聖戦の始まり
いや〜月日が経つのは早いね〜……うん、相対性理論って奴かな?……この2週間、只管蠱毒して、只管育成に勤しんだ結果、何とか目標の25万を超え、30万の魔物を造り終えた。
「いや〜相手さんも中々仕上がってるね〜」
此処からでも分かる、濃密な殺気、守護者の個々の練度の高さ……うん、うん♪
「スバラシイ♪」
コレは、蹂躙し甲斐の有る、怯え、緊張、警戒、しかし自信も内包している色……そうだろうとも、己の全力を尽くして仕上げた今最高の肉体が、ソレなのだから……だからこそ。
「だからこそ、それが相手に歯が立たず、蹂躙され、尽くを否定された瞬間は、何者にも代え難い絶望を魅せてくれるのだろう……ケヒッヒヒャヒャッ♪」
――カツッ――
「さぁ、祭りの音頭を取ろうか♪」
――ズオォォォッ――
――ギュンッ――
○●○●○●
聖皇国の城壁前には、それはもう多くの、万を超える守護者が並んでいた……皆が皆、熟練の冒険者の様な鋭い顔付きで、来たる厄災の狼煙に身構えていた……そして、王都の鐘の音が鳴ったその時。
――ズドォンッ――
壁に、地面に、無数の槍が突き刺さる……そして。
『「あ、アーアーアー……オーケー、聞こえているようだね……ンンッ」』
何処か飄々とした声が、彼らの耳に入る、そして。
「『やぁやぁやぁ、始めまして、そしてお久しぶり、皆様御存知ハデスだ♪』」
その言葉に皆が殺気出す、それを感じだったのだろう、ハデスの声が悦を含み始める。
「『いやぁ、此度は私のゲームに万もの守護者の皆様が参加して頂き、感謝いたします、皆様とても鍛えられた様で、街の人間も安心でしょう』」
心にも無い事を吐きながらハデスは続ける。
「『いやはや、こうも皆様が強いと、私如きの用意した玩具が太刀打ち出来るのか、不安です、不安ですね〜……コレでは何方が挑戦者か解ったものではない……だが』」
「『それでこそ遊び甲斐の有るゲームと言う物、互いの用意した駒で存分に削り合い、目的を成す、その果てに何を得、何を失い、何を憎み、何を嗤うのか……愉しみだ♪………さて、長話が過ぎたね、そろそろ前座は終いにしよう』」
――パチンッ――
『『『『※※※※※!?!?!?』』』』
ハデスが指を鳴らす、その直後、四の雄叫びが響き渡った。
「『さぁ、ゲーム開始の鐘は鳴り終わった……遊び遊ばれ、お前達はその果てに希望の終幕を下ろせるかな?』」
それだけを告げ、肉の槍はグズグズと溶け始める……そして。
『第三イベント、〝悪魔の聖戦〟を開始します!』
「ッ、標的確認――ッ竜です!」
『ッ!?』
そして、来る……地平線の彼方から影が、空を飛翔する狩人が……ソレに続く、地の影が。
そして、誰かが言った。
「ふ、巫山戯んなよッ……何だよ、アレは……?」
……と、大地を埋め尽くす、獣の群れ、しかし、それを見ただけで、守護者の心の奥底には深い恐怖が植え付けられた。
――魑魅魍魎――
複数の頭を持つ狼、異様に手の長い小鬼、継ぎ接ぎな身体の竜、多眼の蛇に舌が触手の蛙。
凡そ此の世の生き物では無い、明らかな異様、この世界に慣れた、この世界のに生きる者達でさえ、恐怖する化物の群れが、粘液を、液体を口から撒き散らしながら土煙を上げて駆けてくる……。
――ゴオォォォッ――
竜が空から紫の炎を蒔き散らす……すると、大地が爆ぜていく。
「グオォォォッ!」
大地を、硬い骨格で覆った大鬼が踏み砕きながら猛進する……。
「一度見たやり方が、そう何度も通用すると思ってないだろう?」
その光景を覗き見ながら、ハデスは苦笑いする……そして、その視線を1人の男へ向ける。
「お前の事だ……どうせ何か面白い玩具でも仕込んでるのだろう?」
眼鏡を掛けた、1人の男性を見据え、男は興味に顔を歪めていた。
○●○●○●
「〝呪狂百魂獣〟……厄介な化物を量産したものだ……」
プロフェスは、眼前の獣の群れを見て歯噛みする……この地に進軍する化物の群れ、蛙も、竜も、狼も鳥も大鬼も、その全てが、全く異なる容姿で有りながら、同じ〝種族〟なのだから。
(複合獣と同じだ、同じ種族で有りながら用いる攻撃手法はまるで別、実に厄介な……いや、だからこそ選んだんだろう)
「……〝我は叡智の探求者〟」
相手の不確定要素を推察していては何時までも完結しない、今は己に出来るサポートをせねばな。
「〝理を求むる者、理へ挑む者〟」
プロフェスの身体から、魔力が溢れる……莫大な魔力の奔流が……それはハデスですら予想だにしなかった、並外れた魔力の塊。
「〝我は代価を理に捧ぐ、三月の虚無を、そして我は見える、今一時の魔の頂きを〟」
〝対価と代償〟……いや、より区分するならば〝代償魔術〟だろう、兎も角、その術理は誰しもが持ち得る能力の先に存在する……〝概念の魔術〟で在る。
時を代償に何かを得る……金を払い物を得る、人が生きる上で必ず起きる、〝取引〟……代償魔術はソレをより簡易に、〝世界〟を相手に行う術理、使用者の提示する代償を元に対価を要求する、代償と対価が釣り合えばその取引は成立し、釣り合わなければ代償のみを支払わされる……リスキーだが、強力無比な術理にして、ハデスが最も早く至った力。
プロフェスの代償は〝三ヶ月の魔力消失〟、その対価として与えられるのは、〝1つの術の強化〟。
そして今、その取引は成された……プロフェスは今、世界最強の〝魔術師〟として、魔術師の頂きに立っている。
「〝火よ、水よ、風よ、土よ、四の力を包む無よ……我へ頭を垂れ、従え〟」
「〝我が眼前の尽くの敵を打ち払い、塵芥と帰せよ〟」
火の矢が、水の刃が、風の槍が、岩の槌が、幾百、幾千、幾万と空を大地を埋め尽くす。
「〝魔帝の災禍〟」
そして、魔術の王は、無慈悲に、冷徹に……その無尽蔵の色の刃を、眼前の群れへ振り下ろした。
血肉を焼き、声を飲み込み、臓腑を裂き、頭蓋を圧し潰し……瞬く間に、数を減らしていく。
「コレは……中々キツイ……しかし、フフッ」
――心地よい、全能感だな――
身体を支配する倦怠感と、頭痛に意識を薄れさせる中、プロフェスの呟きは、守護者の歓声に消える。
●○●○●○
「ハハハッ、やっぱり良いわコイツッ!」
全力の一撃とは言え、一手で五万も削り切ったかッ!
「うん、想定より守護者の生きが良いなぁ……うん……〝スパイス〟を1つ、投入しようか」
切る手札は……コレかな♪
○●○●○●
「撃て、撃てーッ!」
「プロフェスが稼いだ時間を無駄にするなよ!」
「距離が空いてる内に削れ!」
守護者の怒号ぎ響く……普段ならばピリついた空気と化すその怒号だが、守護者の空気は緊張感と共に希望に溢れていた。
戦場に現れた〝虹の弾幕〟、プロフェスの言の葉と共に現れたソレにより、彼等の脅威が遥か後方に見えるのだから。
プロフェスの献身を無駄にせぬ為にと、彼等の中に一体感が芽生え始めていた。
「そう簡単に建て直させるとお思いですの?」
――ゾクッ――
突如、空から女性の声が響いた……其処には、黒い翼の女性が居た……その身体から、恐ろしい程の存在感を放って。
「主様から承った任務、このグルーヴ、命に代えても果たしますわ……そして――」
〜〜〜〜〜
『お〜、流石だなグルーヴ、お前は本当に優秀で素晴らしいな!』
『いえいえ、私等とても主様の足元には』
――ガシッ――
『優秀なお前には、特別に1つ、御褒美を上げよう♪』
『あんっ、主様っ、いけませんわ、こんな場所で――』
『何、心配する――』
〜〜〜〜〜〜
「いやん、恥ずかしいですわ〜!」
と、特大な桃色妄想に耽り、ニマニマと顔を歪めるグルーヴに、矢と鉛が飛翔する。
「ん?何ですのこのゴミ?」
――パキッ――
グルーヴへ迫る矢と鉛の雨は、その瞬間全て砕ける……そして、グルーヴの周りで風が凪ぐ。
「ハッ!忘れてしまうところでしたわッ!……主様ッ、私は決してそんな事はッ」
――ジャキンッ――
「ふ、フフンッ!失態は功績で塗りつぶせるのですわ!」
――ブンッ――
女性が鉄扇を煽ると、風が飛ぶ、その風は瞬く間に大きく成り、そして眼下の塵芥の方へ落ちて行く。
「まだまだですわ!」
――ブンッ……ブンッ……――
鉄扇を煽り、空の上で、縦横無尽に、そして華麗に舞うグルーヴ。
その度に風は荒れ、大地は吹き飛ぶ。
「さぁ踊りなさい、滑稽な道化の様に!」
『悪いが、ソレはアンタだ』
荒れ果てた防衛施設の中から、不意に男の声が響く…土煙の中、荒れ果て、変わり果てた防衛施設の中で、唯一〝変わらない〟、硬い城の上で、厳つい大男が、無線機を片手に、空の貴女を睥睨していた。
『〝鉄打協会〟と〝クラフター〟の合作、その御披露目と行こうかねぇ!』
――ガシャンッ――
凄まじい圧力放出の音と、共に砦が動く……そして、その姿を変え、巨大な……連なる鉄の筒を覗かせた。
『さぁ、〝固定魔導機砲塔〟……否、真名〝ドラグ・ギアナ〟…標的固定……魔力供給開始』
――ギュウゥゥンッ――
砦の、大砲のような筒に、魔力が注がれて行く……それと同時に砲塔が回転し、魔力の光が円を作る。
『出力80!……さぁ、喰らいやがれ!』
――ドドドドドッ――
そして、砲身から巨大な弾丸が射出される……グルーヴ目掛けて。
「これしきの事ッ!」
――ギィンッ――
そして、砲弾と鉄扇が火花を散らし、弾丸が砕ける。
「この程度です――」
――『※※※※※!?!?』――
グルーヴの言葉が終わる事無く、背後の、遠くの獣達から絶叫が響き渡る。
「ッそういう事ですのね!」
グルーヴを無視して飛翔する弾丸の雨が、獣を蹂躙していく、大鬼の装甲も、竜のブレスも薙ぎ倒して、只管に蹂躙する。
「なら、その本体を潰せばッ!」
そう言いグルーヴが鉄扇を扇ぐ、しかし。
――ブゥンッ――
グルーヴの放った突風は、砦を包む様に展開された魔力の壁によって遮られる。
『悪いな嬢ちゃん、それも織り込み済みだ』
「ぐ、ぐぬぬぬぬッ……このぉ――ピィッ!?」
グルーヴが憤怒の顔をしながら、鉄扇を振り上げた直後……グルーヴが間抜けな声を上げる。
「ぬ、主様!?…い、いやコレは、直ぐに……き、帰還しろ!?…ま、待って下さい、それでは私の御褒―いやッ!任務が……え?大丈夫?……御褒美も有る?……そ、それなら……フヘヘへッ……分かりました!」
そして、一人芝居を始めたと思うと、上機嫌に飛び去る
「今回は見逃して差し上げますわ、感謝なさい!」
そんな、締まりの無い捨て台詞を吐き捨てて。




