砂時計は逆転する
――グモオォォォッ――
空が蠢く、玉虫色の何処そこから空腹の音色を奏で、その空の中に照らされる〝赤月〟が〝偽りの昼〟を呼ぶ…。
――ザッ…――
ヒュルリ…一風がその大地に立ち並ぶ〝彼等〟を駆け抜ける…彼等は皆、その顔に緊張を持ち…そして頻りに己の視界に映る〝砂時計〟に目をやる……。
ソレの中身はもう殆どが下へ落ち…〝忌むべき試練〟の始まりを告げようとしていた……。
――ゴォッ――
その時……彼等はその音に慌てて目を向ける。
「何だ…アレ…?」
ソレは玉虫色を蝕む〝暗闇〟…〝在るべき夜〟…否、良く見ればソレとはまた異なる〝漆黒〟だった。
ソレは瞬く間に空に広がり、世界を塗りつぶし…そして、空を〝黒〟と〝赤い月〟に染め上げた……その光景に守護者達が見上げたまま、呆然としていた…その瞬間。
「『やぁやぁ、ようこそ〝舞台〟へ……歓迎するよ〝演者〟の諸君』」
守護者達の目の前…直ぐ近く、目と鼻の先に〝ハデス〟が現れた……。
○●○●○●
「始めまして〝ユリ〟君…君が私の演目に参加する事、その意思を示した事を私は酷く嬉しく思うよ♪」
私は今……目の前に現れ、そう言い手を広げて私を歓迎する…〝人の様なナニカ〟を見て…思わず息を呑む。
「――ん?……あぁ、いやぁ済まない…実を言えば今日この日を夢に見続け半年も過ごしていた故、少し緊張が…んん…良し、コレならどうかな〝アステル〟君?」
目の前の化物は、そう言い〝何か〟をしたのだろう……気が付けば俺の周りに纏わりついていた〝気色悪い空気〟が消え去り、小さな安心感に包まれる。
「殺す――」
――ブンッ――
私の剣が空を斬る…たった一瞬、目を離した……その瞬間にハデスは消える。
「危ないねぇ〝柿渋〟君…他の演者に当たったらどうするのさ?」
消えたハデスが、次の瞬間俺の隣に現れる。
「残念ながら今君達が私を殺す事は出来ないよ」
「私は飽く迄も〝この舞台〟…〝このイベント〟の宣言に来た〝通達者〟だ……コホンッ、さてさて、長話も此処までにしようか…もう、〝残り時間〟も僅かだろう?」
ハデスの言葉に視界の端を見る…その砂時計はその中身の殆どを〝空〟にして、その砂時計の上に刻まれた数字は0を並べ、そして刻々と数字を減らしてゆく。
「それじゃあそろそろ〝ルール〟説明をしていこう♪…ルールは簡単〝制限時間内での目標の殺害〟だ、参加者は先ず〝あの子達〟の元へ行き、あの子達が展開する結界を入る事……無論ただで結界の中に入れる訳じゃない、入れるのは〝覚悟有る者〟達だけだ、覚悟とは何なのか…ソレは君達も良く知ってるだろう?」
ハデスはそう言いの方に手を伸ばす……その手には〝砂時計〟が握られていた。
「中には私が〝用意した兵〟が居る…其れ等と戦い、そして第二の結界へ進みし者は〝正義〟を示してもらう其処で戦うのは……フフフッ、ソレは〝お楽しみ〟だ♪」
「――そして、其処での〝試練〟を超えたのならば、次に示すのは〝勇気〟だ…勇気とは何か…良く己の心の中で考える事だね…其処での試練は〝私の部下〟…君達もよく知る因縁浅からぬ彼彼女等と戦って貰う…そして〝踏破した者〟達が最後の最後…〝私〟と踊る権利を得る…多少の〝問答〟は有るけどね……それじゃあルールは以上!…そろそろイベントが始まるぞ!」
ハデスはそう言い、砂時計を天高くに放り投げる……その砂時計は回転し、宙を泳ぎ地面へ迫る。
「ハデスが〝世界の終わり〟を巻き起こすまで凡そ〝3時間〟…私から君達へ送るとすれば、ソレは〝焦らない事〟と〝諦めない事〟…焦りは盲目を呼び、諦めは放棄する事で有るからだ…それじゃあそろそろ〝始めよう〟!」
――ガシャンッ――
砂時計が大地へ突き刺さる…その上下を逆さまにして…そして、その器を繋ぐ小さな穴から――。
――サァァ…――
星の屑が零れ落ち、〝タイマー〟が作動する。
『ただいまより、〝第七イベント〟――【世界再誕ノ刻】を開始致します』
その音を聞いた瞬間、守護者達が駆け出し――。
――ドオォッ――
〝天の廃城〟から空高くへドス黒い〝魔力〟の柱が噴き出した…。
●○●○●○
『『『『『■■■■■■■……』』』』』
廃城の玉座の間…否、〝祭儀上〟にて、何百人もの〝集団〟が呪詛の如き祈りを込める。
その顔は顔の無い仮面をし、その身体は真っ黒な衣で覆われていた……それらは一時の休みも無く呪詛の祈りと、神への〝讃美歌〟を歌い続ける…。
〝空の玉座〟の真の主へ向けて。
○●○●○●
「『〝闘争〟の時が来た…お前たちの望む、私の望む、我々の望む〝最後の闘争〟が』」
ソレは静寂に満ちた中で響き渡る〝王〟の声……その王は姿を見せず…ただこの戦地に集った兵達へ声を紡ぐ。
「『地獄の宴が、狂気の祭りが、絶望の一時が最早我々の手の届く場所に来た』」
その言葉を聞きながら、皆が皆、その目に狂乱を燃やし、眼前を殺意に満ちた瞳で睨む。
「『お前達の望む〝最悪の戦争〟を、〝最高の劇場〟が幕を上げる、備えろ、剣を取れ、弓を構えろ、お前達は今日に死ぬ、明日は無く、たったこの一瞬一刹に死に絶える、塵のように、華々しく…不条理に理不尽に…〝俺の為に〟』」
約束された〝破滅〟の中で彼等はただその王に膝を突く……理不尽極まりない命令を受けて尚、彼等は彼等の王へ尋常成らざる〝忠誠〟を捧げていた。
何故か?…〝ソレが彼等の望みで有るが故に〟…。
「『お前達の狂気を見せろ、お前達の殺意を魅せろ、俺の為に、俺の〝目的〟の為に、お前達は守護者を蹂躙し、鏖殺し、そして息絶えろ…汎ゆる手を使い、味方の屍も敵の屍も利用し進み続けろ――さぁッ、此処に集いし〝ロクデナシ〟の〝ヒトデナシ〟共、始めるぞ!』」
彼等は死を厭わない、命尽きる事を、塵の如く死ぬ事を…己の全てが消え去る事を…ただ、〝主の命令に全てを捧げる事〟をこそ、彼等は〝最上〟の美徳とする。
ソレは最早〝正気〟で無く――。
「『さぁお前達ッ、お前達の〝全て〟をこの地獄に捧げろ!』」
――〝狂気〟、であった…。
――ドドドドドドドドッ――
奔る、駆ける、這い回り空を飛び、地響きを、殺意の波を揺らして、獣が虫が、人の骸が、骸の化物達が大地を駆ける。
『『『『『『※※※※※※※※!!!!!』』』』』』
狂騒の叫びを戦地に轟かせながら……。




