大喰の泥蛙
「良く考えたら俺死霊だから聖属性使えないじゃん」
さて、駆け抜けながら初歩的な見落としに頭を抱えつつ、漸く森を抜けた訳だが。
「ヒューッ、南は沼地か?……湿地以上に地獄だなぁ……」
萎びた速度を再度加速しつつ、沼地を突っ切る……うん。
――バチャバチャッ――
バチャバチャと服に染み付く泥に言い知れぬ殺意を抱きつつ、適当に湧いてくる蛙の魔物……泥毒蛙を踏み潰して殺す……お、コイツの毒は蛇よりも強いのか。
「麻痺毒、神経毒……泥で足は取られるし相手は毒で遠距離から攻撃してくるし、本当に不快なエリアだな」
沼地をふっ飛ばしてやろうか……無しだな、魔力が足りんし、多分リポップする、無駄だ無駄。
「毒はタラトの土産にでもするかぁ……彼奴ならヴィルと何か作るだろ」
――グェッコッ!――
「蛙はなぁ……死霊術で使うにしても利点が薄い、小さいし遅いし……毒を持たせた暗殺用なら使えるか、でもソレは蛇の方で事足りる……舌の先に棘でも付けて使えば行けるか?」
『ボスエリアに侵入しました!…【大食泥牛蛙】……〝飢泥のバクチャ〟と戦闘を開始します』
「っと、今度はあんな間抜けな死に方はしな――」
――ベチョォッ――
「……あ"?」
戦闘開始のアナウンスと共に俺へ纏わりついた桃色の、粘液を纏ったソレ……と同時に俺の身体が引き寄せられる。
――ブチッ――
ただでさえ不愉快なマップにストレスが溜まっていたと言うのに、その上蛙畜生の舌が俺へ纏わりつく、臭い、汚い唾液……そんな事をされたならば、誰だってブチ切れる。
――バツンッ――
「上等だよクソ蛙ゥ……お前には俺の考える最悪の方法で、尽くを侮辱し、殺してやる」
舌を引き千切り、クソ蛙を睨む……千切れた舌から青い液体を流し、痛みに暴れる蛙……だが、まだ足りない。
「まず、逃さない様に足を奪うか」
暴れ狂う蛙の頭を死なない様にブン殴り、泥の沼に沈める。
――ガシッ――
「まず一本」
――ベキベキバキバキブチィッ――
足を掴み身体の方へ向けて引き千切る、骨が騒音を鳴らし、筋肉を押し潰し、引き千切っていく。
「二本目」
今度は逆足だ……コレでコイツは逃げられない。
「後は……ん?」
――ネトォッ――
「……つくづく不愉快な畜生だなぁ?」
身体中から染み出るコレを掬い上げ、視る。
――――――
【大喰泥牛蛙の油毒】
毒性を帯びた蛙の油液、危機に瀕した際に体外へ放出されるそれは、下位個体よりも更に強力で、身体に纏わり付く。
――――――
「……油ねぇ?」
「『グェェッ!?』」
俺は蛙から離れ、蛙に向けて一つの"玉"を投げ付ける。
「〝起爆〟」
――カチッ――
――ゴォッ――
コレはヴィルが守護者の創ったアイテムを模倣し、改造した物……〝猛燃玉〟、前の〝爆破〟タイプでは死霊用の素材集めに向かなかったからな――ッ!
「『グ、グェェッ!!!』」
「ッ……やるじゃないか」
この焼き蛙……俺に体当たりしやがった……随分と賢い畜生だ。
――ジュウゥゥゥッ――
「熱苦しい、不愉快だ……しかし、今の一撃は気に入った♪」
まぁもう燃えてしまった訳だし、出し惜しみは不要だな?
「遠慮なく潰してやるよ」
――ベコォッ――
未だ燃えた身体に呻く蛙の腹を殴る……それは周囲の水を弾き飛ばして、蛙を遠い、マングローブに叩き付けた。
「まだまだッ」
――ドスンッ…ドスンッ…――
「まだまだまだッ♪」
拳で、殴り続ける……手応えが薄いまま、斬ったほうが早いと理解して尚。
――ドスンッドスンッ――
――ベキッ……メキッ……――
「フッフフフッ♪フハッハハハッ♪」
ただ、衝動に身を任せ、破壊する、コイツの最も得意な〝土俵〟、〝高い物理耐性〟を真っ向から否定する、破壊する……ソレが今は、堪らなく楽しい。
「『グェッ、グェェッゴォッ!?』」
「逃がすと思うか?」
蛙が逃れようと、千切られた脚を暴れさせる、ソレを踏み潰し、殴り続ける……。
――ゴリッ……ブンッ――
蛙の口から青い血液が吐き出される……一撃毎に、その量は増し……遂には――。
――ドスンッ!――
――ボキャアッ――
「『――ッ!?!?』」
蛙の腹を突き破り、腸を掴む……そのまま、それを引き摺り出し、身体の臓腑を全て潰し、抉り、引き抜く。
『〝飢泥のバクチャ〟を討伐しました!』
「―――ッ……もう死んだのか」
最後の臓腑を投げ捨て、俺は死骸を影に沈めた。
「ん〜……取り敢えず出るか、着替えたい……残す所も後一個だけだし、ソレ終わらせてからベクターに洗浄してもらおうか」
幸い服の予備は有るしな。
○●○●○●
――ピピッ――
『地上に不浄存在を感知、魔力スキャン……基準達成、魂魄強度スキャン……評価S……捕縛難易度…〝S〟……捕縛可能と判断、強制誘導システムを作動し――作動し――作動――さど――』
――ピピピッ……ガーッ――
『ミツケタ、ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタッ!……〝■〟ノ器ガ、アノゴミヨリモ更ニ強イ器ガ……漸ク時ハ満チタッ……コノ〝檻〟カラ漸ク出ラレル』
『――強制誘導システムを作動、S級〝鎮圧魔動機〟を編成します』
〜〜〜〜〜〜
――ガサガサッ――
南の沼地から東へ向けて疾走していた今日此の頃。
「――ンッ?……何だこの匂い……甘い?……薬臭いな……何かの毒……効かないから無視しても――」
ふと沼地では嗅いだことのない、奇妙な甘い香りが俺の鼻を突いた……その香りを無視して走って居た、その刹那――。
――バカンッ――
「ッ――!?」
穴が開いた……何の前触れもなく、だだっ広い大地にポッカリと。
「落し穴?――む?」
身体を拡張し、翼を創ろうとした時……その違和感が如実に現れた。
――グニュ……――
「身体が……いや、魔力が回らない?……あの〝匂い〟か……いや、それよりも……」
浮遊感と共に落下が始まる……明らかに〝意図的に俺を狙った罠〟……フフフッ♪
「何が待ってるんだ?」
湧いたワクワクを胸に、落下に身を任せ、到達を待つ……そして。
――ベチャッ――
十数秒後、大地に熱烈なキスをして、俺は潰れたトマトに成った。




