守護の勇者、夜明けの悪魔③
「『第1第2と盛り上がりを見せる闘技大会、続いて第3試合の始まりだァァァ!!!』」
『ウオォォォッ!!!』
『ウワアァァァッ!!!』
「『例にも漏れず選手紹介と行こうかッ!…先ずはコイツだァッ!』」
舞台に立つは、銀髪靡かせる冷たい表情の少女、その腰には刀を携え、退屈そうに目を閉じていた。
「『麗しの剣乙女、美しき剣の技、その背後には静かに屍の山が有る、かの老鬼、三郎丸の孫にして一番弟子、三郎丸が荒々しく鋭い剣ならば、彼女の剣は美しく無慈悲な剣であろう、〝剣乙女〟のニノ!』」
「………」
『ウオォォォッ!!!』
『キャーッニノちゃーん!!!』
「『対するは……音も無く忍び寄る影の暗殺者、闇夜を隠れ進む黒装束は、さながら恐怖の証といえよう、その身は少女と侮るなかれッ…〝影襲〟のジャック!』」
「……」
『ウオォォォッ!!!』
『ジャックちゃーん!!!』
「『両者共に準備完了の様だなぁッ!』」
「『レディ……ファイトッ!』」
「ッ!」
試合開始と共に、ジャックが後方に跳び、ナイフを投げ飛ばす。
――ジャリンッ――
「『始めに動いたのはジャック選手、見事なナイフ捌きだったが何と、外してしまうッ!』」
「『違う、彼女が〝避けた〟んだ、最小の動きでね』」
「……つまらない」
「まだまだッ!」
投げる、投げるナイフは空を舞い、銀髪の乙女へ迫るがその尽くが彼女を過ぎ去る。
まるで通り抜ける様に、彼女に一つと当たらない。
「うん……凄い、一つ一つがちゃんと狙ってる、早い、普通の人ならコレだけで負ける……でも、遅い、退屈」
――ヒュゥッ――
風が鳴る、ユラリと少女が振るった刀の先から……それと同時に、また別の音がなる。
――パキンッ――
鉄のナイフは見事に砕け、破片が舞い落ちる、少女の眼前のナイフ、その全てが。
「私は〝カイン〟と遊びたい……だから、勝つ」
感情の見せない目の奥に、少女はあの〝化物〟を観る。
強き者……彼女の知る、鬼の翁と同等か、それ以上に強い……そして、無垢な子供の様に純粋に愉しんでいた、あの男。
まるで通じない、新たな〝敵〟、遊ばれてくれない〝遊び道具〟。
それが堪らなく嬉しい……冷たい鉄の様な、そんな無表の面を駆け巡る喜色に、彼女は身を悶えさせていた。
○●○●○●
「私はカインと遊びたい、だから、勝つ」
「私だってッ、あの化物にリベンジしたいのよッ!」
暗がりの少女もまた、その男を追っていた。
あの屈辱を胸に、あの悔しさを胸に、憤怒を抱き、あの化物を殺さんと。
――ジャリンッ――
「貴方は、退屈……もう、おしまい?」
「ッ!?」
だと言うのに……。
――ゾワッ――
勝てない、この少女に……それを理解してしまった。
「それじゃあ、さようなら」
「ッ――」
『まだ踊れるだろう?』
ソレは、己の死の刹那に聞こえた声……暗がりの少女を、陽の光に引き摺り出した〝悪魔の音色〟、ソレが少女の身体を突き動かした。
「――ッ?……避けられた」
「ッ!?」
『ジャック、暗がりの殺し屋、お前は戦士じゃないだろう?』
『お前は殺し人だ、武人ではないだろう?』
(何処から……ッ!?)
少女を警戒しながら、観客席を見渡す少女……その中に居た、彼女をただ静かに、愉しげに見据える男が。
『お前の技は殺しの技だ、お前の戦い方は闇夜を纏う物だ、お前は影だ、影の襲撃者だ、見失うな』
「……何処を、見てるの?」
「……私は、影……〝影襲〟のジャック」
――ゾクッ――
『見せろ』
「ッ分かったわよッ!」
――ブンッ――
――ドッドッドッ――
「?何を……ッ!?」
――ギィンッ――
「『な、何とッ!?い、今ッ!その場に居たはずのジャックが、ニノの背後にッ!?』」
――トッ…チャプンッ――
――ヒュンッ――
「『消えたと同時に今度はナイフが、その背後には何時の間にかジャックが居るッ!?』」
「『……ん、成る程…暗殺者が持つ〝影潜〟の能力、本来は〝自分の影〟に潜り、侵入、闘争、隠密に使われるだけの能力を〝影を繋ぐ〟事で高速移動を可能にしたのか』」
(まだだ、もっと、もっと速く、もっと狡猾に)
「ッ……成る程、間違ってた」
アレの言う通りにするのは癪だけど、今はこの試合に勝つッ――。
「貴方も、大事な〝相手〟……軽んじるのは、失礼だった」
――キィンッ――
「ぁ……ぇ?」
「ごめんね、ジャック」
『ッ!?』
その刹那は誰が見ていたのだろうか……否〝誰も見ていない〟、観客も解説も翁も、眼の前の少女も、あの悪魔も。
ただ、彼女の装束毎首を刎ねた、残ったのは、鉄を切り裂く音だけ……正に。
〝神速〟。
「お祖父ちゃんとカインに使うつもりだったけど、貴方に上げる」
そして第3試合は驚嘆の只中に終わった。
●○●○●○
「ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバいッッッ!」
暗がりを誰かがブツブツと呟いていた、その声色は焦りと、動揺に満ちていた。
「ただでさえあの〝化物〟で手一杯だと言うのにッ、このままでは――」
「オイ、オイオイオ〜イッ、〝フェイ〟君さぁ〜、そんなに慌ててどうし〜たの?」
「ヒィッ、〝レオニス〟様ッ!?」
「んん?……おいおい、おいおいおい?……何で魂が無い訳?…俺言ったよねぇ?…魂を集めろって、そしたらフェイちゃんが言ったんだろ?〝近く守護者が戦い合う祭が有る、守護者はまだ弱く楽に殺せる〟ってさぁ……なぁ?」
――ガシッ――
「〝我が主〟に献上する魂がゼロッてのは不味い、不味いよなぁ?……どう落とし前着けるよ、お前のカスみたいな魂じゃ釣り合わないよね?」
「ガ……お、お赦しを……必ず、必ず果たして――」
――グシャッ――
「いや良いよ、お前はもう要らん……仕方無い、〝俺〟が出るか〜……クヒヒッ♪」
良〜く見れば良い玩具いっぱい有るし、〝独り占め〟しよ♪
○●○●○●
「『さ、さぁ気を取り直して第4試合ッ!…選手入場だ!』」
「速かったなぁ、見えなかったなぁ」
アレを食らったら、果たして俺はどう動いてただろうなぁ?
「『予選では、他を寄せ付けない圧倒的な暴虐を見せしめ、四人の猛者を相手取り優勢と言う化物ぶりを見せ付けたッ、破壊の厄災、人の化物ッ……〝暴虐〟のカイン!』」
『………』
「『た、対するは……この男……珍妙な姿に珍妙な言動、しかしその実力は凄まじいッ、本来なら衛兵に突き出したいがコイツも出場者ッ、涙を呑んで紹介しよう!…〝変態紳士〟……〝ラヴァー〟!』」
「『アレは……凄いな……』」
「『へ、変態です……』」
「うわッ、気持ち悪ッ」
会場の空気を制するは、俺の眼前に立つ、その男……何で、コイツ何で……。
「赦さん、赦さんゾォ……」
ネクタイにオムツと靴下しか履いてねぇの?……お前中年がそんな格好とかグロ過ぎんだろ。
「よくも……よくも……」
「『りょ、両者位置について……〝レディ〟……〝ファイト〟ッ』」
「よくも〝ジャックちゃん〟オォォォッ」
「……は?」
コイツ……もしかしなくてもヤベー奴では?
「近寄りたくねぇ殺したくねぇ、触りたくねぇ……頼めるならこの世界から消えてくれ」
――ドゴォォッ――
「ウオォォォッ!!!…死ねぇッ!!!」
「……仕方無い、試合は試合だ……"Φωτιά……"」
俺は右手に"炎"を作り、無造作に投げつける。
「ッ!?」
――ゴォッ――
――ドォォォンッ――
そしてあの変態の間近で、抑圧を解く、すると中に圧縮された炎の魔術が吹き出し、フィールドに火柱を打ち上げる。
「『……な、は?…炎?」
解説が現実に理解が追い付かず固まっている中、その横に居るだろう男は、極めて冷静に、しかし隠しきれぬ高揚を見せて語る。
「『カインが魔術を使ったことも驚きだが、それ以上に今の魔術の構成ッ……信じられない、あの小さな球体に幾つもの魔術式が折り重なっているッ、信じられない……考えもしなかった、その使い方を……』」
「〝集積型魔術陣〟……魔術式を折り重ね、言葉同士を繋いで圧縮し、その魔術式の起動に必要な魔力を削減し、余剰魔力を術式効果に変換させる……結構難しいんだぞ?……しかし、その形でよくもまぁ生きてたなぁ、ラヴァーとやら」
「我が復讐、我が報復は未だ成されず、故に我は不滅也ィッ」
あれだけの術を至近距離で受けて尚、その男は、変態は何事もなさげに立っていた。




