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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
終章:悪神討つ英雄譚
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かつて分かたれし悪夢の獣

――ビキッ――


「あ、見て見て主結界が壊れ始めたよ?」

「…あぁ、らしいな」


オレはアジィの言う通りに、亀裂を奔らせ崩壊の兆しを見せる〝頂の魔術〟を黙って見入る。


「……アジィ、直ぐに魔術を止めて防御に回せ」

「へ?…何でさ、このまま押し切れば良くない?」

「――〝アレ〟を甘く見るなアジィ、彼奴等はアレで〝守護者〟の最高峰だ、そしてオレを殺す為に今までの艱難辛苦を踏破してきた紛れも無い〝怨敵〟だ」

「ッ……分かった…」


アジィはオレの言葉に了承を示すと、その術を構築し終え、防御へ魔力を回し始めた。


――ビキッ――


そしてとうとうプロフェスの魔術が悲鳴を上げて砕け散る――その刹那。


――ドクンッ――


「「ッ!?」」


オレは己の鼓動が高く跳ね、そして本能が察知したその異様な気配に目を見やった…その視線の先に映り込んだのは――。


――バキバキバキバキッ――


「『※…※※※※※※※!?!?!?!?』」


プロフェスの結界を突き破って雄叫びを上げ、大地に駆ける我が子(眷属)をその無形の身体から生やした口と牙で貪り喰らう、〝巨大な化物〟の姿。


「えぇぇッ何ア――」

「ッ――アジィ、早く防御を――!」


突如として現れたその化物の姿にアジィもオレも〝意識を向けた〟…その一瞬がアジィにとっての命取りとなった。


――カッ――


アジィの〝焦燥〟が伝わって来る…だろうな、今正に、あの化物の頭上で奔った光は、あの忌々しい勇者の放った〝光条〟は空気を灼き切りながらアジィの首へ迫っているのだから。


――バチィィンッ――


アジィに触れるより早く、障壁とアーサーの光条が打つかり合う…しかし。


――バキンッ――


苦し紛れの防御壁と、計算されて放たれた浄化の光条とでは勝負にすらなることは無く。


――バキンッ――

――バキンバキンバキンッ――


次々に打ち砕かれ、その破片を桜吹雪の様に光条を出迎える飾りに変えてゆく…そして。


――バキッ――


最後の〝障壁〟が打ち砕かれ、光条がアジィの首を灼き包んだ。


「『ギャアァァァッ!?!?!?』」


その痛みにアジィはそう叫び身体を暴れさせ、その血肉を崩れ溶かしてゆく。


「――コレはコレは、どう言うことだろうな…さっき迄は此方側が優位に立っていたと言うのに…」

「『畜……生……メェッ』」


――ボトボトボトッ――


オレは唯一残った頭を擡げて〝ソレ〟を見る…。


――グルルルルルゥ…――


空で〝目〟が合う…血走った八つの目と…その目の主は巨躯と蠢く黒い身体…その巨躯の獣の〝心臓〟に〝見覚えの有る剣〟の柄を埋め込みその身体から無数の口と牙を生やしては地面の〝呪い〟を片端から喰らい尽くす…その様は〝化物〟と言って差し支えない程に〝悍ましく〟…〝愉快〟だった。


「――クハッハハハッ♪…成る程、そう〝切った〟か!…良く考えたな〝ビーク〟ッ!…この〝英雄(死にたがり)〟め!」


腹の其処からオレは嗤う、その男の思惑を理解し、その男の末路を知りながら…ソレは〝一種の自殺〟だと言うのに…。


「あぁ良いさ…構わんとも、ソレはお前の〝選択〟だ、否定はしない…だが、残念だ〝ビーク〟…!」


あぁ、残念だ…本当に…或いはその〝立場〟が逆だったならと思えてならない。


「〝悪夢の猟犬(ジャバウォック)〟…人ならざる化物の残滓、夢喰いの人でなし、人に飼い慣らされた飼い犬…その様は何処まで行こうが〝人間〟では無い…〝化物〟では私を殺す事は敵わない…!」


――ゴボッ、ゴボゴボゴボッ――


「〝生命蝕む死の鎧〟…さぁ来いよ〝化物〟…私の〝玩具〟を返してもらうぞ!」


オレはそう言い、己よりも遥かに大きく膨れ上がる悪夢の〝ハリボテ〟へその牙を剥き呪詛を紡いだ。



●○●○●○


蠢く屍肉に纏わりつかれながら、俺はその意識を必死に保つ。


――バリバリバリッ――


『喰ラエ、喰ラエ、喰ラエ』


外で〝ジャック〟が暴れる度に不愉快な〝声〟が身体を這い回る。


『贄ヲ、生命ヲ、全テヲ』

(…チッ)


その音の不快感に俺は舌打ちをしながら、不動に耐える。


――バリバリバリッ――


『コロスコロスコロスコロスコロス…』


(ッ……黙ってろ〝ジャック〟!)


しかし遂に不快感と怒りが溢れ、喧しい俺の〝相棒〟へ叫ぶ様にそう吐き捨てる…その刹那。


――ギョロッ――


俺へ暗闇から真っ赤な目が向けられ、俺の全身から伝うかのような声で〝悪夢の化物〟は声を発する。


【ダマレ宿主風情ガ、貴様ノ選ンダ〝策〟デアロウガ、ナレバ貴様ハ黙ッテソノ身ヲ保テ】


その傍若無人な物言いに、俺も負けじと反論する。


(今やってるだろうがッ、お前の声が喧しいんだよ!)


その、俺の声にジャックは嘲笑する様に目を歪めて俺へ声を上げる。


【ウツケメ、無知蒙昧メ、貴様ノ目ハ節穴カ?…〝此奴〟ハ我デハナイ、分カタレシ、神ヘ至リシ我ガ力ノ纏ウ〝血ノ呪イ〟ヨ】


(何?)


その言葉に俺は困惑を口にすると、ジャックが続けて声と、そして俺の脳裏にジャックの記憶を送り付けてくる。


――ゾロゾロゾロゾロッ――


ソレはドス黒い、爬虫類の姿をした〝呪詛〟の塊…ソレが巨大な蛇の身体を覆い隠すかの様に纏わり付き、地面の〝黒い血の池〟を埋め尽くしていた。


【汎ユル生命ヲ蝕ム呪イ、アレノ傷口カラ吐キ出サレル〝神ノ呪詛〟…コレヲ喰ラッテイルノダ、我ガ身デモ平気トハ行カヌ】


(…本気かよ)


ジャックの言葉に、俺は焦燥に駆られる…ジャックの視界から見る、〝仲間〟と〝ハデス〟の戦いを。


その戦いが成立するのは、ジャックが〝呪い〟を喰らう〝蓋〟になっているからだ…そのジャックが死ねばこの〝戦場〟は破綻するだろう。


【――シカシ、直グ様朽チル訳デハアルマイ…ナラバヤル事ハ一ツシカアルマイ】


そんな俺の焦燥の隙間から、ジャックがそう言い俺へその先を催促する…。


(…〝呪詛〟を消化してハデスへ特攻か?)


そのジャックの言葉から、俺はジャックの考えを口にすると、ジャックの目が上機嫌に歪む。


【然リッ!…所詮長期戦ニ向カンノダ、ナラバ有リッ丈ヲ奴ニブツケロ…守ルナヨ宿主、スベテヲ奴ヲ殺ス為ニ注ゲ…デナケレバ食イ殺スゾ?】


その言葉と共に俺の身体が凄まじい揺れを感じ取る。


(俺の意見は聞かねぇのかよ!?)


【当タリ前ダ、久方振リノ自由、コレ以上貴様ノ命令ハ聞カンゾ!】


そうして、俺の意思を無視してジャックは暴れ始め、その矛先を〝ハデス〟へ向け――。


【貴様ノ力ヲ寄越セッ、我ガ〝力〟の源ヨォ!!!――ガッハハハ!!!】


――ズドオォッ――


その身体をハデスへぶつけ、その牙をハデスへ突き立てた。

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