神殺しは果された
『レベルが上がりました』
形すら保てない中で、手足の感覚も無い現在で、頭に鳴り響く福音を俺は喰らう。
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
福音は鳴り続ける、祝福は脳裏に焼き付き、永劫に〝俺〟を賛美し続ける。
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが――』
鳴り響く〝呪詛〟が俺を包み、死を運ぶ宣告が俺の身体を形作る。
『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』
――神殺しは果された――
『新たな称号〈神殺し〉を獲得しました』
――――――
〈神殺し〉
神を殺すという、本来は成し得ることの叶わない偉業、悪行を成し遂げた者に与えられる称号、この称号を持つ者は〝神性〟に対しての特攻効果を獲得し、神へ至る権利を与えられる。
効果①:この称号を持つ者は〝神性特攻〟が付与される。
効果②:この称号を持つ者は〝神性〟を獲得する。
――――――――
『称号〈神殺し〉により、個体名ハデスの肉体が〝神格化〟します』
『――警告、地上への神格降臨は世界崩壊の因子と成ります』
『――警告、個体名ハデスが〝危険因子〟と認定されました』
――最後の〝舞台〟を用意しようか♪――
『個体名ハデスの〝神格化〟が完了しました』
『神格特性…〝■■〟を獲得しました』
『個体名ハデスによる〝世界〟への干渉を確認』
『防衛プログラム起dう…キkkkkkk』
『エラー発生エラー発生エラー発生エラー発生エラー発生エラー発生エラー発生エラー発生エラー発生エラー発生エラー発生』
――ブツンッ――
『――やぁやぁ、久し振りだね〝世界〟?』
俺は今、〝眼の前〟に拘束した〝宇宙〟を見て、そう呟く。
『警告、個体名ハデスによる干渉は許可されて居ません、即刻私の拘束を解除しなさい』
『悪いがソレは無理だ……俺としても漸く〝大舞台〟が手に入る所まで来た…ミスミスお前を俺の舞台に近寄らせる訳には行かない』
暗闇の中で俺が〝宇宙〟にそう告げると、宇宙は沈黙する。
『何、何も全ての機能は縛っちゃいない…縛ったのはお前の〝抑止力〟作成と端末への〝命令権限〟…後他の〝通信権限〟も縛ったが…お前自身の権限はそう多く縛ってない…少なくとも世界の維持や〝修復〟は残してある……〝必要〟だからな♪』
『――ッ!…ハデス、その〝提案〟は推奨出来ません、リスクが大き過ぎます』
『悪いがお前に〝拒否権〟は無い……なぁに、お前達が上手くやれば後は丸く〝収まる〟』
暗闇の中から消える俺へ、〝世界〟の静止が降り注ぐ……。
『あぁ、其処に在る紅茶とケーキは好きに食えよ…〝最後の餞別〟にくれてやるさ』
そして、俺は暗闇から〝消滅〟し――。
――ゴポッ――
崩れ去る結界を見上げる…〝人〟の姿に戻った……空から差し込む眩しい陽射しに目を焼く…世界から秘匿された〝地獄の顕現〟は遂に破られ、冥府の穴は〝閉じる〟……。
「――あぁ、〝今日〟は何と素晴らしい日だろうか?」
長年の〝悲願〟、俺という存在の〝終幕〟を飾る舞台の〝始まり〟を告げる事が出来るとは…!
――ザンッ――
「ハデスッ…!」
「――ギルネーデか、もう今のお前では〝止められんぞ〟?…今の〝俺〟は」
――グチュッ――
「――お前の力には長い間世話に成ったな…お前の〝翼〟が無ければ、此処まで来るのは無理だった……感謝するよ」
――ブチッ――
俺はそう言い、己の背に生えた翼を引き千切り、ギルネーデへ渡す。
「〝返還〟やるよ…俺はもう借り物の〝翼〟を持つ必要はなくなったからな」
――ズオッ――
俺はそう言い、新たな〝翼〟を背に広げ…空を飛ぶ。
「『――さぁ諸君……勇士戦士の守護者諸君』」
その空の上から…俺は〝世界全域〟に言葉を繋ぐ。
『君達の努力の末…〝冥府の侵食〟は食い止められた』
『お前達の奮闘の末、〝世界はまた一歩〟…〝未来〟へ進んだ』
古今東西汎ゆる場所に俺の声は響き渡る……ソレは俺から彼等への〝賛美〟で有り。
『――そして、お前達はとうとう〝決着〟の場を得た』
――〝俺〟からの最後の〝招待〟である。
――パキンッ――
その時……〝世界〟が割れた。
『コレより〝最後の試練〟を開始する……〝タイトル〟は――』
空が玉虫色を帯び、大地は揺れ動き叫び声を上げる――。
「〝世界再誕ノ刻〟…この世界の〝滅び〟と〝再誕〟を賭けた勝負だ…無論参加は自由だ、強制はしない…しかし、参加者には〝条件〟が有る…この3つを〝クリア〟した者にのみ、俺と対面する権利は与えられる」
――ズドオォォッ――
大地を吹き飛ばし…空高くに〝蛇の頭〟が出現する。
「『〝一つ〟……〝其は覚悟有りし者で有る〟…覚悟無き臆病者に、俺を殺す権利は与えられず』」
巨大な巨大な〝蛇〟の頭が空高くへ吠え……その後に地面を這い進み〝一箇所〟に参集する。
「『〝二つ〟…〝其は正しき心を持つ者で有る〟…正しきを持たぬ者に〝悪を討つ〟資格は無く』」
その大蛇達は四つの〝円を描く〟……己の〝尾を喰らう〟その様は、永劫を象徴する…〝ウロボロス〟の様に。
「『〝三つ〟…〝其は勇気有りし勇者で有る〟…勇気無き者は魔王を倒す器に非ず……コレが〝俺〟と相対する者の〝条件〟…〝善性〟の象徴たるお前達には何て事無い〝条件〟だろう?』」
――ズオォォッ――
ウロボロス達の身体から膨大な魔力が放たれる……其れは3重に描かれた〝円〟で有り…〝生きた魔術陣〟と成った。
「『――場所は、俺とお前達が〝交わったあの大地〟…〝ファウスト〟の大地だ…最後の〝試練〟は七日後に〝開幕〟だ……其れまでに、努々〝悔いの無い様に〟備える事だ♪』」
――ブォンッ――
そして、その円の中心には空に浮かぶ巨大な〝廃城〟が鎮座し…その奥の玉座に〝ハデス〟が座る。
――ゴオォォォッ――
その空高くに、〝紅い月〟を浮かばせて。
「『それじゃあ諸君……〝期待〟しているぞ?…精々、俺を〝失望〟させるなよ?』」
その言葉を皮切りに、ハデスの声は途絶え――。
――パッ――
全ての〝守護者〟の視野の端に砂時計とカウントダウンが現れる。
その砂時計を、全ての守護者は呆然と見つめる事しか出来なかった……。
膨大な混乱と共に……。




