世界は広く拡がって
――美しい空を見た――
――心地の良い風を見た――
――地を駆ける人々を見た――
――大自然の摂理を見た――
見た、視た…〝拡がりゆく世界〟を――。
「コレ……は…」
〝世界〟を見た彼等は〝見た〟……其処はかつて彼等の知る〝世界〟では無い。
其処は〝数多の国〟が住まう〝人の世界〟で在る。
其処は〝大陸全土〟が熱林に覆われた〝樹の世界〟で在る。
其処は燃え尽きる陽光に晒された〝熱と土の世界〟で在る。
其処は冷たく凍える極寒の〝雪の世界〟で在る。
其処は人獣すら〝餌〟とする深き水魔共乱れる〝水の世界〟で在る。
〝世界は変容した〟
〝世界は変化した〟
〝世界は生まれ変わった〟
しかし変わらぬ物が有る。
其処には人々で溢れた〝街〟が在る、街を束ねる国が在る…その国に居る誰彼は全て、彼等の知る〝現在を生きる者達〟で在る。
そんな変わり果てた…否、彼等〝守護者〟にとっては最早〝新世界〟と言えるその世界は…未曾有の危機の到来と共に〝神々の使い〟で在る〝守護者〟を呼び寄せた。
「おぉ…アレが噂の〝守護者〟様…」
「何と神々しい…」
「正に〝神の使い〟だ…」
――……ザッ――
「うむ……ソナタらが〝予言〟の…〝人類の救済者〟達か」
場所は変わり何処かの玉座にて…二人の守護者は〝国を統べる者〟へ謁見する。
「此度は我等の〝要請〟に応じ、謁見の場を設けて頂き感謝致します…〝アリウス・フォン・ローハイル国王陛下〟」
一人の守護者…まるで研究者然とした眼鏡の男はそう良い、〝国王〟へ礼節を以て言葉を贈る。
「うむ…良い、ソナタ等の〝来訪〟は我が宰相にして〝最優の魔術師〟〝リルド・マナルガ〟より聞いている…そしてソナタ等が来た理由……〝魔物共〟の〝変貌〟についてもな…」
ソレに対し応は頷き、その言葉を綴る…そして、最後の憂慮すべき危機を思い顔を曇らせる…。
「では、国王陛下も多忙の身…我々が伝えるべき情報をのみお伝え致します…」
「心得た」
そして、その研究者風な守護者は淡々と語りを始め、その言葉を記録する王の忠臣達はその男が告げる言葉に時折ザワメキ、或いは緊張に顔を引き攣らせる…唯一その王と宰相だけは緊張の欠片もなく…感心した様な目でその男を見ていたが…。
「――と言う訳です…明日…いや、早ければ魔物達の変化は今日にでも始まるでしょう…故に我々〝守護者〟達はその所在を各都市に分散させ、各々調査等を進めようと思います」
「――成る程、であれば我々も出来得る限りの事は協力しよう…しかし留意せよ、如何に予言で在れ、ソナタ等の言葉は飽く迄も〝ソナタ等の物〟…各国の〝王〟達へ伝達はするが、予言が起きるまでは我々とて全面的な協力をとは行かぬ」
「心得ております…では、急ぎ守護者達へ伝達をしておきますので、今日はこの辺に…」
「――〝プロフェス〟さん」
そして男は報告を済ませ踵を返そうとする最中、その隣の…白銀の鎧を着た青年の一言に「あぁ」と言葉を漏らす。
「――所で国王陛下、申し訳ないのですが一つだけ、質問をしても宜しいですかな?」
「む?…良いぞ、何だ〝プロフェス〟よ」
そして、プロフェスはそう言い国王へ言葉を紡ぐ。
「■■■■■■■■?」
「?……すまないが今何と言った?」
「――あぁ、申し訳有りません、何分この世界へ来てまだ間もないもので、まだ〝この国の言葉〟を覚えきれて居ないのです……失礼、〝この国〟に拠点と成る家を建築したいのですが宜しいでしょうか?」
「あぁ、成る程…ならば南西の区画に居を構えよ、其処は汝等守護者達を迎える為に増設してある」
「ソレは有り難い…それじゃあ〝アーサー〟…我々も成すべき事は山程有る…そろそろ退室しよう」
「えぇ、分かりました」
――ザッ…ザッ…ザッ…――
「――どうやら〝■■■〟に関する情報は一切を検閲されるらしいですね」
「うむ、守護者にのみ識り得る訳か…コレが彼の言う〝忘却〟と言う訳か…恐らく今、我々が〝魔物の変貌〟の真実を伝えたとしてもソレは〝住民〟の耳には入らないだろう…つまりは」
「〝■■■〟と言う存在へ彼等が辿り着くように動くべき…と?」
「そうだが…下手な芝居はかえって状況が悪くなる…それに状況によってはソレを知った所で自体が好転する事は無いかも知れな――」
そうしてプロフェスとアーサーが道を歩いていると、ふとプロフェスが〝誰か〟と衝突する。
――ドッ――
「おっと…コレは申し訳無い」
「いえ、こちらこそ…怪我は…無さそうだ、所で…一つ〝ある店〟を教えてほしいのですが」
謝罪をしつつプロフェスを気遣うその〝人物〟は初期装備の〝魔術師のフード〟を軽く整え、プロフェスへ申し訳無さそうに頼み込む。
「ん、何かな?…コレでもこの国の粗方の地形は把握しているよ」
「ソレは心強い…実は〝白鳥の羽休め〟と言う喫茶店がこの王都の何処かに有るらしいのですが…友人から其処の場所を聞くのを忘れていまして…」
「ふむ……〝白鳥の羽休め〟ならあの大通りを更に右へ曲がれば直ぐだよ」
「本当ですか!…ありがとう御座います、御礼は――」
そうしてその男性の言葉にプロフェスは少し思考し、その道順を丁寧に教えると男は嬉しそうに感謝を伝える。
「いやいや構わないさ…コレもぶつかった詫びとでも思ってくれ」
「それは私にも言える事なのですが…そうだ、宜しければ〝フレンド〟?…登録と言うものをしませんか?…何かが有って私が助けになれる…かは分かりませんが、そんな時は御声がけしてくだされば協力致しますので」
「ほぉ…ソレはコチラとしても有り難い、最近は〝実験の協力〟を依頼しても中々付き合ってくれるモノが居なくてね…はい、送っておくよ…アーサー君、君もどうだい?」
「…えぇ、僕からも送らせてもらいますね」
「はい!…それじゃあ友達を待たせているので私はコレで、親切に有り難う御座いました!」
そして幾ばくかの談笑の後に男は再度例を言いその後二人に背を向けて歩き出す。
ほんの一瞬チラリと映る…その〝紫〟の様な…或いは朱色の様な瞳に、アーサーは覗き込まれた様な気がして…そしてその違和感は直ぐに消え去り、彼等もまた異なる道を歩き始める…そして。
――カラーンッ――
「いらっしゃいませー!…ようこそ〝白鳥の羽休め〟へ!…何名様ですか?」
「〝1名〟で…ソレと、出来れば窓辺の通りがよく見える席が良いのですが良いでしょうか…〝お嬢さん〟?」
「はい、分かりました〜!…1名様御案内しま〜す!」
「「いらっしゃいませ!」」
三羽の白鳥…恐らくは夫婦と一人の少女を表してなのだろう、そんな仲睦まじい雰囲気溢れる喫茶店に一人の客が来訪した…。




