悪夢の劇場に狂騒は奏でられる⑥
最近気力が湧かなくなって来た……投稿ペースが落ちる事をお詫びしますm(_ _)m
――ドクンッ……ドクンッ……――
「ふむ……前に見た〝混沌の暴威〟の改良型か」
火力こそ控えめだが広範囲に形状を与えた魔力の塊、陣に隠蔽術式を与えて相手の探知を僅かにだが躱す……気が付いた瞬間には逃げ場のない攻撃の嵐……火力も対生物には問題無い。
――ドクンッ……ドクンッ……――
「〝蠅共〟が使ってたアレを人力で、効率良く運用している……やはりコイツは素晴らしい」
さぁ、まだまだ見せてくれよ?
○●○●○●
遂に始まった北の鬼討伐戦、プロフェスに託された四人が、二手に分かれて戦闘を始めた。
『※※※――』
「アカネ」
「はいよっと」
鬼が咆える……すると身体中から触手を生やし、眼前の敵へ向かう……しかし、それは横の女が投げたナイフによって防がれる。
「んで〝起爆〟」
――カァッ――
突き刺さるナイフはその声と共に、中心に嵌め込まれた玉石は割れ、光を放ち爆発する。
「フフンッ、〝戦職人〟のアカネ様謹製、爆破ナイフの味はどうよ!」
「相変わらず妙な仕掛け物を作る」
「ニュフフッ、そう言う〝ノーマン〟こそ浪漫馬鹿じゃないか♪」
「否定はしないな……しかし、義手も造れるとは思わなかったが」
――バッ――
『※※※!?』
「派手に打ち抜こう……〝圧縮〟」
触手を足場に空へ飛翔し、左手を振りかざし巨躯の化物へ迫る男……その左手は赤く灯り、明らかに危なげな音と蒸気を発している、それを見て直感的に触手を前に束ねる化物……しかし。
「〝開放〟」
――ゴッ!――
束ねた触手が弾け飛ぶ、それは肉の弾丸となり、化物の身体を貫く……それだけで、どれだけ馬鹿げた威力の攻撃か分かるだろう。
「ど〜よ〝絡繰義手〟の使い心地は?」
「うん、悪く無い……後はワイヤーを付けてくれ」
「お、良いねぇ!……ただ」
――※※※※※※!!!!――
「ちょこーっと時間掛けすぎたっぽいね」
「……不味ったな」
それは、元の……人の形を捨てた……いや、人の形を辛うじて認識出来る、傷付いた箇所に触手が生え、口はまるでイソギンチャクの様に気味が悪く、その虚ろな目は飾りの様に白く濁って……その姿は最早生物のソレを逸脱していた。
「アカネ〝注文〟」
「はいはい何だい?」
「コレをもう一個、ワイヤーアクションの機能も込みで」
「お買い上げありがとう御座いまーす……コレはサービス♪」
「ん、センキュ」
迫る触手を捌きながらノーマンが触手を渡る……その左手は赤く赤熱し、蒸気がユラユラと立ち込める、アカネの投げる爆破ナイフが触手を砕き、本体への道をこじ開けて行く。
「〝圧縮〟……〝上限超過〟」
――ヒュンッ――
先と同じ動き、ソレに対し化物もまた同じく触手を束ねる。
――コツッ――
『ッ!?!?!?』
『おい主ッ今の見たかオイッオイ!?』
『五月蝿え!?見たから揺らすな、気持ち悪――』
化物の作った触手の壁はものの見事に肉片と化し、熱を帯びた力の塊が、柔らかな皮膚に触れ――
「〝開放〟」
――パァァァンッ――
まるでザクロが割れる様な、派手な花火が咲いた……が、しかし。
『※※※※』
「嘘だろ、まだ生きてるのか」
身体の半身を抉り取られて尚、ソレは吼え、残る身体を全て使い攻撃を放つ……左腕の無い、宙に投げられた人間へ……だが、それが当たることは無かった。
「醜い欲の獣よ、疾くと去れ」
「御二人共、詰めが甘いですよ?」
現れたるは二つの影、矢を引き絞る赤髪の女と、槍を手に白髪の細身な男が化物へ駆ける。
「失礼しますね、〝身体強化〟……トリィ!」
「〝致命の一矢〟」
宙に舞うノーマンを掴み、触手を切り払う白髪の男……そいつが声を上げた瞬間、触手を貫き、化物の頭蓋を貫いて矢が通り抜けた。
「『北の鬼が撃破されました、囚われた人間が開放されました、楔を失った鬼は消失します』」
「コレでこの街の脅威は減ったでしょう……っと、申し遅れた、私は〝円卓騎士団〟で幹部をさせて貰っている、〝白雲〟と言います……円卓では〝ベディヴィエール〟と呼ばれています、そしてコチラが、私の友人こと〝レッドローズ〟、円卓では〝トリスタン〟の名を与えられています」
「うむ、何方でも好きに呼べ」
「しかし驚きましたね、アレだけの攻撃を有した武器……いえ、義手ですか、実に興味深い……是非とも我々も作って頂きたいのですが」
『悪いが商談は後にして貰おう、君達のお陰でこれ以上の増援は無いが、増殖した奴隷が支配から開放され暴走を始め、周囲へ散らばった……慎重且つ迅速に住民の救助と避難誘導を行い給え』
「「「「了解」」」」
そして、最も早く悪夢の脅威に晒された北の街は、その悪夢から最も早く開放された……しかし、悪夢はまだ終わらない、全ての晩鐘を止めない限り。
○●○●○●
『ほうほう……そうか、魔力爆発を意図的に誘発させる仕組みか……それも魔力を十全にその機械の中に集め、擬似的に魔石と同様の構造にする…圧縮された魔力は火種に触れて一気に膨張――』
「ふぅむ……〝北は実質ゲームクリア〟か…被害は数人だけか…もうちょっと強くすれば……いや、流石にそれは厳しいか」
ゲームバランスが壊れるな……今回のも有力者が複数人、ダメージソースになる奴が結構数居たからこその状況だ、あの程度の雑魚では足止めが精々か。
「まぁ彼処にはプロフェスが居たしなぁ……それに彼が生き残ったのは十分嬉しい事だ……その分残り三方は厳しそうだが……」
後は残りの街が〝切り捨てて残りを生かすか〟、〝救いに行って全滅のリスクを負うか〟を選ばせるとしよう。
「さぁ勇者……時間は僅かだぞ?」
俺は視点を切り替え、刃を振るう〝勇者〟を見る。
●○●○●○
『「ゲーム開始から、1時間40分……さぁ、そろそろ幕引きが近いぞ?」』
「クッ……クソッ」
「大丈夫かアーサー!?」
「問題ない、それよりも急げ、時間がない!」
南の街は散々たる有り様だった……荒れ果てた家々、教会は赤黒い血溜まりで満ち、其処には赤黒く滴る、血まみれのドレスを着た髑髏が在った。
『※※※※!!!』
ガタガタと歯を鳴らす、それと同時に血液が沸き立ち、血の腕が迫る。
「クッ……聖剣が使えたら――」
こんなモノと言いかけ、口を噤む……ソレではまるで……。
『聖剣が無ければ何も出来ないか?』
あの男の言葉を幻聴する……そうだ、アレは僕を敵として見ていない、厄介な力を持った、道端の石にしか思っていない。
「『〝自分の力を見せてみろ〟』……」
「アーサー!?」
「ッ!」
――ギィッ!――
赤い血の腕が迫る、ソレを辛うじて回避する。
「チッ……掠ったか……」
自分の力を見せてみろ、自分の力……聖剣は自分の力では無いと?
『そうだ、ソレはお前の力では無い……〝与えられた能力だ〟』
ならばお前の死霊術は?
『俺のソレも確かに与えられた……しかし、ソレは既存の術理を分解し、分析し、理解しその性質を拡げた、既存のソレを逸脱した、1つの力として存在している……分かるか鈍ら、俺の言っている意味が?』
凌ぎながら、脳内に聞こえる幻聴、或いは思考に存在するそいつの在り方が語り掛けてくる。
『今のお前には聖剣は無い……否、聖剣の力を抑制されている……それでは今までの聖剣に頼り切った戦いは出来ないだろう?』
嘲笑と侮蔑を感じさせ、そう笑う悪魔……事実だ。
『しかし聖剣の力を完全に奪った訳では無い』
『………』
『この限られた力でどうするのか……お前はソレを知りたいのだろう?』
『……ほぅ?』
私の言葉に、悪魔は始めて好奇を示した。
『認めよう、悪魔……僕は確かに、聖剣に頼り切っていた……それ故に慢心していたのだろう……そのツケが今此処で返ってきたと』
認めるさ……僕は弱いと、力に頼り切った青二才だと。
『僕は君を赦さない、人に仇なす君を、世界を脅かす大悪を』
『……』
其の為に、僕は………〝聖剣〟を捨てる。
『何だ、鈍らなりに良い所を突くじゃないか♪』
『守護者、勇者と持て囃されて、聖剣を与えられて……何時しか僕は〝その在り方〟に縛られていたのだろうね』
悪魔は満足そうに、僕の脳裏から消える……あぁ、感謝するよハデス……君のお陰で、僕は新たな高みへ至れた。
――聖剣変換――
●○●○●○
長らく続くその戦場で、初めにその変化に気付いたのは誰であろう?……この世界を共に踏破してきた仲間……否、遠巻きに戦場を眺める悪魔?……否、今こうして、力を奪われて尚脅威だと、ソレへ攻撃を集中させる〝鬼〟であった。
『「聖剣変換……」』
その声は戦場に静かに小さく響く……抵抗が消えたソレへ、触手は更に猛撃を叩き込む……理由は分からない、ただ。
――コイツはヤバい――
そう直感したが故に……しかし、それは。
『「〝守護女神の大盾〟」』
穢れて尚美しく仄かに輝く、堅牢な大盾によって防がれる。
「アーサー……それはッ――」
「『タイムリミットまで後一分だ、本来ならば此処でゲームセットだが、主催者権限でタイムリミットまで延長する、さぁ勇者、残りの時間までに、その〝鈍ら〟を鬼に突き立てて見ろ!』」
「〝聖剣開放〟」
吹き荒れる光の奔流、近付くだけで周囲の不浄は弾け飛ぶ……尤も、出力の下がったそれは、鬼の操る血の腕を滅ぼすには至らなかったが。
『「―――〝浄滅の光条〟」』
そして、その光の一条は、数多うねり動く血の腕を押しのけ、焼き尽くし、化物へ迫った……。
――ゴーンッ!!!――
――パキンッ――
「「「「おめでとう諸君、ゲームクリアだ………〝ノーマルエンド〟では有るがね♪」」」」
夢から覚めた……昏倒した彼等は悪夢に飛び起き、日常に戻ったことを噛み締める……生き残ったことを喜ぶ声が街に響く……しかし、気付くだろう。
「ママは?」
直ぐ側に居た母が、父が、祖父が祖母が孫が息子が娘が居ない……何処にも、跡形もなく……まるで、本来其処には誰も居ないとでも言う様に……。
「「「「惜しかったな、守護者諸君……君達が、後数分早く鬼を殺しに行ったならば、勇者の一振りが後数瞬早ければ、或いは〝幸福な結末〟を迎えられただろう」」」」
街の広場に、それぞれに数人の男女が降り立ち、悪趣味な肉の塊の前に立っていた、その突き刺さった肉の奥から発せられる声は、心底楽しげで、心底人を嘲るような笑い声を含んでいた。
「「「「悪夢は止まり、夢は覚めた……しかし彼等は依然囚われたまま……さて、遺された君達はどう思う?」」」」
憤怒が、悲哀が、絶望が、殺意が街を埋め尽くす……ソレを受けて尚、声は止まらない。
「「「「憎悪、殺意、報復……フフフッ、大いに結構……此度のゲームは満足行く物だったと言えるね、それじゃあ」」」」
――またいつか♪――
肉が膨張し、広場の男女を呑み込む……そして、それが破裂すると、其処には血溜まりを残して、何一つ消えていた。
○●○●○●
「収穫は凡そ……6万弱か……北は数十人程度で、東と南が2万5000程、西は鬼を随時討伐した結果被害自体はそれ程でもない……と、フフフッ♪」
「ただいま戻りました、我が主」
「おかえりベクター……悪いな、結界の管理を任せきりにして」
「いえ、私も勉強になりました……それで、次はどうされるのですか?」
「あぁ、それはな」
「「「「それは……?」」」」
帰って寛いで居たセレーネ達が身を乗り出す。
「今回勝手にゲームに介入した〝異物〟を叩き潰す♪」




