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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
終章:悪神討つ英雄譚
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祝福、或いは狂気の呪い

「進めェッ!!!」

「――※※※※!!!!」


大地に咲いた〝地獄の華〟…人の四肢が乱れ飛び、首は転げ落ち、胴体は内に秘められた腸を地面に溢れ出させる。


――グチャッ――


一人の屍が倒れ伏し、その屍を踏み砕き屍達が前へ進む。


一人の守護者が斬り殺される、その骸は死の間際に眼前の敵へ突貫し、その背中からまた別の守護者が剣を突き刺す。


人と人でない者達の創る〝地獄〟…否、最早この戦局に居る〝存在〟その全ては常軌を逸し、〝狂っていた〟…。


「ハァッ!」


――ズドォッ――


己の剣から光条を放ち、屍達を塵に変える…狂気の中に身を投じるアーサーは、この絶え間なく続く狂騒に顔を歪めていた。


「狂ってるだろう…コレは…」


屍が倒れ伏す、その骸は次の瞬間身体中の骨肉を砕き破裂して前方の守護者を削る。


仲間の骸を盾に、或いは道具とし、或いは〝己の腕〟としながら一切の恐れなく進む〝化け物達〟を見て、アーサーは忌々しげにそう吐く。


「…目を逸らしちゃ行けないよ〝アーサー〟君、彼等も僕等も、皆同じく〝狂ってる〟様な物だ」


そのアーサーへ、背後からそんな声が送られる…その瞬間。


――ズオォォッ――


巨大な〝嵐〟が戦場に舞い上がり、眼前の敵を巻き上げ、細切れにする…ソレを成した〝魔術師の頂〟を見た男はそう言いアーサーへ至極真っ当な言葉を紡ぐ。


「彼等は彼等の常識が有り、ソレが我々にとっての異常と言うだけだよ、事実死霊と人間はその生い立ち成り立ちから、性質、本質の部分では〝相容れない存在〟だ、であれば我々の常識で推し量るのは端から〝論外〟だと思わないかい?」

「ッ…それは…」


アーサーはその言葉に顔を顰める、言っていることは間違っていない…しかしソレを受け入れられるかと言われれば別問題だろうと。


「…君が憤る事は理解出来るよ、しかしソレを我々が言う権利はないよ…何せ我々も〝仲間の骸〟を利用してでも前へ進まんとしているんだからね…〝世界の害〟であるハデスを倒すと言う大義名分を得たとしても、その行為が正当化される訳では無い…そして、君も我々もその〝狂気〟を承知の上でこの戦場に臨んだのだろう?」


プロフェスは畳み掛ける…ソレは守護者達全員がこの〝地獄〟へ踏み込む前に承知していた〝狂気〟…ハデスを殺す為、一人でも多くハデスの元へ送る為に〝礎〟になる事を厭わないと言う〝狂気的な献身〟…血で塗られた〝一の全〟…正気をかなぐり捨てた〝狂気の沙汰〟を再認識させる様に。


「…そう…ですね」

「よろしい、それじゃあ行くよアーサー君…此処からがこの〝地獄〟の本領らしい」


認識を新たにプロフェスが予見していたかの様にそう呟く……その瞬間。


『『『『『――ッ!?!?!?』』』』』


戦場の至る所から〝何か〟の産声が響き渡った……。



●○●○●○


「『〝変容〟を忌む事なかれ、〝変質〟を拒む事なかれ、〝万物〟は移ろい行く、〝変化〟こそが〝栄光〟の因子で有る』」


玉座の間から、俺は紡ぐ…俺の元へ届く〝声〟へ向けて。


「『私は〝異端〟を拒まない、私は〝全て〟を肯定しよう、お前はお前の望むまま、お前はお前の求める姿、求める力を掴むが良い』」


屍肉を喰らい、血肉を啜り、骨を呑み、腸を混じらせろ。


新たな目を、人ならざる爪を、悍ましき双口を、身の毛のよだつ皮膚を、不吉の象徴たる無数の尾を。


「『〝更なる頂〟を目指す者へ、〝()〟は悍ましき〝祝福(加護)〟を与えよう』」


――ゴォッ――


俺の身から魔力が迸る…ソレは俺の周りで祈りを捧げる〝ソレ〟の〝捧げ物〟たる魔力の柱へ溶け込み、そしてその柱から無数の光が延びて行く……その様は〝大樹〟の様に。


そして戦場へ、〝黒の粉雪〟が降り注ぐ…ソレは悍ましくも幻想的で、その凄惨さと美しさに見る者の心を酷く震えさせる〝絶景〟と成るだろう…。


名をつけるならば〝地獄の雨雪〟とでも成るのだろうか…ソレは〝美しさ〟と同時に地獄を更なる〝渾沌〟へ誘う呼水と成った。


――シュウゥゥゥッ――


命無き〝生きる者〟達、黄泉の〝屍兵〟がその粉雪を身に積もらせる…ソレは各々の身に溶け合い、その者達の持つ〝欲望〟に根を張り、その者達の望む変化を施す。


ある者には泥の如き肉と毒の肌を与え。


ある者には腸を引き裂き汎ゆる物を飲み込む程の大口を与え。


ある者には万物全方を見渡す事の出来る無数の眼を。


或いは暗闇の中でも万物の位置を知る事の出来る膨大な耳を。


千差万別十人十色の変化を起こし、変質を施し…人の形も獣の形も全てが〝変わり果て〟…以前にも増す強力な力を溢れさせて〝屍兵〟は〝魑魅魍魎〟へ変わる。


「『〝選別〟せよ、〝鏖殺〟せよ、〝()(ツワモノ)〟として、醜く、悍ましく、浅ましく、下劣に…そして何よりも〝愉しく〟…な♪』」


〝主〟の言葉に魑魅魍魎は大きく叫ぶ…〝感謝〟を。


そしてまた再び動き出す…〝愉しい蹂躙〟を求める様に……。



○●○●○●



「ッ…成る程、〝祝福〟による〝強制進化〟か…正に神の所業だよ…コレは…」


蠢き叫ぶ魑魅魍魎へプロフェスは冷静に今起こった事象を分析する…眼前の変質した化け物達の〝蹂躙〟を見ながら。


汎ゆる能力が守護者と同等以上に引き上げられ、そして急激な変化にも関わらずその〝能力〟をまるで熟練した老兵の如き〝妙技〟で振るう〝一騎当千〟に化けた〝敵〟達。


「本格的に〝選別〟しているようだね……これ以上先がどれだけ過酷なものなのか想像するのも恐ろしいねぇ……」


冷や汗を流しながら、しかし…プロフェスは己の〝腹の中〟で抱く感情に思わず笑みを零す……。


「元々は〝研究者〟のつもりだったんだが…ここまで来るともう否定は出来ないねぇ…」


ソレは昂り膨れ上がる〝戦意〟…目の前の化物を相手に己の術が、磨き上げた力がどれだけ通じるのかと言う純然たる〝好奇心〟…知的欲求とは異なる〝ソレ〟にプロフェスは等々〝認める〟…。


己が、〝守護者〟と言う立場を…〝魔を討つ者〟と言う立場を心の底から楽しんでいる事を。


「――フフフッ…いやはや、こういうのを〝ゲーマー思考〟と言うのだろうか…うん……〝悪くない〟ね…♪」


プロフェスはそう言い、己の腰から〝2冊〟の魔導書を取り出す。


「〝グリモワール〟…〝レーテ〟…〝少し手伝い給え〟」


プロフェスはそう言い、2冊の魔導書へ呼びかけながら〝魔力〟を溢れさせる。


『ふむ…成る程、〝承知〟した』

『キヒッヒヒヒッ♪…うむ、うむ!…中々の〝気狂い〟よ、斯様な〝思考〟は我が創造者でさえも行おうとしなかったぞッ――無論、愚かなその〝考え〟を許すッ、存分に我を〝使う〟が良い!』


その2冊は宙を浮かび、〝詠唱〟する〝主〟へ向けてそう言いながらも〝魔力〟を帯びる…。


戦場は以前〝渾沌〟を極めたが、その渾沌の各所では〝光輝〟が浮かび宇宙に散る星の如く人々に〝希望〟を与え始めた。


戦場は一転するだろう…その先は〝闇〟か、或いは〝光〟か…それは直に〝明かされる〟事だろう。

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