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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
終章:悪神討つ英雄譚
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有り触れた物語

「…死はその果に生の種を植え、生の果に死の果実は成る…枯れては種を撒き、その種はまた次の生を、何事にも存在する終局と始動、何者にも変えられない不変の〝循環〟…ソレは当然、この〝舞台〟も例外に無い」

「『ふむ…新手の哲学かな?』」

「何…ちょっとした遊びの様な物さ…こうでもしなければ、この〝千日手モドキ〟も退屈でね…〝退屈〟は嫌いだが〝報いの有る退屈〟は無碍にも出来ないもんだ」


――ドドドドドッ――


互いに生み出す百の魔術を百一で返し、百一を百二で返す千日手…ソレを片手間にこの空間に浮かぶたった一つの〝建造物〟に目を向ける。


――カチッ――

――ゴーンッ、ゴーンッ――


其処には狂い回る時計の針がゆっくりと秒針を刻み、その〝終局の天井〟を目指し動いていた。


「残す所後〝五分〟…名残り惜しくとも後〝五分〟の〝舞台〟だ…この五分の内でオレは〝俺〟の望む結末を手に入れる…ソレが楽しみでならない―」


――カカカッ――


魔力を溢れさせる…最早温存等無用だ、必要なのはこの残った時間までこの肉体が保てるかどうかだけ…ソレ以外は何も要らない。


「『ッ!』」

「――この〝時〟を永らく待った…あの日のあの時…〝世界の知恵〟にその身を投げたその時から」


――ヒュヒュヒュンッ――

――バチッバチバチッ――


「『クッ、此奴まだ魔力をッ…!』」

「『否ッ、よく見ろエルドッ…彼奴の魔力の底が見えたッ…この場を耐え凌げば我々の――』」


オレの放つ、さっきまでの千日手とは比類出来ない強力な術の応酬に、プロフェスの〝中〟の二人がそう緊張を口にする――だがそうじゃない。


――ヒュオォォォッ――


「『――ッいや、コレは…』」

「――ずっと、この蜘蛛の糸の綱渡りを続けて来た…汎ゆる茶番に種を仕込み、観測者共の思考に刷り込み、誘導し、隠し続けた…たった一度、この取り返しの着かない状況に〝持って来る〟為に…全てを〝お前達〟に選択させる為に――〝招門〟…〝白冥ノ奈落蜘蛛〟」


プロフェスは理解する…その〝術〟はただの牽制…本命は今――。


――ギギギギギッ――


〝真下〟に…〝居る〟…。


「――さぁ、時間だプロフェス…お前の、お前達の〝答え〟を見せてくれ…」


遥か暗闇から、己の喉元へ白い〝脚〟が迫る…その手の鈎爪が今まさに、己の首を刈り取らんと迫る――。


「『ッ――♪……あぁ、コレが〝答え〟だよ…ハデス…!』」


しかし、死を目前に居ながら、プロフェスはその顔に余裕を浮かべる……その、言葉が紡がれた、空に溶けた…その刹那。


――ドオォォォッ――


「『ッ〜〜〜〜!?!?!?』」

「ッ!……コレは…フフッ♪」


〝悪意の白〟を、〝善なる白〟が塗り潰し塵芥へ変える…その威力は果てし無く、母を喰らい、その神性を得た冥府の蜘蛛すらを歯牙に掛けない程〝強力〟だった…。


「フフッフフフッ、フハッ…ハッハハハッ!――アッハッハッハッハッ!!!!――そうか、そうかッ!…〝腸に綿を詰めた〟か!」


ハデスはその、己の空洞の硝子で〝白〟の先を見る……そして…〝視た〟…。


「『ハデス…!』」

「ッ〜〜〜♪」


己の〝同種で在った者〟の、その姿を…善なる空洞が〝満ちた〟姿を、〝未熟〟が熟したその今を…。


「――愉快、愉快、ハリボテの〝正義〟の中身が詰まっている…成熟し、精錬し、定め、至る…!……何故か、否ッ…同種に近く、しかしまだ〝取り返せる今〟で在った事が幸いしたか♪…結構、誠に結構!」


心境の変化?…無論ソレも在ろう、己を見つめ返す〝自己練磨〟…そんな物は大前提だ…であればアレを〝変えた〟のは――。


――ザッ…――


「〝未熟〟を支える〝同胞〟…で在ろうな…故に人はソレを〝英雄譚の勇者達〟と呼ぶ…弱き人が群れ、強大なる〝悪〟を倒すと言う普遍にして、〝最も人を惹きつける物語〟…この舞台は今や〝ソレ〟だ…ソレで良いのだ……で、在れば――」


勇者(アーサー)〟とその〝仲間(英雄)〟達を睥睨する…この最後の最後…時計の針が3歩進めば終わる〝今〟に、等々〝演出〟が出来た…後は、この英雄譚に必要な〝エッセンス(無くてはならない物)〟を、即ち――。


――ヒュンッ――


「〝勇者達〟に倒されるべき〝大悪〟が必要だな…♪」

「『……』」


この寂れを圧し殺すこの〝愉悦〟、この終わり際に現れた最高の〝刹那〟に血が湧き、肉が蠢き暴れる…きっと傍目には刹那数分の出来事だろう…だが、ソレで良い…。


「さぁやろうか〝勇者〟様…神々から与えられし忌の剣を携えて、その切っ先を私の心の臓腑に突き立ててみせろ…その為に来たのだろう?」


――この刹那を悠久に味わえるのは…〝俺〟だけで構わない。


「……行くぞ皆…コレが最後の〝勝負〟だ!」


安っぽい量産型な台詞で良い、重要なのは〝独創的な展開〟では無い――。


「『了解!』」

「―― ♪」


その〝役割〟を成す上で…如何にソレに相応しい器と成るかだ…。


「――〝最終ラウンド〟と洒落込もうかァ!…〝守護者〟ァ!!!」


さぁ、世界に産み落とされた異物達…始めから無用な使命を与えられた〝形だけの勇者〟達――。


――ドクンッ――

――ズオォォッ――


「〝億屍〟―――」


お前達のその〝伽藍堂〟に、〝意味〟を与えてやるとも…だから、だから…私がかつて視た、俺がかつて視た、あの日の夜に視た――。


「〝屍ノ心獣〟――アッハッハハハハーーー!!!」


〝悪意に打ち克つ人の美しさ〟を…今一度見せてくれ。


その為ならば…例えオレが朽ち果てようと地の底に落とされようと、悪辣に憎悪に、外道下劣に卑劣の限りを尽くしてやるとも…。


【――――】



○●○●○●


「――いよいよ、君の〝舞台〟は幕を下ろすね…」


その視線は何時もの様に〝ソレ〟を見る…その存在の〝お気に入り〟…〝己の想像を超えた〟……〝この世全ての悪(アンラ・マンユ)〟の完成系…その過去、現在、未来に至るまでの〝全てを否定する戦いの顛末〟を。


「――フフフッ、ほんのちょっと…〝寂しい〟ね…」


その存在はそう言い…己の娘等に任せた世界の、その行く末を眺めていた。

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