屍の生産者
――………――
「お〜い、本気で行くのか?」
「当たり前だろ!?そろそろ昼間の敵じゃ経験値効率も悪いし、頃合いだろ」
「夜の敵は凶暴化してて普通のより強いんだろ?ちゃんと準備してんのか?」
「だ〜からパーティーで行くんだろ?なぁに準備もしっかりしてるし、いざとなりゃ〝昼寝〟のヒールが何とかするだろ」
「任せ〜zzz」
「「寝るな!?」」
騒ぎながら夜の道を歩くプレイヤー……その横の路地裏、本来は下水処理の道や清掃に使われる入口が音もなく開いた。
「いやぁ、何とかかんとか侵入成功、まさか街の外の下水処理通路を門兵が監視してるとは思わなんだ」
「幸い、誰にも悟られず仕留められたので問題無いかと……それより主様、急ぎましょう」
「んだな、俺は生産者ギルドの工房、お前は倉庫から使えそうな何某かを盗ってきてくれ」
「御意」
「そんじゃ、行くか」
路地裏を音も無く駆ける、目指すは生産者ギルド……ベクターは倉庫のエリアへ、さて……。
「出番だぞ……っと」
――ガリッ――
――トッ――
短剣を突き刺し、短剣を足場に登る……此処は工房の一室鍛冶エリアだ、中に誰も居ないのは把握済みだ。
「よっと」
――トッ――
足音を抑え姿勢を戻す……其処には中々でかい鍛冶設備と金床等が置いてあった。
「鑑定」
―――――――――
【中型鍛冶作業台(中級)】
初級鍛冶作業台よりも大きく、許容できる温度が上がった作業台
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「お、良いねぇ」
作業台をインベントリに収め、窓から出る。
「ミッションクリア、サッサと消えるかね」
いやぁ職員の皆さんには申し訳ないが、事後処理宜しく。
『ベクター、そっちは?』
『問題無く、必要な材料は粗方入手しました』
『帰還するぞ』
『御意』
短いやり取りの後、俺達は通気口へ戻る……後日、大掛かりな窃盗騒ぎが生産者ギルド内で起きたとか何とか……だれかな?
○●○●○●
「さて、そんじゃ行こうか……〝死霊作成〟」
俺は死体と魂を各位50程詰めて死霊を作る。
「〝我は求む、神が人へ齎した人知の御業を〟」
「〝救う物、戦う物、実り与える物、人が突き詰めし〝造〟の力、それの担い手〟」
瘴気が揺れる、込めた贄は屍だけではない、多めに拝借した鉄、木、道具、多くの生産道具も突っ込んだ。
「〝汎ゆる物を造り、汎ゆる物を凌駕せし至高の創造者、我は汝に、名を与えよう〟」
瘴気が脈動する……俺はそれを見据え、言葉を紡ぐ。
「〝万造の屍職人、汝の名は〝ヴィル〟…!〟」
――ドクンッ――
身体から魔力が拔ける……それと同時に瘴気の脈動は高まり、徐々に収束する。
「『主よ、その任、拝命する』」
重く、しかし堂々とした声が響く。
「『〝屍職人長〟、改〝万造〟のヴィル、主の望む物、この身朽ち果てようと必ず造ってやる』」
瘴気が晴れる……其処には、大柄で筋肉質な身体をし、獰猛な笑みを浮かべコチラを見る渋い顔の爺さんが居た。
「期待してるぞ、ヴィル?」
「応よ!……んで?何を造るんだ?武器か?服か?はたまた道具?」
「そうだな……俺の使う魔法使いの触媒と近接仕様の杖とベクターの剣、後はそれぞれの服を、これから各所の主を狩る為の装備が入り用だ」
「成る程……素材は?」
「ベクター」
「はい、コチラですヴィル」
そう言うとベクターは持っていた麻袋から大量の素材を取り出す。
「ほぉ……平原狼の皮に鉄、森蜘蛛の糸……この辺りが使えるな、炭は十分、服を造るなら織機が居るな、主、ベクター、ちょいと使いを頼む、この森蜘蛛の糸を持ってきてくれ、多ければ多いほうが良い」
「「了解」」
「その間に武器と織機を用意しとくぜ」
さて、今後の生産はヴィルに任せて、我々はお使いに行こうか。
因みにヴィルのステータスだが。
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【ヴィル】LV:1
【屍職人長】
生命力:250
魔力 :250
筋力 :150
速力 :80
物耐 :150
魔耐 :100
信仰 :100
器用 :200
幸運 :100
【保有能力】
〈鑑定〉LV:1
〈採掘〉LV:1
〈採取〉LV:1
〈裁縫〉LV:1
〈鍛冶〉LV:1
〈木工〉LV:1
【保有称号】
〈ハデスの忠臣〉、〈万作の職人〉、〈ネームドモンスター〉
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〈万作の職人〉
多くの物を造る腕を持った職人に与えられる称号
効果:制作した物の品質を上げる
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いやぁ見事に生産特化、何れ生産部門のトップに据えるかもしれんな。
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「〝有らん限りの呪詛を込めて、私は彼の者に呪いを贈る、その腕力は鉛の如く鈍らに〟」
「グゥッ!? 何だ急に腕が」
「〝闇よ、先陰らす闇の魔よ、我が言葉を依り代に、彼の者等を貫く黒き槍を〟……〝多重闇槍〟」
森蜘蛛を斬り伏せようとした戦士に筋力を下げる呪詛を吐く、それにざわつく彼等の隙を突き、彼等を狙う槍を生成する……段々と詠唱について幾つか理解してきたぞ?
「詠唱による魔術の〝性質変化〟、単体の槍を多重に展開する、それに足る魔力と言霊が有れば、その詠唱は効を成すと」
突如飛来したその槍に胸を頭を、腹を貫かれ各々が驚嘆と疑問を上げ死ぬ。
「ベクター、そっちは?」
「滞り無く、コレで必要な素材は足りるかと」
「そいつは重畳、それじゃあサクッと帰還しよ――」
――ドスッ――
「グェッ!?」
帰還しようとした瞬間、横から喉を矢で貫かれる、思わず間抜けな声を上げてしまった。
「主様!?」
「チィ……気配を見落とした」
(毒矢……殺意の塊だなぁオイ)
「報告に有った、既存の不死者と異なる不死者を連れた邪法を操る人間……どうやら貴様等らしい」
目に映る影は、その外套を脱ぐ……無精髭にギラついた目、既に命尽きる俺に目もくれず、ベクターを見やる。
その名前の色は白……異界者、プレイヤーだった。