聖戦へのカウントダウン
――ガヤガヤ――
「お買い上げありがとうございま〜す!」
いや〜最近は卵が高くなって困るね〜、いや、卵のみならず他のも大概高くなってるが。
「取り敢えず昼食は何にしようか……ん?」
――ブーッ、ブーッ――
「通知……は……へぇ?」
買い物袋を腕に通し、スマホを除くと、其処には予定通りの文言が記されていた。
「コレは今すぐにでも帰らなければ♪」
●○●○●○
「態々御足労頂きありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ態々話し合いの場を設けてもらって助かります♪」
現在、俺の対面に凡そ8人、いや10人の人が居る……〝観測者〟の皆さんだ。
「無駄話は好きですが、観測者の皆さんは忙しいでしょうし、早速本題に入りましょうか♪」
その言葉にほぼ全員が顔を強張らせる……失礼な、そんな無茶ぶりは言わないと言うのに。
「いや実は、先日向こうの聖皇国とやり合いまして……と言っても見ていたのでしょうが」
「えぇ、存じております」
それなりに騒ぎを起こしたのだ、当然観察対象に成り得る事は考慮しているとも。
「その時に、勇者を殺してしまいまして……このまま国を滅ぼすのも一興ですが、プレイヤーの皆様の知らぬ間に国を滅ぼすのは如何な物かと思いまして……」
「…〝イベントとしてプレイヤーを参加させたい〟……と?」
「そうそう、その通りです」
眼の前の男は良いなぁ……色に波がない、感情の起伏が乏しいが、冷静で論理的な思考をしている。
「こちらの利益は?」
「それは用意してますとも……プレイヤーが戦う様を喧伝すれば良い、私が用意する魔物と人間の戦争舞台、混戦の中泥臭く足掻く人間、その様は良く映えるでしょうなぁ」
「……で、本音は?」
「〝彼奴等〟の絶望する顔が見たい」
おっと、そんなに怯えないでくれ、照れる。
「イベントとして参加している、ゲームだと割り切っているが既にこのゲームに触れた大多数はこの世界を第二の居場所と認識している、人間同然のNPCを既に〝人間〟と認識している、で有るならば彼等にとってこの世界の人の死は現実で眼の前の人間が死ぬのと殆ど同義だろう?……参戦した、怨敵の悪行を止めるために、人を護る為に、だが護れない、尽くを壊され、尽くを殺され、尽くを灰燼に帰される……さぞ無念を抱くだろう、さぞ虚無を、何者にも代え難い絶望を、そして俺へ〝怒り〟を抱くだろう……その果てにどんな代償を払おうと俺を殺す為に力を得るだろう……それが、その先を見るのが楽しみでならない」
おや、怯え……行けないな、最近は楽しい事が多すぎて感情の抑制が甘くなってきた。
「……と言うわけで、私の為に協力して頂きたい、貴方達は新たなプレイヤーを獲得できてハッピー、私は〝愉しめて〟ハッピー……互いに実りある取引と思いますが?」
実際、この取引に対して向こうが損をすることはあるまい、プレイヤーには新たなイベントが与えられ、その光景を映像として世界に発信し、それを見た第三者がソフトを購入する、上手く行けば金が湯水の如く湧いてくるだろう。
「……如何かな?」
「……良いでしょう、しかし準備期間はコチラが指定します」
「大変結構」
相手には万全の備えをしていただかなければ面白くない、無論コチラも最高の舞台にするために最大限の労力を注ぐ必要がある。
「是非、彼等の支援は〝惜しまぬ様〟……その尽くを踏み潰すのも楽しみだ♪」
交渉を終え、俺はログアウトする……彼等を残して。
「藤山さん、アイツ絶対ヤバいッスよ!」
「そんな快諾して良いんですか!?」
「そもそも相手は平然と化物魔術開発するマジモンで――」
「ククッ、クフフッ、クハッハハハ♪」
それは彼等にとって、何よりも目に見える異常だった、普段鉄面皮な彼が、藤山が、顔を歪め、笑いを堪えること無く笑っていたのだから。
「やはりアレは良い、とても刺激的だ……面白い」
「あ、あの〜……先輩?」
「今直ぐ全プレイヤーに告知しろ、上へは俺が報告する、絶対にイベントとして成立させる、プレイヤーへの支援を最大まで引き上げろ」
「え?でも「〝良いな?〟」は、はい!」
それだけを告げると、満足気に男は消え、同僚達を残して消えて行った。
○●○●○●
「――と、言う訳で早速〝聖皇国及びプレイヤーぶっ殺作戦〟を開始する訳ですが、質問ある人〜!」
――ビシッ――
「はいベクター君!」
「如何にして襲撃するので?」
「無論、〝獣災〟、物量による圧殺だ」
「では、もう一つ、何故我々少数精鋭での撃滅は候補に入らないのですか?」
「私も聞きたいね」
ふむ……他の面々も大方同意見か、宜しい。
「ではセレーネ、もし仮に獣災が起きた場合、お前達がその矢面に立たされ、幾百幾千の魔物の重圧を直で受けたらどう思う?」
「そりゃ面白そ「オーケー、一般人目線で頼む」……う〜ん」
「そう、〝ビビる〟。「おい、まだ考えて」如何な歴戦の猛者であれ、新入りのお調子者であれ、ほぼ間違いなく心に恐怖の種を植え込まれる、〝こいつ等を倒し切れるのか?〟、〝出来る訳が無い〟、〝死にたくない〟……しかし、戦わねばならない、そうでなければ後ろの無力な人間が死ぬ……そして、物量作戦のもう一つの肝はだ」
俺は皆の前に1つの人物を写す。
「〝希望を抱かせる〟事、俺然り、アーサー然り……いや、分かりやすいのはプロフェスの〝混沌の暴威〟だな、広範囲を一気に消し飛ばす〝大技〟……物量を心臓に動かす者等にとっては厄介極まり無い力であり、守る側、使う側からすればあれだけの群れを一撃で散らしたと言う、〝淡い希望〟に変わる……勝てる、コレならば勝てると、皆がやる気を出すだろう……味方の高揚に、胸に抱く希望の為に、人は死ぬ、己の犠牲は無駄でないと」
だが、なぁ?
「〝彼奴は皆の為に死んだ〟、〝俺は仲間の為に死ぬ〟……その御綺麗な戯言を、〝本隊〟で鏖殺する……士気はガタ落ち、絶望の果てに希望と言う大地に降り立った彼奴等を更なる暗い絶望に落とし込む……酷い事になる、喚き、叫び、怒り、憎しみ、呪いを散らして息絶える……」
コレが少数精鋭ではそうはいかん、だから物量だ、コレが必要なのだ。
「数は何万だ?」
「向こうの意向にも寄るが、10万……本隊は15万程欲しいな」
「25万か……集めきれるのか?」
「無論だとも……今回の獣災を俺達は指揮しない、俺達は相手と獣災の混戦に割り込んで相手の戦線を掻き乱す」
「つまりそれまでは待機か〜……つまんね〜」
「何、国内に入れば好きに暴れて構わん、更地に化すまで壊せ……今回は聖皇国を完全に壊す、勢力図に載らぬ程完膚なきまでに、その裏に居る善神の顔に泥を塗りたくってやれ」
――ゴポゴポッ――
「〝行け〟」
何百もの鴉の群れが飛び立つ……四方八方へ。
「各々、研鑽を忘れぬ様……ヴィル、今回の舞台には関係無いが、この位置に拠点を建てておいてくれ」
「任せな!」
さぁ、楽しい楽しい〝下準備〟の時間だ♪
●○●○●○
暗い、暗い……月の隠れた夜に、黒い鴉が溶け込み飛翔する。
――〝カァァッ……カァァッ……〟――
静かな夜に、鴉の音色が木霊する……砂漠で、山間で、湿原で、荒野で、平原で……鼠が、兎が、犬が、狼が、蛇が蛙が、蟲が猪が鹿が鳥が……そして竜が。
夜に音を鳴らしながら同じ道を進む、その瞳は、真っ赤な赤に染まっていた。




