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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十五章:神殺を企む者、神敵を討つ者
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大いなる悪魔の前座㉑

――バリッバキバキッ――


咀嚼音が闇の中に響き渡る……その音を聞きながら、この場に存在する〝生命〟は全て、理解する事が出来ず、呆然と立ち尽くしていた…否、〝理解〟を拒んでいた。


「は…?」


ソレはアーサーだったか、エリセだったか、ヨイチだったか…はたまたギルネーデか?…。


そんな物はどうでも良い、皆が皆、ハデスの成し遂げた〝悪行〟に強く衝撃を受けた事は事実だ。


しかし、その眼は、その身体はその行為に直面し、認識していたとしても、その脳は、魂はその〝行為〟を理解する事は無い。


――〝悪魔〟が〝神〟を喰らった――


その行為をどれだけ説明しようが、彼等は皆鼻で笑うだろう…実際、この場の彼等彼女等とて同じ様な反応をする筈だ。


しかし、今…〝非現実の現実〟を目の当たりにしては、そんな馬鹿げた話は否が応でも信じざるを得なくなる。


――ドクンッ――


「『ッ―――!』」


その時、ハデスの醜悪な身体が膨れ上がる……その姿に、皆がもしやと希望的観測に心を安堵に染める。


『如何にハデスでも、そう簡単に神を殺せるものか』

『今に神の鉄槌がハデスを咎めるだろう』


――と。


そんな、稚拙な妄想を勝手に信じながら…皆の視線がハデスに集中する。



●○●○●○



「やぁ……実際にこうして会うのは初めてかな?」


永劫に続く暗闇が晴れ、我は見上げる様に屍の玉座に座る男を見る。


「貴様ッ――!?」


その姿を……己の仇敵のその姿を認めると同時に私が攻撃に手を伸ばしたその瞬間。


――ボシュンッ――


泡沫と咀嚼跡と共に、私の腕が消え去った――。


「ッ〜〜〜〜!?」

「まぁ落ち着けよ、死ぬ前に少し話でもしよう♪」


痛みに呻き、私は膝を落としハデスを睨む…だが、その視線を受けて尚、ハデスはその笑みを絶やすことはなかった。


「それで…さて、何から話そうか…何か質問は?…今なら何でも答えてやるぞ?」

「『〝善ヲ拝スル焔ノ剣〟…!』」


私は私の武器を呼ぶ、すると私の手の内に焔が集まり、目の前の悪魔を灼き尽くす焔の剣が現れ――。


――ボシュンッ――


る、事は無かった。


「――は?…え?」


その光景に私は瞠目し、思わず困惑の声を漏らす…その時。


「生憎と、此処じゃお前の力は使えんぞ?」


悪魔の…ハデスの淡々とした声が重くのしかかった。



○●○●○●


「――最初の〝質問〟は〝ソレ〟からか?」


俺は今も阿呆面晒して俺を見上げる愚神へそう告げる…しかし、その言葉に返答はなく放心した様に愚神は立ち尽くしている…どうやら、余りのショックに脳が死んだか?…。


――バシュンッ――


「――ガアァァッ!?」

「お〜戻った戻った♪…さて、気付けも済んだ所で…どの話だったか――あぁ、思い出した♪」


地面にのたうつその女を見下ろしながら、俺は言葉を続ける…ちゃんと聞いてるのかコイツは?…。


「先ず最初に…此処は〝現実〟では無い、されど〝心象世界〟とも言い難い……此処は〝俺〟が創り上げた〝俺の世界〟…此処では現世の常識も、冥府の常識も通用しない…此処に〝生死〟の概念は無く、〝汎ゆる生命〟は等しく〝餌〟として俺に吸収される…たった一度、この一度だけにしか〝扱えない〟…お前を〝殺す〟為に態々俺が拵えたお前の処刑台だ♪」


お?…殺すと聞いて恐れたか。


「そして、お前の力が使えないのも簡単な話だ…此処はお前の処刑台、ならばお前の抵抗を潰す為に幾つか仕掛けを施した……一つが〝信仰の途絶〟…お前の力の源、否…お前自身を構成する…〝神性の因子〟たる〝信仰〟を遮断した……今のお前には童一人、虫一匹の祈りすら届いちゃいない」


コレがお前を殺す為に拵えた〝仕掛け〟の一つ。


「次に、この場は神や世界でさえも認識する事は出来ない……まぁ唯一認識出来る存在は居るが、それはまぁ良い…兎も角、第二にお前の現状は〝誰一人〟にも認識はされていない」



形式的にはただの〝術〟…その術が効力を発揮した以上は後は〝何も無い〟…その術の効果は分かっていても、その術を使う事で何が起きているかまでは世界にも認識は出来ない。



「他にもこの状況を成立させる上でそれなりの代償は支払ったが…ソレはもう話す必要も無い…この〝術〟は未来永劫創造される事は無いし、ソレに類する術理の成立も今後かなりの〝措置〟が取られるだろうから悪用もされまい」


その辺は〝奴等〟に投げるとして…だ。


「――そろそろだな♪」


その言葉と共に、俺は玉座から立ち上がり、〝愚神〟の元へ足を進める。


「もうそろそろ潮時だ♪」


一歩進む……ソレと同時に俺の背後の暗闇が割れ始める。


――ギョロッ――


その亀裂からは何百、何千何万の目と耳と口が生まれ、その全ては愚神に注がれる。


「そろそろお前を〝頂く〟としようか」


――カツッ――


一歩、また一歩と足を進める……その度に、俺の姿は人で無くなっていき、その世界が壊れ、愚神の恐怖は増してゆく。


「『無力は恐ろしく』」

「『無知は愚かしく』」

「『死は絶望であり』」

「『忘却は抗えず』」


俺の言葉に比例して、愚神の心に〝恐怖〟は満ちる。


「『有限とは満ち足りず、無限とは飽和で有る』」

「『忘却と記憶は永劫に繰り返され、やがて人々はその円環の果てに新たなる道を紡ぐ』」

「『ソレが終わらぬ〝血の地獄〟であれ、人々を魅せる〝光の栄光〟であれ…何れにせよ進まぬ者に齎されるは〝停滞と腐食〟である』」


物事は始まりと終わりの繰り返しだ、生まれては死に、その内で人は抗い続け今の今までその歴史を紡いできた…ソレは地獄の黒であれ、偉大なる白であれ〝尊ぶべき人の連続〟だ。


「『進化を望まぬ者も居よう、お前のように、栄華を永劫にする為に、自己の絶対性を世に知らしめん為に…俺はソレを否定しない、〝停滞〟を選ぶのはお前達の権利で有ろう――だが』」


――ビキッ――


亀裂から覗く〝名状し難き化物〟は、その屍肉の蔓を伸ばし愚神を拘束する…そして、俺は愚神の前に立ち、その溢れんばかりに広がった〝恐怖〟を見る……心底滑稽だな。


「『――お前は過ちを犯した…行き過ぎた施しを正当化し、己の責務を放棄した…善の皮を被った〝神モドキ〟め…お前は最早〝神に非ず〟――〝神を騙る愚物〟で在る』」


成ればこそ…今一度〝正さねばなるまい〟…。


「『お前の死と、幾らかの時を以て…世界は在るべき公平を取り戻すだろう…どうした愚神、否神モドキ…何を恐れる?…コレも全て貴様から始まった因果だろう?』」


行き過ぎた世界への干渉、私利私欲の扇動から起きた、起こるべくして起きた〝取り立て〟だ。


「『否、何も語るな汚泥の俗物…お前には神たる権利は必要無い、お前は善を名乗る資格はない…ただの〝神騙りの道化〟として、〝死ぬが良い〟』」


未だ…抵抗しようとする〝道化〟…その道化の胸へ俺は腕を突き出し――〝貫く〟…。


「ッ―――――!?!?!?!?」


ソレは〝絶叫〟だった……道化の叫び、無様な命乞い…その言葉は最早聞き取れぬ雑音となり消え去る……その〝力〟を残して。


――ガプッ――


その力を食らう…その瞬間。


――ドクンッ――


俺の身体は〝崩壊〟した…。

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