盗み奪う人面鳥
今回は何時もより短い……許されよ……許されよ(懺悔)
「やぁ、毎日ちゃんと報告してくれてありがとうね」
『コレも私の仕事ですから』
『久しいな父よ、此度は我も居るぞ!』
「久し振り、アリー、ノア……あの子は今日も来ないのかい?」
『その事も踏まえて説明します』
『父よ、父からもあの阿呆に言ってくれぬか、アレでは世界を壊しかねない』
「ふむぅ……それは出来ないよ、私達はあくまで観測者、君達の補助だ、世界をどうするかは君達自身で解決しなければならない……現に今の所昔よりは何とかなっているじゃないか」
『えぇ、傾いたバランスは前回の報告よりも2%改善されています』
「君達の〝友人〟のお陰だね、中々面白い子じゃないか」
『友じゃと!?あの不遜な悪魔が!?』
『あくまでも取引相手と認識していますが?』
「……フフフッ、そうかい?分かったよ……僕も一度彼に会って見ようかな?」
『話を戻します、報告にある通りまたしても〝善〟が一国に干渉し、召喚を行いました』
「それで?」
『現在召喚された……〝仮称〟勇者は北西に存在する〝龍種〟と戦争しています、龍種自体に被害は有りませんがそれの影響で〝淀み〟がまた増え始めました』
『ただでさえ守護者から淀みが生まれてくると言うのに、またしてもか…』
〝二人〟と〝1人〟の報告会は、尚も続く……。
そして。
「いやぁ困った困った……まさかこんな落し穴があるとは……♪」
そんな事などお構い無しに、悪魔は落ちた先に存在する〝遺跡〟に舌舐めずりをする。
遡ること数時間前……。
○●○●○●
「ふぅ、思ったより仕事が長引いてしまった……お陰で太陽が綺麗に出ている……死霊的に最悪な日だな」
まぁ第二エリア程度なら弱体化していても問題無いか。
「さぁ、サクサクッと終わらせよう」
そして俺は第二エリアに在る砦へ転移する……目指すは北だ。
『ボスエリアへ侵入しました。【人面鳥長】、〝盗奪のヴァルチ〟との戦闘を開始します』
「……と、言うわけでやって来ました北の山道、此処のボスはハーピー……人間の顔を持った禿鷲だ……グルーヴの方が断然良いな」
「ギエェェェッ!!!」
開始と同時に吠えるヴァルチ、その声と共に山々の木々はざわめき立つ……そして。
「ギギギャーッ!」
「クェクェッ!」
「ギャックク!」
何十ものハーピーがとんでくる。
――――――
【人面鳥】LV45
生命力:8000
魔力 :6000
〜〜〜〜
――――――
「成る程、第一エリアとは比較に成らない強さ、それがこの数居るのは確かに脅威だな……だが俺相手には物足りない」
――グルルルッ――
「姑息な盗人には優秀な番犬を放つとしよう」
――〝十屍:屍肉貪る影犬〟――
「〝好きに食え、ただしアレは俺のだ〟」
「「バウッ!」」
影の様な犬達が、空を舞う盗鳥達を食い千切って行く……しかし哀しいかな、人面鳥の攻撃はまるで霞を掴む様に擦り抜ける。
「んん……薄いな、薄過ぎる……コレでは腹の足しにすら成らんぞ」
喰い殺されていくハーピー共の〝苦痛〟を食う……薄い、水の様に薄い苦痛だ……竜の味に慣れてしまったか?
「だが……お前はどうだろうな?」
「――ッ!?」
空を飛んでいたハーピーリーダーの足を掴み、地面に引き摺り落とす……お!きたきた♪
「……ん〜……雑魚よりは濃いが、まだまだ薄味だな」
ソレに量も少ない……人間は弱い割に良質な悪意が取れるし……やはり悪魔的には狙い目だな♪
「まぁ暫くは手を出さんが」
そう何度も同じやり方で街を襲うのも芸が無い……しかし一人で殲滅するのは公平性に欠ける……ゲームを操ると言うのは些か難しいなぁ。
「お〜美味いか〜?」
「バウッ♪」
「ギ……ギィッ――」
「あ、逃げた――って速いなぁ、流石進化個体、仲間置いて逃げるのは誇りも糞もないな」
『戦闘に勝利しました!』
「ドロップ品は……しょっぱ、逃がしたからか?……ん?」
――バサッ……バサッ……――
「何だ、逃げたら追えないと言うわけでも無いのか?」
遠い空を飛ぶ人面禿鷹を見て少し驚く。
「……フフフッ♪」
嗚呼、駄目だな……面白い事を思い付いてしまった。
――――――――
「グェェッ……クエェッ……」
それは逃げていた、誰から?敵から、己よりも遥かに強い敵から、己の肉盾を物ともしない化物から。
――バサッ……バサッ……――
それは今己が生きている幸運を噛み締めていた、見逃された化物へ少しの嘲りを内に秘めて。
「クエェ……クックックッ♪」
そして考える、あの化物をどう陥れるか、己へ屈辱を与えたあの化物を如何にコケにしてやろうかと。
――バキバキバキッ――
「……?」
ふと、下から奇妙な音がした……逃走に全力だった故に、過敏となった耳が捉えた、木々の枝を折る音。
――チラッ――
そして見た……木々を薙ぎ倒しながら、動く〝闇〟を、人の腕を、人の足を、人の顔を幾多も生み出しては消して、幾つも生やした手で大地を掻き分け、無秩序に生やした人獣の脚で地面を蹴り砕きながら、その恐ろしい眼を、コチラへ向けていた。
「――ッ」
「『捕ま〜えたッ♪』」
逃げようと翼をはためかせようとした、その時、その声と、その巨躯に羽を捕まれ……そして。
――バクンッ――
胸に沸き立つ恐怖と嫌悪諸共に、その巨大な歯に擦り潰されて闇に溶けた。
●○●○●○
「『ふむふむ、最後の一瞬に生まれた〝恐怖〟、実』に美味だったな」
身体を収縮し、元に戻しながら独り言を呟く。
「魂もグルーヴに劣るが良い物だ……少し使い道を考えるか」
ま、何はともあれ北は終わりだ、次は……西だな!




