神を超える為に
皆様どうもお久しぶりです、泥陀羅没地です。
本日は少し短くなりますがどうぞ。
――ギリィンッ――
騒乱と土埃が空を突き抜ける…大地を駆ける二匹の鬼と、一匹の巨猪がその殺意を剥き出しに誰の抑圧も無く駆けてゆく。
「オォォォッ!!!」
「ヌゥッ!?――ッハッハッハッ!!!」
「ッ―――♪」
振り下ろされる大剣、その大剣を擦れ擦れで躱し、大剣を足場に跳び、二人は左右から足蹴りを放つ。
――ドゴォッ!!!――
その音は剛鉄の棒がサンドバッグへ勢い良く振り抜かれる様なそんな鈍い音を響かせる、ソレへ一瞬二人が直撃を確信したその瞬間。
――ガチャンッ――
鈍い大剣の〝落下音〟が響き渡り、己の足が〝動かない事〟を理解する……。
「捕まえたぜッ…!」
「「ッ――!?」」
土煙の晴れた先には己の脚を包み掴んで余りある〝手〟と、その顔を戦意で滾らせるバリッドの姿が有った……。
「「シィッ!」」
「遅えッ!」
そして、二人は同時にその刀をバリッドの手に振るうが、それよりも一瞬速くバリッドが二人を遥か彼方に投げ飛ばす。
――ドゴッ――
「グゥッ!?――無事かニノッ!」
「んッ…来るッ!」
「チィッ!?」
投げ飛ばされるも束の間、二人は刹那に立て直し、直ぐ眼前に迫る刃へ身体を動かす。
――ズドオォォォンッ――
その大剣は二人を受け止めた崖を一刀で斬り砕き、その余波に空気が撓む。
「化物めッ…♪」
「うん…凄く、強い♪」
二人が土煙の中から抜け出し、その惚れ惚れする剛力に思わず口角を吊り上げる、ソレと同時にまた一つ、巨躯の化物が目をギラつかせて二人へ迫り、また二人と一匹は打つかり合う。
「〝獄卒ノ焔鬼〟!」
「〝舞い吹雪雪染め姫〟!」
その身体を紅色の炎に染めて、或いは凍えを齎す冷雪を纏いながら。
「ッ――〝憤怒ノ猪王〟!」
ソレに相対するバリッドもまた、その身から赤い闘気を放ちながら大剣を振るう。
――ギリィィンッ――
ソレは、一際強く鳴る〝闘争の音色〟…無人の世界でたった3人にだけ聴く事の叶った〝至高の音〟…二人は〝直感〟する…。
「「ッ…」」
〝闘争の終わり〟が近い事を…そして――。
――キリッ――
「ッ……ハァァッ」
バリッドは理解する……この闘争の〝行く先〟を…。
――ドッ――
――ゴンッ――
「…本当、お前等にゃ驚かされる…出会う度に強くなってるってのはどう言うこったよ?……全く」
鍔迫り合いが止む、バリッドが身を引き…そして心底羨ましそうにそう言いながら己の頭を軽く掻く。
「…俺なんざ、五百年掛けて漸く〝此処まで来たってのに〟よぉ…そう安々と並ばれちまうと傷付くぜ…ったく……〝鬱陶しい〟事この上ねぇなぁ!」
――ドッ――
バリッドが強く大地を踏み砕く……その目には目の前の鬼に対する怒りと、殺意、そして溢れ出さんばかりの〝憧憬〟が有った。
「冗談じゃねぇッ、俺はまだボスに並べちゃ居ねぇ…足元にすら及んじゃ居ねぇ…このままで、終わってられるかよ…」
――ドクンッ――
バリッドがその身体から黒い瘴気を溢れ出させる…バリッドの視線は三郎丸とニノ、その二人だけに注がれていたが、その身体から放たれる黒い瘴気はまるで世界全てを〝怒る〟かの様に世界中に広がり続け、2人はバリッドの姿を〝見失う〟…。
――ギロッ――
しかし、二人はその黒靄の中から浮かぶ〝憤怒の視線〟に身を引き締めて隻腕の腕で己が〝愛刀〟を構える。
「『〝憤怒ノ猪王〟……〝争呪ノ暴王〟…俺の取っておきだ…だが、まだ〝足りねぇ〟…!』」
――ドンッ――
二人はそう言うバリッドへ心の中で〝否定する〟…。
(何処が〝ハデスの足元にも及ばん〟じゃと?)
(明らかに私達よりも…〝強い〟)
ソレは二人にだけ…闘争に明け暮れた二人にだけ知ることの出来る〝情報〟…。
〝達人の見識〟…と言うべき代物、その眼から認識する〝その存在〟の持つ戦闘能力の、その可視化…ソレが二人へ〝魅せた光景〟…ソレは。
「『グオオォォォッ…』」
己等を遥か上から見下ろす程の〝強大〟な猪の幻影…ソレは三郎丸達が見たどの敵よりも遥かに大きく――。
ともすれば、単純な見方をすれば〝ハデス〟でさえ、凌駕し得る程の〝強さ〟を二人へ見せ付けた。
ソレを見ながら、二人は何を思うだろうか?…。
恐怖か、忌避か、諦念か、呆然か…。
――〝否〟――
バリッドはその思考を否定する……バリッドはその〝存在〟がその様な〝下らない物〟に溺れるような存在では無いと理解している…。
で有れば何を思うだろうか?……そんな物は分かりきっている。
「「ッ……〝面白い〟ッ!」」
二人はその顔を〝笑み〟で染める……ソレは屈託無く、血に塗れ、見るもの全てを恐れさせる程〝威圧感〟に満ちた冷たい殺意の〝笑顔〟…。
バリッドの力を〝見抜いて〟尚、己等が微塵も負けるつもりは無いと言う様な…表情。
「『――やるかい、〝三郎丸〟…〝ニノ〟…テメェの全てを俺に見せろ、テメェ等の全てを凌駕し、喰らい尽くして、俺は〝ボス〟を超えるッ…』」
そのバリッドの言葉に、炎と冷気が膨れ上がる…ソレに呼応する様に、黒い瘴気は膨れ上がる…。
誰一人近付けない、誰も見ることの叶わない3人だけの〝大勝負〟……。
ソレを人知れず、流動する空の玉虫色は見下ろし…其処から覗く〝赤月〟が彼方から見守っていた。




