偽りの極彩色
「――〝億屍〟――〝屍ノ心獣〟!!!」
その呪詛が世を猛り廻り、屍の災厄が蠢き回る。
ソレは敢えて形容するならば――
「〝カラフルな死〟だなぁオイ!」
「目が痛いねッ…!」
そう、〝カラフルな死〟だろう…。
ソレはハデスを起点に際限なく伸びる〝尾〟の様な姿をした〝獣〟…目に見える異端と言えば、ソレはその尾のどれにも〝統一された色〟が無い事だろう。
――ズドォッ――
「――痛イ痛イ、痛イナァオイ!!!」
「嗚呼、嫌ダ嫌ダ…折角ノ晴レ舞台ガモウ此処デ終ワリトハ…」
――ゾゾゾッ――
そんな獣の尾を大剣で断ち切り、或いは破砕した者達はふと、その尾から発せられる言葉を聞き、その傷口から放たれる悪寒に顔を引き攣らせる。
「――〝装うに際限なく〟…故に、ソレは無限に拡がる伸延の〝死〟で在る」
「――〝抱くに区別無く〟…故に、ソレは万物へ等しく向けられる万変の〝死〟で在る」
――ジャリッ――
「ツゥッ!?――おいお前等ッ!…コイツ〝不死身〟だぜ、死んでも内側から〝再生〟する!」
「ッ――ソレだけじゃないッ!」
――ゴプッ、ドボォッ――
――ギリィッ――
「〝再生した身体〟が変化したッ…ハデスの〝死霊改造〟と似た能力だ!」
再生したその身体の柔肌が歪み、空を舞う己を貫かんと迫る肉槍を寸前で躱しながらノーマンは叫ぶ。
――タッタッタッ――
「〝際限無く伸びる身体〟…〝肉体改造による全身の攻撃転用〟…厄介な術だ…そして、その術理の〝核〟は――」
差し迫る〝牙〟を躱し、転移を用いて尾の上を駆けながら、プロフェスはその視線を〝ハデス〟へ向ける。
「恐らくは〝ハデスの感情〟だッ、ハデスが抱く〝感情〟の増幅によってこの〝術〟は際限無く暴れ続けるんだろう!」
「――その通りだプロフェス♪」
「ッ――」
――バチィンッ――
伝達にプロフェスがハデスを認識から外した刹那、その声と共にハデスが背後から現れプロフェスの展開した〝障壁〟とハデスの〝黒爪〟が衝突する。
「ッ…動けるのかい?」
「オレが最後の舞台で死霊共に任せて傍観すると思うのか?」
プロフェスの疑問へハデスはニタリと笑ってそう返す。
――フッ――
その直後…ハデスの一撃を抑えていた障壁が〝消滅〟する…魔力切れか?…否、そうでは無い。
「〝衝撃〟!」
「ッおぉ?」
ただ、ハデスを吹き飛ばす為に…プロフェスは障壁を〝解いた〟のだ。
――ザザッザザザザッ――
ハデスはその衝撃をマトモに受けながら、〝笑う〟…己に接続された〝尾の怪〟の身を削りながら。
「アッハッハッ♪…成る程、この程度の術理ならば当然お前も〝会得〟していたか!」
「ッ!」
そして、そのハデスはそう言いながら衝撃に飛ばされる事に抵抗せず…その〝手〟を〝足場の獣〟に触れる。
――ゴプッゴポポッ――
「〝裂き、分かて〟…〝憎悪ノ相〟!」
そして、その蠢く〝身体〟から新たに無数の〝小型の尾〟を増やし、プロフェスへ差し向ける。
「――させるかッ…〝裁定者の鉄槌〟!」
「余所見しないで!…〝報復ノ執炎〟!」
しかし、ハデスのその攻撃は空から〝落ちる十字架〟と、プロフェスとハデスとの間を呑み込む黒い炎によって防がれる。
「次の相手は私達だ〝ハデス〟!」
「ほぉ?…〝裁定者〟と〝復讐者〟か…そうまで言うなら〝試してや――〟」
そして、左右から迫る二人をハデスは見据え…その尾へ触れた、その瞬間。
――ドシャアッ――
ハデスの〝胸〟に刃が生える…その背後にはいつの間にやら忍び寄っていた、〝殺しの姫〟がナイフを影に突き刺して居た。
「ナイス〝ミア〟ちゃん!」
「ガッ!?――フッフフフッ、成る程〝嘘〟か!…中々〝上手く〟なって来たな〝ミア〟!」
「ッ〜!」
「――だが」
――ジャキンッ――
ジャックへ払い除け、賛美と共にハデスは穴の空いた〝胸〟から〝銃〟を取り出し、ソレを一瞬気を緩めたミアへ向け、その牙をのぞかせて笑う…その瞳は優しく叱責する様に歪ませて。
「そう簡単に〝揺れるな〟、馬鹿め♪」
「ッ―ミアッ!」
――ズドンッ――
その〝引き金〟を引き…その鉛をミアの頭蓋へ打ち込まんと撃鉄が熱り叫ぶ。
「ッ―― 」
その光景にクオンが方向を変えて駆け出すももう遅い…その弾丸は警戒心を失くした〝獲物〟を狩り取――。
――スパァンッ――
る事は無かった…その速度を緩めた二人を追い抜き、その飢えた瞳をギラギラと輝かせる〝獣共〟によって、その攻撃は阻まれた。
「貴様等ッ、3人で独占するとは良い度胸じゃのう!?」
「ん、私達にも分けるべき…」
「ハッハァッ、〝共闘〟と行こうじゃねぇか!」
三郎丸、ニノ、ガチタンがそう言い肉薄する…否、3人だけでは無い――。
「〝圧縮〟…!」
「お前等にだけ見せ場はやらねぇよ!」
テストに、ノーマンもが…その炎と光を押し退けて背後から迫った…。
その殺意がハデス一人に注がれる…その守護者、一人一人の膨大な〝魔力〟が今、ハデスへ振り下ろされんとした…その時――。
「ッ――ッ♪」
ハデスは…〝笑った〟…。
○●○●○●
今日はやはり、何と素晴らしい〝日〟であろうか…。
――コプッ…コポポッ――
今目の前にいる…〝人間〟と言う生命の、その最たる輝きを放つ者達を見て…〝俺〟は己の口角が釣り上がるのを感じる…致し方あるまいよ。
「――」
十人十色の〝全力〟で、その生命が持ち得る限りの最高の〝輝き〟が…〝殺意〟を伴い俺の元へ迫っているのだから…こんな物…〝笑わずに〟いれるものか。
――ギュウッ――
『ッ!?』
無尽蔵に拡がる…その〝屍の心〟を寄せ集める…ソレは〝俺の心の鏡〟…数億の屍に同調させた〝俺と言う存在〟の構成する〝一要素〟…。
「〝散り叫べ〟――〝偽心の極彩〟」
醜い化物の、醜い心の〝衝動〟…。
憤怒に叫び、悲哀に咽び、愉悦に嗤い、狂気に謳い…そんな〝醜い衝動〟の同調。
ソレは或いは…〝爆発〟の如く鮮烈に…周囲の全てへ牙を向いた……。
「――さて、一発逆転…だな?」
「ゴホォッ!?」
周囲に散らばる死屍累々を見ながら、オレはその笑みを浮かべたまま、彼等を見る。
「さぁどうした…まさかもう終わりか?」
「ゥッ…!」
面白くて…愉しくて堪らない…この感情の昂りが思わず声にも滲み出る。
「否、否ッ、否!…まだだまだ終わらない、そうだろう守護者ッ…その無様で何を成す、何を成そうと〝思考〟する!?」
彼等の無様が狂おしい程に愛おしい、彼等の死に体が心が震える程に大好きだ。
「――未だ敵は健在だぞ?」
さぁ、速くお前達の〝全て〟を見せてく――。
――待て――
「――何だ…何かが可笑しい…」
オレは、急速に冷めるこの心臓を自覚する。
――何かが足りない――
そう、オレの脳髄が語り掛ける…その場には確かに〝守護者〟が居る、満身創痍の〝守護者〟が――いや。
「〝三郎丸〟、〝ニノ〟、〝ガチタン〟、〝ダルカン〟、〝ミア〟、〝クオン〟、〝ノーマン〟、〝テスト〟、〝ジャック〟――」
「ッォオオオ!!!」
――ゴオォォッ――
三郎丸の〝豪熱〟を前に…オレは思案し…そして、その〝違和感〟を探り当てる。
――ギィンッ――
「〝アーサー〟は…〝プロフェス〟は何処だ…〝リリー〟と〝エリセ〟は何処に居る?」
其処まで思考が至った…その瞬間。
「ハッ…!――〝今更〟気付いたか、この〝戯け〟が!」
三郎丸の声が聞こえた瞬間…。
「〝殺れ〟――〝お前等〟!」
「「はい!」」
二人の声と同時に、凄まじい〝炎〟が周囲を埋め尽くした――そして。
「ッ――!?」
振り返ったその時には既に…オレの目前にリリーとアーサーの〝刃〟が迫っていた。




