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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十三章:日出る国に屍の影は降り
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天の光へ導かれ

――ヒュンッ――


「ッフン!」


――ガスッ――


日の昇る朝の刻、一夜の薄暗い雰囲気とは様変わり、壊れた街の復興に勤しむ者達がその声を普段以上に張り上げて街を練り歩く…その近く、街の裏手の森の中で、一人の少年が人気の無い場所で剣を振るっていた…。


――ガッ――


「フゥ…!」


――ガサッ――


「『主様、野兎ヲ猟ッテ参リマシタ…朝餉ニ致シマショウ』」

「うん、ありがとう〝夜影〟」


その少年へ一人の、ボロボロな黒い相違に笠を着けた武者がそう言い手に握られた野兎を見せる。


――パチッ…パチッ…――


「ねぇ〝夜影〟…本当に僕に付いてきて良かったの?」


肉を喰らいながら、少年が武者へ問う…その言葉に武者は軽く頷きながら少年へ答える。


「『問題有リマセヌ…我ハ既ニ我ガ創造主ノ支配下カラ除カレテオリマス…私ハ私ノ意志デ、貴方様ニ仕エタイノデス』」


その忠義に溢れた言葉に、少年は照れながら…しかし何処か寂しげに頷く。


「そっか……コレからよろしくね、夜影」

「『御意』」


そうして日が朱に染まるまで鍛錬と休息を続け、少年は街へ帰還する。


――ザッ…ザッ…――


「……」


街の視線が己へ集まるのを少年は感じながら、平静を保ち帰路へつく。


心を覗く化物と過ごしたからか…或いは元来の性質と、恩人であり、己の敵で有るソレの教え故か…少年は己へ突き刺さる欲に塗れた視線へ辟易とする。


〝好奇〟…〝畏怖〟…〝独占〟…〝富〟…〝嫉妬〟…どれもこれも、以前まで己へ散々な扱いをしてきた者共のその変わり様にため息が出る……何よりも憂鬱なのは、己の〝父〟と〝母〟もその内の一人で有ると言う事だ。


――「『ッ―――!!!』」――


その時、己の家の近くで父の叫び声が響く……その声と其処から漂う怒気に、少年はため息を吐き変える……そして、その光景に困惑を浮かべる。


「巫山戯んな!…家の信太をテメェ等にくれてやるかよ!」

「そうよ!あの子は私の〝自慢〟の息子なのよ!?」


其処には欲に塗れた虚言を吐く父と母…ソレへ面倒くさ気な表情を浮かべる…〝陰陽師〟達の姿だった。


「?……どういう状況?」

「ッ!…信太!」

「こんな遅くまで何処行ってたの!?」


己の存在に気が付いた両親が声を上げ、此方へ来る……その間に割って入る様にその陰陽師のリーダーだろうか?…上等な居服を着た顔の厳つい男が信太の前に立つ。


「――お初に御目に掛かります…〝信太様〟…私は〝天光家〟に仕えております…〝御門幸造〟と申します」

「あ…〝信太〟です!…は、初めまして!」


その男はそう言いお辞儀をする…ソレに対して信太も名を名乗り、同様に返すとその男…御門幸造は信太へ視線を合わせて、その口から頼み事を吐く。


「唐突で申し訳有りませんが、我が主…〝天光稲穂〟様より、貴方様を連れてくるよう命じられまして…同行願えますか?」

「稲穂様って…――」

「おい!…勝手に人の息子を連れてくつもりか!?」

「――貴方様の御両親にも説明したのですが…この様に聞き入って貰えず困っているのです」

「ぁ……はい、父と母がすみません…」

「お気に為さらず…それで、如何でしょうか?」

「……」


信太は考える……突如現れた日出を率いるあの〝天光家〟の、それもかなりの身分だろう人が己に用が有ると言うのだから…巡る思考は即座にその人間、最も日出と信太へ関わりの深い男を信太の脳に導き出す。


(まさか…てすさん?)

『その可能性が高いかと』

「……分かりました、行きます」

「ッ!?信太!?」

「何を言ってるの!」


己の言葉に両親が叫ぶ…叫び此方へ手を伸ばす二人の前に幸造さんが立ち塞がり二人へ告げる。


「信太様より許可を頂きましたので、早速お連れ致します…御両親で有る貴方達へは追って使いの者が礼金〝五百〟貫文を贈呈致しますので」

「巫山戯るな!…信太はこの街を救った英雄だぞ!?…五百貫文で足りる訳ねぇだろうが、二千…いや、三千は持って来い!」

「な…!?」


二人の言葉に思わず絶句する…強欲も此処までくれば声も出ない、余りに醜いその姿に信太が思わず止めようとしたその瞬間。


「成る程……では〝三千貫文〟を後程お渡ししましょう」


幸造がそう言い放ち


信太が止める間もなく二人へ確約する。


「ただし、コレから信太様が如何なる選択をしようとも、貴方達に介入する権限は有りません…それで宜しいですね?」

「ッ……なら、四千――ヒッ!?」


更に己の〝父だった男〟が口を開こうとしたその瞬間、横の女共々二人の顔が引き攣る…。


「……御納得頂けた様で」


黙る二人を一瞥すると、幸造さんがその顔を此方へ向けて手を差し出す。


「それでは此方へ……生憎と〝早馬〟を用いても丸一日掛買ってしまいますが御容赦下さい」

「は、はい……ごめんなさい、僕の両親が」

「お気に為さらず…〝強欲は何れ身を滅ぼす〟物です」


そうして僕は幸造さんに手を引かれ、僕は馬車に乗ってこの街から、久し振りの〝日出〟へ行く事になった。


「〜〜♪」

「おいお前何してるんだ、もう出立の時間だぞ!」

「おぉ、悪い悪い…ちと〝野暮用〟が有ったんだ…幸造様からは許可を貰ってるよ」

「?…そうか、なら良いが…早く行くぞ」

「了解♪」



「……なぁおい、幸造様の部下に紫の目の奴なんて居たか?」

「あ?…何だよ急に…さぁな、居たんじゃねぇか?…ソレにもし居なかったとしても陰陽師の局長とその直属の部下を騙せる奴なんて居るわけねぇだろ」

「そうか…そうだよな」 


梅ヶ崎の門兵がそう言い道を駆ける馬車を見送る……その3日後、約束通り天光から二人の夫婦に褒美が与えられた…筈だった。


だが、その褒美を受け取る直前にその夫婦達は己の家で〝自殺〟した姿で発見された……。


術者医者の診断結果では大きなストレスで心を病ませてしまったのだとか…そんな事は最早どうでも良い事だが…。




●○●○●○


「『〝稲穂〟様…命じられた〝人物〟を連れて参りました』」


その言葉に、私の心臓が脈打つ…それは其の場の多くの人間も同じらしい。


「……入れ」


私の言葉と共に、襖が開き…その〝男〟…いや、〝童〟が姿を現す。


「し、失礼致します…」


その顔は大きな緊張で強張り、動きもカチカチで…何と言うか可愛らしい生き物だった。


思わずアレが〝特別視〟する存在と言う事を忘れる程に。


『あの様な童を何故?』

『ほほぉ、あの歳でかなりの鍛錬を』

『稲穂様はまさかあんな歳の童が好みなのか?』


周りの臣下達からも小さな疑問が巻き起こる…皆が皆疑問に思って居るらしい……特に最後、貴様は後でミッチリ問い質してやる。


「お、お初に御目に掛かります!…ぼ、僕はし、〝信太〟と申します稲穂様!」

「可愛い――じゃなかった…コホンッ、うむ…我が名は天光稲穂…此度は御主に用が有り我が城へ連れてこさせた…面を上げよ」


私の言葉に信太が顔を上げる…ふむ、確かに純朴で穏やかな少年だが…本当にハデスが関わっているのか?…邪気の欠片も無いじゃないか…。


「――うむ、流石に童を一人、大人の中で居させるのも気の毒じゃ…お前達席を外せ…覗き見などするでないぞ?」

「『御意』」


…さて、盗み見盗み聞きは居ない……では。


「御主、本当にハデスの眷属か?」


此方も〝契約〟を済ませるとしようか。


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