真の色彩
――バチバチバチッ――
「「ウオォォォォッ!!!」」
『ッ――――♪』
――ググッ…ググググッ――
……オレはきっと、〝敗れ去る〟のだろう…そう予感する…。
――ズズズズッ…――
己へ迫るその剣の切っ先が、微かに…ほんの微かにだが少しずつ…己の心の臓腑へ進んでいるのを感じ取る…ソレは〝オレ〟にのみ理解できる〝未来〟であり、彼等はその〝結末〟へ至るまでその勝利を理解する事は無いのだろう…。
(このまま敗れ去る…か、それも良いな)
彼等は充分に〝偉業〟を成した…ならば相応に報いが有って然るべきだろう…と、そうして己の敗北を認め、死ぬるのも良いだろう…。
――ドクンッ――
――何て、冗談じゃない。
『――まさか、まさかだろう…このまま〝最後に負けを認めて潔く死ぬ〟何て綺麗事で済ませて堪るか♪』
ソレは所詮〝慰め〟だ、己の敗北の〝無価値〟をせめて〝価値有る物〟としたいが為の〝巫山戯た行為〟だ。
『演るならば最後まで〝演りきれ〟ってもんだろう…!?』
お前達は確かに、オレを〝殺せる〟のだろう…だが。
『〝神格焼却〟――この勝負はお前達の〝勝ち〟だッ、それで良いだろう!』
「「ッ!?」」
――ドシャアッ――
『――だが…〝英雄譚〟の悪役が、そう簡単に引き下がる訳が無いだろう?』
押し合いを辞め、オレはその〝心臓〟を〝二人の英雄〟にくれてやる…そして、オレは――。
――ガシッ――
『さぁ〝賭けようか〟…私だけの〝好敵手〟…オレはお前にくれてやったぞ〝心臓〟を、未来のオレの生命を、〝過去〟のオレの生命さえも!』
――ビキッ――
即ち…ソレは〝現在〟の〝オレ〟も、その影響を受けると言う事だ。
『オレは全てを〝薪に焚べた〟…オレという存在を、その〝自我〟も、その〝記録〟も、その〝全て〟を…!…オレと言う存在は最早未来永劫、〝本体〟でさえも生み出せない!』
ソレは死を超えた〝死〟…肉体の滅び、その先にある〝忘却と言う消滅〟だ。
ソレをオレは〝くれてやった〟…ならば相応の〝対価〟は頂こう。
『お前達への最後の〝悪足掻き〟だ…!』
崩壊する己の腕で二人を掴み…来たる〝死〟を前にオレは嗤う。
『〝忘却ノ心臓〟』
そして、オレと言う肉体は…完全に〝消え〟…。
――ダッ――
二人がその場から去る…その直後。
―― ――
二人の背後から、〝無音の崩壊〟が始まった…。
●○●○●○
――ズシャァッ、ジュオォォッ!――
「「ッ!」」
「ッ――ヒュウッ…今のは危なかった!」
迫る刃と燃え盛る炎の腕を生やした腕で掴む…しかし流石に凄まじい密度の〝聖属性〟と万物を融かすが如き炎熱を相手にするには余りに心許なく。
――パラッ――
灰燼に帰するか、或いは塵に変えるか…何方にせよ触れた刹那にオレの〝防御〟は消え去った。
――ブンッ――
「「ッ…何処――」」
「――〝此処〟だ♪」
その次の瞬間に、オレは二人の横から現れ、その爪を二人へ振るう。
「「ッ!!!」」
しかし、流石は最後の〝切り札〟か…オレの奇襲に気付いたその刹那、二人はその爪を寸前で躱し――。
――ガリィッ――
「〝捕まえた〟!」
「シィッ!!!」
剰えその手を逆に〝掴み〟…オレへ刃を見舞った。
――ザシュッ――
「ッ…!」
「ハハッフフフッ…!…コレは失敗したか――!?」
その一撃が直撃するより速く、己の腕を千切り離して致命傷避ける…そして、オレがその〝目〟を二人へ向けた瞬間。
――ドンッ――
己の身体が硬直する程の、凄まじい重圧を感じ取る。
「〝龍雫継承〟――〝限定龍化〟!」
「ッ…〝ガレリア〟の…!?」
その重圧、その溢れん魔力に…オレは〝友の名残り〟を見る…そして。
「――〝龍体炉心〟!…〝開放〟――クゥッ…!?」
〝リリー〟諸共にオレを包み込む…その〝蒼炎〟をオレは視た。
――ジュウゥゥゥッ――
「――ハハッ!…〝自爆上等〟の〝魔力放出〟かッ…良いな〝熱い〟じゃないか!」
その妄念に見紛う様な…〝狂気的な覚悟〟を。
「〝我が血肉を燃やせ〟…〝眼前の敵諸共に〟…!」
「〝我慢比べ〟か?…面白い――」
リリーの言葉にオレがそう返したその時…オレの目前にリリーが現れ、〝笑う〟…。
「違いますよ…ハデス…さん!」
喉も焼かれ、その清純な声を失って尚…リリーは何時ぞやと変わらない〝微笑み〟でオレの言葉を否定する。
「此処まで全部…〝予定通り〟…です!」
「ッ――成る程…決め手はお前達二人では無く、〝アーサー〟か…そして、お前は〝アーサー〟の一撃を確実にオレへ〝与える〟為に、自らを〝足止め〟にしたと…?」
「…♪」
「――随分と小賢しいじゃないか♪…しかし生憎、あの〝小僧〟の遣り口は知っている――」
「ハデス…」
そしてその問答の一時も束の間に、リリーはその身を消し炭に変えて…そして、オレへその言葉を〝吐き捨て〟…消える。
――〝勝つのは私達です〟――
…と……その余韻は残り火に焼き尽くされ、オレはその生意気な口上に頬が上がる。
「――大した、自信だなリリー…!…なら、その結末を〝塗り潰してやる〟!」
そして、その炎を空の手で振り払い――。
――ブワッ――
己の背に発せられる忌々しい〝光〟へその身体を翻した――その瞬間。
「―――ッ!?」
オレは…〝夢〟を……視た…。
「『〝大規模転移魔術〟――〝起動成功〟…さぁ、〝諸君〟!』」
ソレはいつか見た〝星の海〟、〝天の虹〟…〝生命の輝き〟、〝善性の象徴〟…。
「『〝攻撃開始〟!!!!』」
――『『『『『ウオォォォォッ!!!!』』』』』――
数千の〝人間〟…その美しき〝輝き〟が在った。
―― ――
途端思考が停止する…ソレは本来有り得ない事なのだから…。
世界を隔てた入口を無視して、そのまま己の元へ来る等…誰が予想できようか。
何千の魔術師、戦士、弓兵銃兵、がその場に居る…全員が大小差異あれ〝勇者〟たる意志を持っている…。
ソレは…ただただ――。
『〝美しい〟』
その、一言に尽きた――。
――ドドドドドッ――
その鉛を、矢を、魔術を、祈りを、刃を…己の身が受ける…その一つ一つに込められた〝意志の力〟が、オレと言う〝化物〟を侵す。
「『ハハッ、アハハッ、アハッハハハ!!!!』」
まさに夢見心地とはこの事だ…今オレは十全に満たされているのだろう…そうに違いない…こんなにも愉しいのは〝始めて〟だ……だから。
「『〝神格消費〟――!』」
この〝刹那〟を。
「『〝我は塵を歩む者〟…!!!』」
〝永劫〟に味わっていたい…。




