悪夢の劇場に狂騒は奏でられる④
1時間が経過した……あの子等が楔を解いてから、プレイヤー達の動きは劇的に変わった……まず、領主館にプレイヤーが動き、次いで教会、ヒントの中であやふやな情報だった二つの場所も、続々とプレイヤーが向かっていた……プロフェスの差し金だろう、全くこれだから頭脳派は面倒臭い。
『おっしゃ!コレで領主館はクリア!』
おや?丁度プレイヤーの1人が領主館の最後の楔を解いたらしい……ちょっとヒントがややこしかったかな?
『※※※※!?!?!?』
ま、何はともあれだ、情報は落とさなければなぁ?
――ピンポンパンポーン♪――
「『おめでとう守護者諸君!君達のせいで〝堕落の楔〟は完全に解かれた!……目出度いね!』」
――しかし――
「『私は伝言を伝えた筈だ、〝楔を失った獣は在り方を失う〟と、領主館の楔が全て解けた事により、〝北の鬼〟は暴走状態に移行した……さぁ、タイムリミットはまだ有るが、その前に住民が死んでしまうぞ?』」
――ゾッ――
“驚愕“、“恐怖“、“焦燥“、“憤怒“……色濃い負の力が満ちている、それが面白くて堪らない。
「『〝獣は悪夢が覚めるを望まない〟……ヒントにそう書いていたろう?……ハッハハハッ♪』」
さぁ踊ろうか守護者達、獣が歌う、狂鐘が奏でる……劇場の終幕が迫っているぞ?
「『救うか壊すか……結末はまだ分からない、足掻け、藻掛け、私はどんな結末でも構わない……クッフフフッ♪』」
無様で滑稽な悲劇か、甘くて吐き気のする喜劇か?
お前達は何方に転ぶ?或いは第三の終幕を飾っても面白い♪
●○●○●○
――ゴポッゴポポッ――
館の上で、それは汚らしい音を鳴らしてその場所に鎮座している、肉塊が混ざり合った様な、そんな醜い形を変え、その形は極度の肥満を抱えた、肥え太った人型の異形の様に変化していた……そしてソレは、その口から〝何か〟を吐き出した。
――ベチャッ――
「………」
粘液に塗れたソレは、足枷に縛られた人間の骸だった……その首の上に頭はなく、擦り切れた服を揺らして、前へ、前へと進み……堕落の王へ献上する供物を運んで行く。
「嘘……嘘よ……ケニー!ケニーでしょ!?」
首のない童、その先には涙を流す女が居る……最愛の息子の変り果てた姿に膝を付き、手を伸ばすソレへ童はユラユラと拘束具を擦り合わせて進む。
「何で、何でなのよ……どうしてこんな事に……」
「おいマリー!早く逃げるぞ!守護者達と合流するんだ!」
「嫌よ!ケニーを置いていけないわ!」
「ケニーはもう死んだんだ!逃げないとお前も死ぬぞ!?」
『………』
頑なに逃げようとしない女の前に、とうとう童が到達する。
「ケニー!ねぇ私よ!お母さんよ!」
『………』
「守護者さんが来るから!貴方を助けてくれるから!だから一緒に―――」
――ザシュッ――
童の骸が、その手に握られた鉈を振るう、それは女の首を幾度も打ち付け、その生命を無造作に断ち切った
「ッ!?……クソッ!」
冒険者の男は、その光景を見て立ち止まり……奥から溢れる〝首無し〟の群れを見て、憤怒を胸に、逃走する。
北の街は悍ましい亡者の群れが闊歩する、地獄と化した。
○●○●○●
「クソッどうする……?」
南方の街、そこの領主館に集まった〝円卓〟とその長は齎された悪報に頭を抱えていた。
「北は誰が向かっていた?」
「〝トリスタン〟と〝ベディヴィエール〟が居る」
「それよりも楔だ、あれを全部抜けばソレの元になった獣が暴走するんだろう!?大丈夫なのか!?」
会議が混迷を極め、徐々に錯綜していく中、不意にアーサーの元に通話が届く。
『ハローアーサー君、悪いが緊急でね、オープンにして聞いてくれ、円卓のメンツは居るのだろう?』
「分かりました……皆、プロフェスさんからの通信だ、聞け」
『あ、あーあーあー……オーケー聞こえてるね、それじゃあ説明する、楔を1つ残して抜くんだ、そしてそれを他の街の連中に伝え、楔を被らない様に抜いてくれ、此方は私の所の戦闘員に伝えて住民の防衛に回している、君の所の二人も勝手に使っているから問題ない、悪いが北は全部の楔を抜いておくよ』
「了解しました、それでは急ぎ、この事を伝えておきます」
『頼んだ……アーサー君、悪いが殺された住民の開放は厳しいかもしれない、全員を救出するのは無理だと思ってくれ』
「………分かりました」
会話の終わりに、告げられた言葉にアーサーは歯を噛み、そう答える……その胸中には無念とこの状況を創った元凶への怒りが在った。
「至急連絡しろ、出撃準備だ……一人でも多く、住民を救う」
「「「「了解」」」」
●○●○●○
「オメェ等!準備は出来てるかァ!」
『応!』
「良〜し!ならば今すぐ出陣だ!あのいけすかねえクソ野郎の思惑をブッ壊して住民全員助けるぞ!」
『応!』
「〝イガ〟!テメエ等の所で楔は任せたぞ!」
「承った、この〝忍連合〟七頭が1人、イガ「良し!突撃ぃ!!!」」
西の街の大通りを、厳つい集団が猛進する……血眼になって、何かを必死に探していた。
「頭ァ!見付けたぜ!」
「出来したァ!」
家々の上を駆ける男がそう叫び、頭の……ダルカンの横に並ぶ、その顔は凶悪なまでの戦意を帯びていた。
――ズル……ズル……――
「ウオォォォォラァァァ!!!」
未だ阿鼻叫喚の劇場に、遂に始まった……〝型破り〟。
『フッフフフッ、そうだそれが良い、その行為はルールに則って行われる合法のルール無視だ』
羊が狼を殺して何が悪い?弱き種として生まれたソレが、何故弱きとして生きなければならない?
『お前達は高尚な理想的終幕を、エンドロールを求めた……ならばその博打は避けてはならない……〝同胞を喰らった狼〟の腹を裂き、絶望を詰め、そして消えるべき、忌むべき悪夢の中に置き去る、そうして初めて悪夢は終わるんだ』
その行く末を、夢見る悪魔は薄く、しかし愉しげに見ていた。
○●○●○●
「……準備は?」
『嗚呼、出来ている』
『此方もだ』
『同じく』
二つの街で起きた〝反撃〟、ソレに悪魔が夢中になっていた最中……その影を静かに進む者達が居た。
「それでは、始めよう……我が〝主〟の望みを」
教会の壇上に吊るされた〝肉の逆十字〟、その中心には〝1人の女の骸〟が在った。
「我が至高の主よ」
『我等が崇拝する至高の悪よ』
『貴方様に仕える為、我等は貴方の望みを叶えます』
『我等が悪逆、とくと御覧あれ』
まるで狂信者の様な言葉を述べ、影は……影達は懐から剣を取り出す。
「『『『我等が王、冥王〝ハデス〟よ』』』」
そして……その影が振るった剣は、逆十字を斬り伏せ、ただの肉に変えた。
『※※※※※※!?!?!?』
そして……南の獣はその在り方を失った。
「ウフフッ……お兄ちゃん待っててね……私がお兄ちゃんの願いを叶えて上げるから♡」




