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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
後日談:虚は次の夢を見るか?
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投げられた硬貨と表裏の狭間

――カチャッ――


「お待たせしました!…当店自慢の〝チーズ入りアップルパイ〟です、お熱い内に召し上がれ!」

「コレはコレは…とても美味しそうだ…是非堪能させて貰うよ〝お嬢さん〟♪」


少女はその言葉を聞くと嬉しそうに笑い、そして他の客の元へ向かう…ソレを見るのは厨房で少女を見守る二人の男女…その光景を見ながら、窓辺の男は運ばれ、熱の為かトロリと揺れる林檎のパイへその〝ナイフ〟を入れた――。


――『サクリ』――



●○●○●○


『おぉ…コレは美味しい♪』


〝俺〟は今…そう言いその顔に笑みを浮かべる男へその視線を向ける。


『いやぁ…こんなにも美味しいアップルパイは中々御目に掛かれないねぇ…うん、チーズが良いアクセントだ…素晴らしい♪』


その男を俺は知らない…知らずともソレが何を求めて此処に居るのかは知っている…。


『――〝ハデスは死んだ〟…〝勇者アーサーとその世界に集いし守護者達の手によって〟…〝彼等は知らない〟んだろう…その〝終幕〟こそ、〝君の理想〟で有った事を』

「〝守護者の目的〟は何処までも〝ハデスの成す悪行の阻止〟だ、ソレが例え〝偽りの目的〟で在れどアレ等はソレを成した…ならば〝俺の目的〟は彼等にすれば知る必要の無い物だろうよ」


ソレはその手を動かしながら、上機嫌に俺へ〝言葉〟を掛ける。


『しかし、その〝結末〟なら態々〝君を抹消〟する必要は無かっただろう?…ましてや君にはもう〝どうでも良い世界〟だ…態々自分の〝死体〟を使って〝世界の構造を改造〟する必要性は無いんじゃないかい?』

「何、どうせそのまま消えて〝無くなる〟なら有効に使った方が〝面白く成る〟」

『淀みを吸収し、消化し、〝魔物達〟へ振り分ける…〝君の呪詛〟によって魔物と言う根幹を作り変えられたソレはその〝世界の機構〟によって〝可能性〟を得る…〝知恵持つ者〟、〝より強き者〟、〝より恐ろしき者〟、〝より邪悪な者〟…その可能性が〝目的〟だったと?』

「半分はな」

『…では残りの半分は?』

「一つは〝守護者〟と〝神〟共への手向けだ…アレはもう〝俺〟を忘れていようが俺は彼奴等の〝友〟で在るからな…彼奴等の抱えていた〝世界の脆弱性〟を〝処理〟してやった…と言うよりも〝前の世界〟は構造に欠陥が多すぎるだろうよ」

『ハッハッハッ♪…元々あの〝世界〟は彼女達の独力で〝創造〟した物だからね…まだまだ欠陥は有った…ソレは彼女達の〝成長の種〟だったんだけどね』

「気の長い事だ…アレ等がその〝問題〟を認識するには何千年掛かる、何十回〝危機〟を起こさねば成らないよ」

『………まぁ、そこはホラ、完璧な教育何て〝無い〟だろう?…ソレよりもだ…まさか〝聖剣〟を嫌っていた君が〝自身の相棒〟を身代わりに〝聖剣〟を引っ張り上げるなんてね』

「?…〝聖剣〟は嫌っちゃいないさ…ソレなら同じ製造工程の〝魔剣〟も同じく拒絶する…俺が気に入らんのは〝聖剣にのみ頼る事〟だ…自らの血肉を鍛えるのは全て〝聖剣がより強く活きる為〟…何てのはつまらん…飽く迄も〝聖剣そのものは補助〟で無ければならんだろう、持ち手が〝補助〟な時点でソレは〝聖剣に操られたボンクラ〟でしか無いだろ」

『成る程…だからアーサーへ聖剣を返したのかい?』

「アレはもう問題無いだろう…彼奴は〝解〟を得た…そして彼奴は俺を殺し〝世界を救った〟…ならば今生の別れと返した聖剣をくれてやるのが〝正しい報い〟だろう?」

『……君は本当に、〝人間〟が好きなんだね』

「あぁ、〝大好き〟だ…悪であれ善であれ…人間と言う生命が〝己の覚悟〟を以て切り開く物語は見ていて飽きない…〝憧憬〟が無いと言えば嘘になるがな」

『〝虚夢鏡魔(うろゆめきょうま)〟何て名乗ってるのはその〝為〟かい?』

「〝人を映す模倣の鏡〟、〝夢を見る虚しい魔〟…〝俺〟を表すには的を射た〝名〟だろう?」

『…自虐過ぎないかい?』

「さぁ?…少なくとも〝俺〟が評価する〝俺〟がそうだからな…何処まで行っても〝人〟に成れない、なのに〝諦められない人への道〟へ手を伸ばし続ける道化が俺だ…だが俺はソレへ不満は無い…例えこの生命が尽きた果てでさえ手に入らなかったとしても、俺は〝求める事を止めない〟…〝楽しんでやる苦労は苦痛を癒やすから〟…って奴さ」

『成る程ね…それじゃあ君にとってこの〝プレゼント〟は都合が良いかな?』


男との会話はそうして終わり、俺はその空間で〝白〟に包まれてゆく…。


『君は確かに〝世界を危機に追い遣った〟……しかし、同時に〝世界〟を救済したのも事実…で在れば君にはもう一度〝機会〟が与えられて然るべきだと考える……まぁ、流石にその〝危険性〟から〝制約〟は課せられるけどね?』

「ほぉ……ソレは面白いな…どんな制約か愉しみだ♪」

『それじゃあ行ってらっしゃい〝名もなき模倣者〟よ…次の物語は、君を何方の側に転ばせるかな?』

「さぁ……ソレばかりは〝運任せ〟だ」



○●○●○●


――カラララン…カラララン…――


「さぁて…どうしようか…♪」


窓辺にて…その〝無名の男〟はコインを手遊びに窓辺を見る…。


――ジッ…――


「……」


其処には、路地裏から道行く子供達を羨まし気に見る〝少年〟…。


――ジッ…――


「……」


其処には、道行く〝カップル〟を追跡する〝怪しい人間〟…。


「――〝()()か〟♪」


――ピィィンッ――


ソレを見て、〝男〟はそのコインを指で弾く…ソレは高速で回転しながら浮上し…そして、その上昇を反転落下させる…。


――トッ――


そしてそのコインは男の掌に落ち…その〝面〟を示す――。


「ッ!――ハッハッハ…コレはコレは…成る程成る程♪」


男はその〝瞳〟を歪ませて…そう笑い、席を立つ――。




●○●○●○


「ねぇねぇ〝リルト〟…そろそろ何処かで休憩しましょう?」

「そうだな〝ジュリア〟…丁度昼時だ…何が食べたい?」

「う〜ん…お肉!」


二人組の仲よさげなカップルはそう良い人混みを歩く…その様子に微笑ましく見送る者達や、〝恨めしげ〟な目を向ける者達が居る…しかし、〝ソレ〟異常にそのカップルへ〝執念〟に似た〝憎悪〟を抱く者は〝居ない〟だろう。


「……(ブツブツブツブツ)」


何て事は無い、所詮は妄想癖からの逆恨み…ソレが煮詰まりに煮詰まった〝救いようの無い道化〟なだけ…しかしどうやら道化の才は有ったのだろう…或いはその男の事など誰一人と感心を向けていなかったのか…誰一人とその男の〝妄念〟に気付く者は居なかった…。


「……(ブツブツブツブツ)」

「――♪……おっと!」

「ッ!?」


――ドンッ――


そんな最中、ふとその男は何者かと打つかり派手に〝転ぶ〟…そして打つかった男も、転び…その袋に入れていた者を街道にぶち撒けてしまう。


――ジャラジャラジャラッ!――


ソレは袋一杯に詰められた〝短剣やナイフ〟…恐らくは商人なのだろう…或いは見習いの職人か…その男は床に撒いたナイフを見て頭を覆う。


「あっちゃぁ…やってしまった…まさか街道に小さな出っ張りが有るとは……それより君、怪我はないかい?…いや、怪我は恐らく有るだろうが具体的にはこう、偶然鞘から外れたナイフが刺さったりだ…してない?…ソレは良かった!」


そして男はそう良い、その打つかった男へ謝罪しながらその床の短剣を拾う。


「……」


ソレを見ながら、男は苛立った様に立ち上がろうとし…気付く……己の懐に隠していた〝短剣〟が無くなっている事に。


「ッ……ぁ、チッ…」


探そうと周囲を見渡せど何も無く…そうこうしている間に〝対象〟は小さくなってゆく…焦りに焦った男は等々、その手を地面に散った〝黒い短剣〟に手を伸ばし――。


――ドクンッ――


「ッ……あの…コレ、〝落とし物〟です」

「ん?…おぉ、コレは有り難い…いやぁ助かるよ、突き飛ばしたばかりか落とし物を拾ってくれるとは…君は〝良いヒト〟だなぁ♪」


――ギュッ――


「本当に……〝良いヒト()〟だ♪」


それから暫くして…道端で起きた軽いハプニングは完全に今日の小さな出来事と成って日常に溶け消える事だろう…。


そして、もう一つ…この街で〝善い出来事〟が起こる…否、ソレは街の殆どが知らない事…。


「――随分と、痩せ細っているね…其処の君?」

「ッ!?…ぁ、ご、御免なさい!」

「…それに、随分と〝酷い境遇〟の様だ…おや、そう〝怖がらないで〟…何も取って食おうって訳じゃ無い…丁度私はこの街で〝孤児院を開こう〟と思っている優しい…かは微妙だが人道を〝理解〟しているお兄さんだよ」


――ヒョイッ――


「え、あ…わぁ!?」

「どうせこのまま飢え死ぬつもりなら、〝我が孤児院〟最初の〝一員〟に成りなさい!…何、コレでも〝金銭面〟は心配安心だ…それに追々人も雇うし孤児も増える!…君は気にせず〝私〟に救われるが良い〝ベクター〟!」

「べ、べくたー!?」

「そうだとも!…これからを歩む〝君〟の名前さ!」


たった一人、胡散臭い〝善人〟とソレに救われてしまった一人の〝少年〟から始まる…〝孤児院〟の始りだった……。






END……。


















「『本当ならもっと気の利いたENDを用意したかったんだけどね?…物語はコレで終わりだけど、後少しだけ…続くよ』」

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