あ、そうだ! あ、あの! 鏡! 鏡、持ってますか?」
「あ~、鏡? 入れたかな……あ、あった。はい」
お姉さんは美しい装飾と宝石の付いた、とても綺麗な金色の鏡を渡してくれた。
俺は心の中で「高そうな鏡だな~」と思いながら覗き込んだ。
そこで、信じられないものを見てしまった。
(……は? ……誰だ? この美少女は……?)
頬っぺたをつねる。痛い……。
(え? 俺……? この子……が? めっちゃ綺麗な目だな~。カラコン?)
近付いて見てみる。カラコンじゃないようだ。まるで宝石のように美しく蒼碧色に輝く瞳。雪のように純白に輝く髪で、内側は蒼みがかっている。そして透き通るように薄く白い肌の猫顔の美少女だ。
(髪の毛、真っ白じゃん……確かに最近そういう子もSNSでは見かけるけど……)
俺は色んな角度で顔を見回してみた。髪の毛を動かすと、ダイヤモンドみたいにキラキラして、反射した時に少し色味が違って見える。こんな綺麗な純白の髪は見た事がなかった。お姉さんはその様子を心配そうに見ている。
(おいおいおいおい……ちょっと美少女過ぎないか?)
ちょっと前に話題になったAI美少女みたいな美しさだ。何故か、今の自分の顔を見て顔が紅くなった。よく見ると、耳が少し尖がっている。俺は自分の耳を引っ張ってみた。
「ん? え? 何これ……ねぇ、何で尖ってるの?」
「⁉……自分の事も忘れてる……?」
お姉さんは物凄く驚いた顔をして、かなり動揺したようだ。
「ン! ン~!」
俺はそこでようやく、初めて見るパグ犬くらいの大きさの動物に気付いた。
クッションか何かと思っていた。
(何だこいつ? かわいいけど初めて見たな……ぬいぐるみみたいでかわいいな)
そのかわいい動物を見て、俺はホッコリした。撫で撫でしてみた。
「ふ、ふわふわだぁ……」
「ン~!」
俺は心の底からホッコリして癒された。撫でられたこの子も嬉しそうだ。
(あれ……? なんか見覚えある顔してるなぁ……まぁいっか)
癒された俺は、小難しい事は考えず、楽観的に考えるようにした。
(今深く考えても無駄だ。これはきっとゲームだ! 新しい体験型のゲームに違いない! 今だけだから、アレが無くなってたって、きっと元に戻るさ‼)
「この子、お名前は何て言うんですか?」
何気なく聞いたその一言にお姉さんはショックを受けたようで、少し後ずさりして心配そうに俺を見つめた。
「ど、どうしよう……アルル。アルルの事も忘れちゃったの?」
お姉さんが絶望的な眼差しで呟いたが、俺はアルルに夢中だった。
「……アルル……アルルかぁ~。よろしくな~」
「く~ん……」
気持ち、アルルも悲しそうな表情をしたように見えたが、俺はアルルの手触りが気持ちよくて『もふもふ』して、少し気遣いがなかったかも知れない。
「も、もしかして、私の事も覚えて……ない?」
お姉さんが絶望的な表情で言った。
「……ご、ごめんなさい。本当に……記憶喪失……みたいで……」
お姉さんは今にも泣き出しそうだったが、気丈に振舞ってくれた。
「……あっ、ごめん。ごめんねレイリア。泣きたいのはレイリアの方だよね……ごめん。わ、私は……私はブラダ……私達は姉妹のように育ってきたの……」
俺は咄嗟に閃いた。覚えていた事にしよう。嘘も方便だ。
「ブラダ……あ! ブラダ! ブラダの事は覚えてるよ! ごめん! 頭打って一瞬飛んじゃっただけなの! 大丈夫だよブラダ!」
俺は手を合わせて「ごめんなさい」のポーズをした。
「……ほ、本当に? そ、それなら良かった……」
ブラダは一瞬戸惑いの表情を見せたが、そう応えた。
俺自身はかわいいアルルを撫でた事で気分が癒されて、気持ち的にも落ち着いてきた。
(そう言えば『あの子』……あの子は無事だっただろうか……)
俺はこの世界に飛ばされてきたのだろうと理解はした。だが、元の世界で最後に出会った少女の事を思い出し、心配になった。
だけど、今はそれを考えている余裕はない。とにかく動かないと。
俺は立ち上がって、衣服をポンポンと叩き、周囲を見回してみた。
「うぉ!」
今更、魔物の死体がある事に気付いた。そういや、何かくせぇ気はしてたんだ……。
「うわ! うわ! ななな、何アレ⁉」
魔物とはいえ、人型の生き物の死体を初めて見た俺は、軽くパニックになり、慌ててブラダの方に向き直した。血の気が引いて行く思いがして、また気絶しそうだった。
「レ、レイリア、落ち着いて! あのトロールはもう死んでるから! 大丈夫!」
「え? え? ト、トロール⁉ し、死んでるから大丈夫……⁉」
(死んでるから大丈夫って何だよ⁉ 死んでるの大問題だよ! 死体だよ⁉ 死体! 初めて見た! 恐い! 気持ち悪い!)
俺は頭の中がグルングルン混乱を起こしたが、「……あ、でも魔物だから死んでた方が安全か! そうだ! ここはそういう世界なんだ!」と思い直した。
この間、体感では結構長かったが、案外数秒と短い時間で頭が回転していたようだ。
そ~っと改めて見てみる事にした。恐る恐る後ろを振り向く。
「うわぁ……グロぉい……」
(ブラダちゃん……こんなヤベェ場所にずっといたんスか……? ブラダ、スゲ~)
と、ブラダをリスペクトする気持ちが湧き上がった。
「立ち上がって大丈夫? 目眩はない?」
ブラダは母親のように過剰に心配してくれていた。
「だ、大丈夫ッス! 俺、この通り元気!」
俺は両手でガッツポーズして手を上げ下げして元気をアピールした。
考えてみたら、今の俺は、こんな言葉遣いは似合わない可憐な美少女だった。
「それなら良いけど……もう~! 何なの~? その喋り方~!」
「あ……わ、私は元気よ!」
「……。レイリアぁ~」
再びブラダは泣きそうになった。
「あ、ごめん! ほんと、記憶喪失みたい……なんです! ワタシ、いつも、何て自分の事を呼んでましたっけ⁉」
少しテンパって、カタコトになる。
「……。本当に忘れたの?」
(俺でも私でもない……まぁ俺のわけないけど……)
「うち?」
ブラダは首を振る。
「あたい?」
ブラダは下を向いてリアクションも取らず、黙って聴いている。
「え~、えーっと……、あーし⁉ ワシ⁉ わらわ? あた……ボク?」
適当に思いつく一人称を言ってみた。『あたい』を二回言いかけて、最後の『ボク』の辺りでブラダがハッとしたように見えた。
「ぼ……ボクって、ボクだよね⁉ ね?」
ブラダは無言で頷き、涙を拭った。良かった。『ボク』なら俺も普段から真面目ぶって喋る時に使ってたから、言い易い。これなら上手く話せそうだ。
相当参っていたのか、ブラダはこんな適当に連呼しても受け入れてくれた。
話の内容を理解していたのかわからないが、アルルも嬉しそうに飛び跳ねていた。
(いや、そもそもこの世界の一人称、日本語と同じ数あんのか? とりあえず、『ボク』に対応する一人称がこの世界にもあるって事だな……)
どうやら、この世界にない言葉を発した場合は、日本語の発音のまま聴こえているようだ。そして、レイリアというこの肉体が学習してきた言語は無意識的に自分で発する事ができているのだと気付いた。
(バイリンガルの人の思考ってこんな感じなのかな? てか、ボクっ子で草)
と、俺は心の中で呟いた。悪い癖だ。
「ねぇ、改めて聞くけど、ブラダ。どうしてボクの耳、尖ってるの? 髪も白いし……」
「レイリアはね、ハーフエルフなんだよ?」
「……は? ハーフエルフぅ~⁉」
俺は目がグルグル回るような感覚を覚えた。
「あはは……自分の事なのに、そんなに驚く?」
(エルフとか、そんなのマジでいるのかよ⁉)
色々と理解が追い付かないが、少しずつ自分自身の事と、この世界の事を学んでいくしかなさそうだ。
とりあえず、トロールの死骸が気持ち悪いし、こんな場所には居続けられないので、この不気味な大広間=『祭壇の間』から出る事にした。
最終的には縛りがありつつも、【主人公が圧倒的な強さで無双する物語】です☆
ゲームやアニメのアニメーション経験者ならではのアクション描写にご期待下さい!
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