最終演目:邪神殺しの英雄達
「〝血濡れた廃教会〟、〝貪食に侵され行く街〟、〝悪夢の遊戯〟、〝燃え果てた牙城〟、〝血の沸き立つ闘技場〟、〝聖国の堕ちた日〟、〝古い旧い滅びの再現劇〟、〝世界崩壊の一某〟、〝甦封の争奪戦〟、〝日出の夜〟…そして、〝オレが神へ至ったあの日〟…五百年前から始まったオレとお前達の〝因縁〟…その全てを綺麗サッパリ終わらせる、俗な言い方をすれば〝最終決戦〟だろうか…ソレが今、目の前まで迫っている……全く嬉しい事だ♪」
一体どれ程の間、この夢の先を〝想った〟か…そして手が届く今日で、どれだけ私の心臓が跳ね打った事か…。
「何だ…その、姿は…?」
オレの目の前に並び立つ〝英雄達〟の中で一人…〝アーサー〟が俺へそう問い掛ける、言葉にしないだけで周りの者達も同じ事を考えているのか…その顔には警戒と〝忌避〟が強く出ていた…。
「フフフッ♪――なぁに、コレが〝オレ〟…ハデスの腹の底だ、悍ましく、醜く、何処までも薄汚れ、満たされることの無い〝救いようのない悪意の塊〟だ…だからそう〝在ろうとした〟だけの話だ…中々秀逸な〝造形〟だろう?」
オレはアーサーの目を見つめ、そう応える…その瞳のレンズ越しに玉座に座る〝醜悪〟をカタチにした化物を目にしながら。
――コポッ…ゴポッ…――
ソレは黒い人型の〝汚泥〟…腐肉の泥を纏い、その姿は人で在れど、その身体は人に非ず、ただ人を真似たフリをするだけの人ならざる〝化物〟の姿。
見る者の腸に蟲の蠢く様な不快感を送り付ける様な、〝醜悪〟そのもの。
――ドクンッ――
そんな風に、オレ達が談笑に耽っているとふと、この空間の遥か最奥、オレの背後の〝宇宙〟が鼓動を打つ。
――ビキッ――
『ッ!?』
鼓動の音と共に世界の境界が砕け、侵食してゆく…そして、彼等は目にしたのだろう。
『―――』
その、鼓動の根源で渦巻く…〝化物共〟の姿を。
「ルールは分かったか?…お前達が〝俺〟を殺し、〝オレ〟はソレを妨害する…何、言ってしまえばラスボス戦だ、世界の命運を掛けた最後の〝戦い〟……そう言うのは〝燃える〟んだろう?…」
まぁソレは飽く迄も傍観者ならだ…実際に己がその役を担うとなると、また話は別だろうがな。
――ビキッ――
「さて、さて…長話も其処までにして…だ♪」
オレはそう言い、玉座から身を起こし、守護者達へ向き直る…ソレが意味する所とはつまり――。
「そろそろ…最後の演目の幕を上げよう♪」
〝オレ〟と〝守護者〟の…血濡れた踊りの始まりが近付いている…と言う事だ。
「さぁ…何時までもこの醜悪な様ではお前達の〝立ちはだかる敵〟としてはちと相応しくないな……と言う訳で、だ」
――ゴオォォッ――
「〝相応しい姿〟を模るとしようか」
オレはそう言い、汚泥の穢れと呪詛に包まれ、を閉じ……己へ向けられた〝讃美歌〟に耳を傾け呪詛を紡ぐ。
「――〝天を仰げ、空の遥か彼方にて、星々は空を巡り今、星辰の時は来たれり〟」
○●○●○●
――ゴゴゴゴゴッ――
目の前で起きた…その異変、異常、異様な変質に、守護者は、人で在る彼等はその言葉に言い表しようもない、しかし…敢えて形容するならば〝恐怖〟に近いだろう心象を抱きながら、眼前の〝化物〟の呪詛をただ聞く…聞くしかなかった。
「〝祈りとは恐怖で有る、賛美とは狂気で有る…我等は百の祈りを喰らい、千の賛美を聴き入り、万の贄を以て現に目覚めん〟」
その声と共に、守護者達はその耳に不愉快な〝怨嗟の叫び〟を聞く…ソレは天から、地から、其処に住まう生命達が心の奥底に抱いた〝恐怖の声〟…〝邪悪への贄〟…ソレを喰らいながら、ハデスはその〝汚泥〟に身を包み…しかし膨れ上がる魔力に守護者達は冷や汗を流す。
「〝我は〝虚無〟より生まれた〝混沌〟…狂人の夢の使者…我に名は無く、姿には意味は無く…その心が真の満ちを知ることは無い…〝混沌の道化〟こそが我が定め〟…〝我は月に咆える者、無形万様の狂神也〟――『〝混沌神話〟――〝神格付与〟――』」
――ドクンッ――
「『〝嘲笑う無貌の狂神〟』」
ハデスが紡いだ…最後の呪詛、その刹那アーサー達の居た半壊した玉座の間は刹那にして黒に染め上げられてしまう。
――ゴポッ…ゴポゴポッ…――
守護者達は見た…その暗闇から、仄かに浮かび上がる、その〝存在〟を。
――ズズズズッ――
ソレは確かに〝悍ましい無形〟だった…そう、〝だった〟のだ。
醜悪なその巨躯が収縮し、〝人を模倣し〟…その姿形を人のソレへ作り変える。
その四肢は日に焼けたかの様に深い小麦色をし、その髪は冥府より黒い髪から、その全てを奪い去るかの様に白く、長い長髪と成り漆黒の闇に靡く。
何よりも彼等の目を釘付けにするのは、その中性的過ぎる顔だろう…その髪色も相まって女性に見える程の顔の、その口から覗く鋭い牙とも、〝犬歯〟とも言える歯は否が応でもその存在が人でない化物である事を認識させ、ソレと同時に人外特有の万人を引き付ける強い色香はその場に居た全ての人間に〝嫌悪感〟を抱かせる。
「――さぁ…この程度で十分かな?……しかし、こうも己の顔が無駄に美形すぎると小恥ずかしいな…うむ」
そう、アーサー達が思った直後、世界を包んでいた〝漆黒〟はまるで夢幻であったかの様に消え去り、しかしその変化は確実に現の物で有ると証明するように眼前の〝化物〟を残して消える。
――カチャッ――
「うんうん…良い感じ…かな?……ヴィルめ、相変わらず腕の良い奴だな♪」
ハデスはそう言い、その言葉を彼等へ投げ掛け…その顔に悪趣味な〝黒豹の面〟を被って彼等に相対する。
「さてさてそれじゃあ〝神殺し〟達、配役に付くが良い……そろそろ〝演目の始まり〟だ…〝タイトル〟は…こうしようか♪」
道化はそう言い、その黒い装束をバサリと広げ、守護者達へ声高だかに宣言する。
「〝邪神殺しの英雄達〟…何て、どうかな?」
その宣言と共に、守護者とハデスの…その最後の戦いが幕を開けた…。




