円卓会議と蛻の殻
「偵察隊が殺られた?」
その声の主はそう怪訝そうに報告に来た隊員を見つめる…その声を皮切りに喧しい会議場はシンと静まり返り、皆がその男を見て続きを待った。
「お〜う……殺られたわ、本気で」
バンッ、と扉を開け放ち、粗暴な声が響く……その男は不機嫌そうに頭を掻き、自分の席にドカリと座る……その男の名はガラハド、このゲームでトップに存在するクラン〝円卓騎士団〟の一人、そんな彼が自身の負けを認めた……その事に、残る幹部連中は驚愕を禁じ得なかった。
「ガラハド、どういう事だ?」
「おうボス、どうも何も偵察隊も、俺も壊滅した……その報告書の〝死霊術師〟にな、いやぁ、魔法型と思ったら意外と近接も使えてなぁ、挙げ句妙ちきりんな技で何も分からんで殺されたわ」
「「「「「………」」」」」
その言葉に再度、幹部室内は沈黙に襲われる。
「……それで? 件の死霊術師の情報は?」
「あいよ、先ず情報の通り二人居たんだが、リクルの偵察隊を壊滅させたのがその死霊術師の部下?従魔?……取り敢えず死霊の執事みてぇな爺さんだった、ありゃ曲者だ、気配も無く真後ろに回って来る……んで本体だが……彼奴〝理の信仰〟の言ってた死霊術師の情報とてんで違う、異質な奴だった」
そう苦々しげに語るガラハドに、再度続きを促す男。
「先ず、死霊術の使い方が妙だ、普通の死霊召喚に加え、自身の身体を武器に変えられる、何でも〝死霊を作る際、術者の思考が少なく無い程影響を与える〟とか、で〝その影響を与える際に魔力が干渉して変化する〟、その理論で自身の身体を改変出来るらしい……あ、そうそう、ソイツ人間じゃねぇぞ? 魔物に成ってる」
「で、もう1個、俺が殺られた術なんだが……良く分からん……俺を囲む様に壁の屍人を召喚して……何か地面、いや地面の影か? が動いたんだよ……そんで少しした後に何かに掴まれて潰された……クソ怖えぞ?」
報告を聞き終えた後、円卓の頂点たる金髪の男は、目をつむり、少しして言葉を紡ぐ。
「至急討伐隊を編成、冒険者ランクC以上の守護者で〝軍〟を組む、万全の状態で〝西の廃教会〟へ進軍する、時間は2日後の朝だ」
「「「「了解」」」」
その伝令と共に各幹部は消えて行く……最後に一人、円卓騎士団の長は報告書を眺め顰めてつぶやく。
「絶対に討伐してやる」
――ジ〜〜ッ――
ソレを調度品の影から眺める〝眼〟に気付く事無く。
●○●○●○
「………んん、お?丁度夜か、重畳重畳」
さぁ、一度ログアウトして次の日、やる事済ませてログインすると同時にベクターが現れる。
「主様、例の〝円卓騎士団〟の動向ですが、幾つかの情報を入手しました」
「オーケー……悪いが紅茶淹れてくれ、喉が渇いた」
実際に不死者になってから食料関連は必要無いが嗜好品としてやはり求めてしまう物だ。
――カチャッ――
「ふむ……ま、概ね予想通りだな……ちと動きが鈍いが、コレなら其処まで焦ることも無い、現状の装備に関しても大した脅威では無いな」
「では……我々もそろそろ移動を開始しますか?」
「そうだな、頼んでた〝モノ〟は?」
「既に外へ運んであります」
「結構……それでは始めよう」
外套を羽織り、俺は地下室を出る。
「〝有らん限りの呪詛を込めて、私は新たな不浄を創る〟」
廃教会の直ぐ外に置かれた〝屍〟の数々を纏め、死霊作成を始める。
「〝私は求める、風を裂き、大地を駆ける駆動者を〟」
瘴気が包み、3つの繭を創る。
「〝強靭な巨躯を、怒涛の猛進を、屍の運び大馬、汝等へ我は名を贈る〟」
胎動する繭に言葉を紡ぐ。
「〝屍不の駿馬〟、〝強進の屍馬〟、〝悪護の怨馬〟」
『『『ヒヒィィィィンッ!!!』』』
瘴気の中から、三匹の馬が現れる……黒く、おどろおどろしい二本角を持つ大馬。
バイコーよりも一回り大きく八本の脚を持つ巨馬。
他2匹と違い、肌が灰色で、白い靄が包むように纏う灰色大馬の《アンヴァー》。
『死霊術のレベルが上がりました!』
『『『ブルルル……』』』
「良し、召喚して早々、悪いが急ぎの用が有る、今から創る馬車を引いてくれるか?」
『『『ヒヒィン』』』
「ありがとな……それじゃ〝死霊作成〟」
インベントリから百余りの死骸を取り出すと、瘴気が包む。
「……え〜っと? 大きさは……収納も……で、補助にクッションを……良々、コレでオーケー」
瘴気が晴れる……すると一つの大きな馬車と、3つの鞍が現れる。
「ベクター、スレイ達に鞍を着けてやれ、ヴィルは造った機材を馬車に運べ、死霊を何匹か寄越すから終わったら俺の手伝いを頼む」
「了解しました」
「あいよ!」
その辺の不死者を殺して作り変え納入作業に充てる……ベクターが鞍を馬達に着けるのを尻目に、俺は影を伸ばし空へ鳥の死霊を飛ばす。
「ん〜……街から此処までは結構離れてる、となると進軍は最短距離で済ませなければ夜に成るな……廃教会に行くのもおよそ数百、残りは敷地内の制圧……と考えれば、〝魔改造〟の宛が出来たな」
不死者をどんどん狩っていく……その死霊をどんどん集め、軽く山を作る……だがまだ足りない。
〜〜〜〜〜〜〜
「ふぃ〜! コレで良いか? 主」
「ん、おう上出来だな、後は放置して……そろそろ出発だな、夜は人目も少ない、見つかる前にサッサと移動するか……ベクター、頼めるか?」
「お任せ下さい」
廃教会に色々と仕込んだ所で俺達は北方の山へ馬を走らせる。
「それじゃ、今の内に着替えておこうかね」
インベントリを開き、ヴィルが作成した装備を確認する。
―――――――
【呪詛束ねの骨屍杖】
人の骨と呪詛を込めて作られた骨の杖、死霊の力を活性化させる呪具、その本質は呪詛を束ね、触れた者へ〝不治〟の呪いを与える悪辣な悪意である
効果①:不死者が所持した時、所持者の扱う魔術の効力が上がる
効力②:杖を媒体及び直接攻撃に用いた場合、攻撃を受けた対象は数秒間〝治療不可〟の呪いを受ける
効果③:この杖を所持しようと試みた者は呪詛による肉体奪取に見舞われる、呪詛へ抵抗が出来ない場合、所持者は死亡する
―――――――
「中々強力な武器だ……な」
『―――』
「『黙れ』」
触れた瞬間呪詛を吐こうとした杖を魔力で押し潰す……よし、掴んでも問題無いな。
「取り回しも十分、要望通り先端も鋭く尖っている……軽く、且つ硬い……良いな」
さて次は………は?
―――――――――
【黒呪絹の礼装(上・下)】
森蜘蛛の糸を加工した高品質な絹に呪詛で黒く染め上げ、貴に仕上げた一品、滑らかな着心地だが、所有者に呪いを付与する代わりに、並々ならぬ強靭さを得た呪われた服でも有る
効果①:着用者が不死者で有る場合その物耐と魔耐久を上昇させる
効果②:着用者はこの装備から肉体支配の呪いを掛けられる、抵抗出来なければ死亡する
―――――――――
「……完全に昔の貴族服……だよな?」
見てくれは黒い貴族服……いや普通の物よりは幾つかスマートだがしかし……コレはアレか? 俺に貴族の演技をしろと言うことかね?
「……性能は良いんだよなぁ? ヴィルが折角作ったもんだし……着るか」
渋々装備する……ってか主の俺に平然と呪いの装備渡してきたよな? 死ねってことか? それとも俺がこの程度で死なないという信頼ですか?
『死――』
『あ"?』
――ボシュンッ――
「………着てみると結構しっくり来るな?」
何と言うか収まるべき所に収まっていると言うか、初めて着た割に着心地が最高に良いと言うか。
「後……は……ふむ、外套と仮面ね」
此方は元から頼んであった物だ、仮面の装飾はヴィルに任せたが……〝道化〟と〝王〟か。
――――――――
【暗狼の黒外套】
平原狼の毛皮を黒に染め鞣した物、所有者に呪いを与え、その代わりに気配を消す力と、暗闇に溶け込む力を与えられた
効果①:着用者は夜間の隠密性能を上げ、常に軽度の気配隠蔽が掛けられる
効果②:着用者に肉体支配の呪詛を放つ、抵抗出来なければ死亡する
―――――――――
―――――――――
【道化と王者の仮面】
荘厳たる王者の面、胡乱で浅ましい道化の面、相反する面を持ち、同じクラウンを冠する面、彼は浅ましくも荘厳で有り、胡乱でありながら堂々と言葉を並べる、しかしてその奥底の醜悪な面は、固く不誠実な仮面に護られ、その中を覗けるのは唯一空いた双眸の穴だけである
効果①:着用者を見た者はその人物に対する観察能力の一切を妨害される、この効果は着用者が許可せぬ限り適用される
効果②:着用者の行動によってその面の性能は変化する
〈欺瞞ノ道化〉
特定の行動によって軽度のヘイト集中を付与する
〈謀ラズノ王〉
特定の行動によって周囲の仲間の能力を上昇させる
――――――――
「ほ〜う?……凄いな?」
どうやって二面の効果を付与したんだ? また呪いか? 呪いなのか?
――カッ――
「……何も無い?……のか」
少なからず落胆を覚えるのは何故だろうか? まぁ良い。
そんな事を感じながら、俺達は馬車に運ばれていった。