戦士と悪魔
「グハッ!ゴホッゴホッ……テメェ、何だソリャア?」
「んぁ?何だ生きてたのか、思ったより硬いな……良い良い♪コレは試しがいの有りそうな奴だ……っと」
――ブチィッ――
「〝同化修復〟……良し、コレで生命力も傷も治癒できたな、暫く安静にしとけ、腕が適合する迄時間が掛かる」
「申し訳有りません」
「いや、良いぞ、お前のお陰でこの能力も会得できたでな、しかし〝神出鬼没〟だったか、驚いたぞ? 流石ベクターだな俺の知らない隠し玉を何時の間にか用意するとは優秀だ」
「ッ……光栄です、我が主」
「さぁて……そろそろ立てるだろう?続きだ♪」
俺は立ち上がるガラハドを見てそう返す……血反吐を吐きながらヨロヨロと立ち上がるガラハドは、その目に警戒と敵意を見せた。
「何だ……その羽は?」
「この羽か?見ての通り人の腕で造った羽だよ、ちゃんと飛べるぞ?……魔力消費多いけど……で、コレとお前の腹を打ち抜いたのはコレ」
――グチュグチュグチュ――
俺の右腕が肉の掻き混ぜる音を鳴らし変化する……指が鋭い鈎爪を持った状態で現れる。
「〈死霊術〉の新しい使い道だ、ほら死霊って自己回復手段が乏しいだろ?例えば回復薬はダメージ受けるし、ヒールも同様、となると死体食って地道に治療する位しか無い……それじゃ長期戦が不利だろう?……一応これから不死者の回復薬は造るつもりだが今は即席で必要だった………で、其処で死霊術の出番」
荒い息を吐きコチラを睨むガラハドに更に続ける……どうやら腹の穴は何とか塞いだらしい、流石不老不死、回復効果も一級品だな。
「〈死霊術〉で造った死霊、その性能は創造者の思考を少なくない程に受ける……望んだ通りに、或いは近付ける様に種族を〝改変〟するんだ」
――改変――
「其処に目を付けた……〝どうやって術者の思考を反映するのか〟、ゲームの都合?否、これだけ背景に拘った、これだけストーリーに拘ったこのゲームがそんな陳腐な言葉で終わらせまい、故に思案した、死霊を造る際、その媒介は何か、死霊と術者の共有するモノ……即ち〝魔力〟、幸いベクターが踏ん張ってくれたお陰で検証は出来た……魔力を流し望んだ形に作り変える、〈死霊改造〉のもう1段階、それがこれ……そして死体ならば何でも変えられる」
そう締め括り俺はガラハドに杖を向ける。
「例えば、こんな風に」
「〝破断〟!」
――トンッ――
大剣から、空を飛翔する斬撃が振るわれる、それに対し、ハデスは杖で地面を叩く。
――ドォンッ――
斬撃が触れ、土埃が舞う……ガラハドはそれを見て、僅かにだが警戒心を解いた、解いてしまった。
「私が何故、態々君に説明したか分かるかい?」
「ッ!?肉壁かッ!?」
土埃が晴れる……其処には、深々と抉られた傷を修復する肉の壁が幾つも並んでいた、そして。
――ズズズズッ――
影のない闇を、地面を〝何か〟が蠢く、そしてガラハドが瞬きした瞬間、ガラハドを囲む様に肉の壁が現れた。
「君が私の説明中に魔力を集めていたのと同じで、私も少し時間の掛かる仕込みをしていたのだよ……〝闇改め影よ、我が言の葉に宿れ、我は偽りの悪、屍の悪逆也〟」
影が蠢き、ガラハドを囲む円、その中で無数の口を生やす。
「「「〝我は魔の道を行く者、理を知り、新たな力を行使する始祖、闇より生まれし影の支配者〟」」」
詠唱は止まらない、仮に一つの口を潰そうと他の口が呪文を詠う故に。
「「「〝しかして我は屍を統べる者、屍と影こそが我の領域、故に、我は詠う〟」」」
影が脈動し肉壁がざわつく……ガラハドにとって、此処は単なるゲームの世界だった……所詮はゲーム、ただの遊び場、死ぬ事など恐れるほどでもないと。
「「「〝屍の陣、影の紋様、今此処に世界と冥府繋ぐ扉は開かれた…〈冥界の招門〉、開門〟」」」
しかし、何よりも今、この場所が恐ろしい、不死者よりも、影よりも、あの男が恐ろしい……愉しげに、狂気的に笑い俺を見るその目が。
「〝冥府護る巨人〟……〝引き摺り込め〟」
――ドクンッ――
その赤い双眸は、そう告げる……瞬間、俺は黒い〝何か〟によって、影の中へ沈められた。
○●○●○●
『人間を殺害しました!』
『"狂戦士の黒大剣"を獲得しました!』
『レベルが上がりました!』
『〈死霊術〉のレベルが上がりました!』
『〈闇魔術〉が〈影魔術〉に変化します』
『プレイヤー名ハデスは、固有能力〈冥界の招門〉を獲得しました!』
『新たな称号〈冥現を繋ぐ者〉を獲得しました!』
『新たな称号〈魔術を拓く者〉』
「……クハッハッハッ!成功!成功した!?まさか本当に通じるとは思わなかった!」
確かに、ベクターの盗ってきた〝召喚術教本〟の召喚陣をベースにしたが、良く魔力が保ったモノだ! アッヒャッヒャッヒャッ――ゴホッゴホッ!
「フーッ、フーッ……笑い過ぎた笑い過ぎた……しかし気になる称号が山の様に有るな?」
少し見てみるか。
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【影魔術】
ハデスが闇魔術を改良して影を操る事に特化させた魔術、従来の汎用性を捨て、〝影〟のみに対象を縛る事で威力と術式強度を底上げしている
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【冥界の招門】
現世と冥界を繋ぎ、冥界の生命を呼び寄せる門、呼び寄せる生物は術者の魔力と生物の格に比例して強力に成る
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【冥現を繋ぐ者】
冥界と現世を意図的に繋いだ者へ与えられる称号
冥界……それは魑魅魍魎跋扈する魔境、気を付ける事だ、冥界の生命は自己より弱い者など餌としか見ない
効果:冥界生命と相対した時、ステータスが微上昇
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【魔術を拓く者】
未だ未知に溢れる魔術、その深みを理解し、新たな境地へ至った者へ与えられる称号
効果:所有する〝固有魔術〟の性能が微上昇
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「ほほぉ……悪く無いな……っと、ベクター、もう大丈夫か?」
「ハッ……手を煩わせてしまい申し訳有りません」
「良い、赦す……さぁて、予想外の珍客も消えた訳だし、ヴィルの所へ戻るか……序でに少し、今後の予定変更もしなければならない」
「ですね、恐らく直ぐにでも我々の討伐隊が組まれ、廃教会を狙うでしょう、不死者が近い彼処は現に我々の仮拠点でもありましたから」
「だな……いや待てよ?なら少し弄って、うんうん、嫌がらせを思い付いた♪」
今後来るであろう討伐隊の歓迎に思考を回しながら、ヴィルの元へ帰還する。
〜〜〜〜〜〜
――カタンッ――
「ん?おぉ!来たか主!ベクター!良いタイミングだな、ホレ!もう武器は出来てるぞ!」
可笑しいなぁ?俺とベクターがお使い行ってから1時間程しか経ってない筈なんだが……何で織り機がもう出来てるんだ?
「さぁさぁ!早う素材渡さねぇか!そろそろ森蜘蛛の糸が切れそうなんだよ!」
俺とベクターが大量の糸を渡す……するとヴィルは顔を歪に歪ませ、手を高速で動かす。
「ヴィル、作業しながらで良いから聞け、今後の話だ」
「おう、確か四方のエリアの主を狩って部下にするんだろ?」
「それはいい、大事な予定が出来た、近い内に此処に俺達の討伐隊が来る……かなりの規模になる、だから此処を離れ、本格的に拠点を構えようと思う」
「ほほう……なら北の奥が良い、ちと主の放った監視死霊の視界見てたが、彼処は山々が群がっていて木々も生えている、隠れる場所にゃ事欠くまい、山に鉱物もあるかも知れんしな」
「主様、私もその意見に賛成です」
「オーケー、じゃあ北の山方面で隠れるか……でだ、俺が言いたいのは此処を離れ本拠を作るのもそうだが、此処に来る美味しい〝素材〟の話でも有る」
「ほぅ? つまり俺達を殺す為に来る人間共を殺して素材を集めると?」
「イエ〜ス!名付けるなら〝誘い込んでぶち殺そう、素材ウハウハ大作戦〟って所か?既に構想も幾つか練ってる……ベクターは其の辺で湧いてくる死霊の掃除しといてくれ」
「承りました」
「ヴィルは引き続き装備作成宜しく、終わったら俺が書いた設計図のモノを幾つか作ってくれ」
「了解……しかし、悪巧みってのは良いねぇ〜、楽しくなってくる」
「えぇ、私も少し、高揚しています」
「だよなぁ?意気揚々と突っ込んできた間抜けを狩り尽くす様は想像して凄く愉しいよなぁ?」
「「「フフフッ♪」」」
どんよりとした空気に、3つの瘴気が混じり合う………その目はどいつもこいつも、悪意に染まっていた。