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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十三章:日出る国に屍の影は降り
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夜明けに見えるは屍か未来か⑩

――ガサッ――


「此処は……確か幼少の頃…母と来た裏庭?」

「らしいね……中々手入れが行き届いた庭だね…草も花も活き活きしていると…ソレにアレは幼い頃の君かな?」


辺り一面咲き乱れる花の世界、眩い日差しが目を焼き、その少し先では小さな〝私〟が母と手を繋ぎながら遊んでいた。


「中々お転婆だったらしいね…君の母君もさぞかし苦労したんだろうねぇ」


庭の花を一輪摘み取り、その綿毛を風に飛ばしてそう言うハデスを睨むと、ハデスはクスクスと笑いその目を童の私と母へ向ける。


「コレがお前の始まり……小さなお前の大きな世界、平和な世界を美しいと大事に思う、お前の〝善良〟の始まりだ…」


その綿毛は風に乗って進み…そして、その空を踊る小鳥が私達の元へ来ると私の方に乗る。


「――そして始まりのお前は幼き頃に母を病で亡くした…」


そしてその情景は見る間に移ろい…其処は平穏とは程遠い死屍累々の戦場と化した。


「――そして、不運は連なる様に起こり…日出でクーデターが起きた…お前の父を疎んだ者共が一部の民を扇動し、反旗を翻した…しかし、流石は国を統める主、民心を掴んでいたが故に反乱は呆気なくも終わる…だがその戦場でお前の父は手傷を負い、8年後その傷が病を呼び亡くなった…コレがお前の〝王の始まり〟……そして」


死屍累々の屍を、其処で剣を振るう勇猛な戦士達を、一人の少女が見下ろしていた…。


「コレがお前の…〝狂気〟の始まりだ♪」


ハデスはそう言い、此方へ這う扇動者の首を刎ねて、そう告げる。


「狂気と正気の始まり…お前はやがて王と成る、民が平穏を享受出来るようお前は王足らんと在り続けた…しかし国が平穏に近づく程にお前の中の狂気は膨れ、解離する己の衝動にお前の心は沈んでいった…」


情景が進む、大きくなった私、その政や反発する民への対応…国を纏め上げて平穏となった私の、その何処か何かが抜け落ちた様な憂い気な横顔を。


「この闘争が幕を開けた時、お前は歓喜したろう?…闘争の音色、血の香り、悲鳴怒号、恐怖に憎悪…闘争の薄暗い血濡れた〝愉悦〟に…心の奥底が疼いたろう?」


妖魔の骸を踏み進み、その屍の山を掻き分けながら、ハデスは紡ぐ。


「……だが、同時にお前はその〝闘争〟へ酷く〝哀しんだ〟…相反する性を抱え、嬉しくも悲しい…そんな葛藤に苛まれ…そしてお前は〝妖魔の己〟に沈められた…さて、天光稲穂…お前がお前で有るためには〝選ばねば〟成らない」


振り向き、ハデスがそう紡ぐ…骸の山に空いた穴、その奥底には扉が有った……。


「この先がお前の終着で在り、1つの決着の場だ♪」


扉が独りでに開く、覚悟も定まりきらぬ内にその扉の中の暗闇が広がりその場を暗闇に覆い尽くした……。


「ッ!?」


そして、私はその奥底に居る……〝己〟を見た。


「『馬鹿な…何故まだ生きている……ッ』」


ソレは鬼の〝私〟……私を見て驚きと苛立ちを浮かべる〝私の狂気〟の姿だった。


「――さぁ、道案内は此処までだ、後はお前の〝選択〟だ♪」

「ッ貴様…裏切ったか!?」

「やぁやぁ妖魔の方の稲穂…残念ながら君と私は仲間では無いだろう?…君が私を創造した、君が稲穂の脳から生み出した…ただソレだけだ、〝契約〟を交わしていない以上、私は誰にも縛られず、私が楽しいと思った事をするだけ……ソレが偶然、君にとっての不利益と成っただけさ♪」


――ザンッ――


「お〜怖い、怖い♪……でも残念ながら君の八つ当たりは無意味だねぇ…お前も分かっているんだろう、今のお前がどの立場か?」


身体を刎ねられ、ハデスの首が宙を舞う……それでもクスクスと妖魔の私を嘲る様に笑いながら、ハデスは私へ言葉を紡ぐ。


「言っておくがコレは君の〝決別〟だ…己の狂気を〝余分〟とするか、或いはソレを〝受け入れる〟か…何方の選択も私にとってはどうでも良い…だが、〝迷いのまま選ぶ道〟に〝光〟は差さない事だけは留意しろよ?」


そう言うハデスの首が落ちる……その瞬間、ハデスの身体は肉塊と成って地面に崩れ広がって行く。


「彼奴……巫山戯やがって…!」


その死肉を蹴散らし踏み躙りながら、妖魔の己がそう叫ぶ、最早其処に存在せぬただの死肉を踏み躙る様は酷く滑稽に見えた。


「貴様もだッ、何時までも人間の様に振る舞いやがって…貴様はもう人間を辞めただろうが、何故何時までも人間の為に力を振るう!?」


踏み躙る行為に更に苛立ちを募らせ、今度はその矛先をこちらへ向けて妖魔の己がそう怒号を上げる、その問い掛けへ私は紡ぐ。


「死んでいった民の〝献身〟を無駄にせぬ為だ」

「ほざけッ、貴様の腹の中が私に分からぬとでも思うのか!?…貴様は所詮戦を望む気狂いだろうがッ、より多くの血肉を啜るために、より多くの生命を戦乱に巻き込む為に禁術を使ってまで化物に成った癖に…綺麗事を抜かすな!」


私の言葉が癇に障ったか、妖魔の己が屍の山から剣を無造作に引き抜くと、その刃を光らせてこちらへ迫る。


「確かに……私は狂っているのだろうな」


ソレを見ながら、私は言葉を紡ぐ…私が狂っているのは間違いではない…事実戦を望む己が居るのは理解している。


「闘争を望んでいた事に嘘偽りは無い…狂気を抱えながら、正気に生きる事に疲れていたのは確かだ」


――ギィンッ――


苛烈な刃の嵐が迫る、ソレへ私は抵抗せず…ただ〝受ける〟…。


「いっそ化物で有ったなら…半端な正義感を抱えていなければと幾度も考えた…」


身体に痛みが走る…いや、身体は此処にはないか…己の精神を刃が引き裂く…アレが剣を振るい、私が傷つく度に怨嗟の声は強まり、私をまた取り込もうとする。


…だが、ソレが私を〝侵す〟事は無い。


「ッ硬い……!?」


斬撃を押し退けて、己へ迫る…奴の軽い攻撃を避けず…ただ。


「…だが、やはり私は〝人を守る道〟を進みたい」


闘争は好きだ、競い合い、淘汰しあい己を磨く…その果てに死ぬ彼等へ敬意を抱くのは間違っていないだろう…だが、己の悦楽の為に無意味に死を振りまくことは〝赦されない〟事だ。


「私はお前を認めない……だが、私は私の〝狂気〟と共に人を守る道を征く」

「ッ〜〜!?…楽観者がッ、それで何が有ったか忘れたかッ、貴様はまたその心を腐らせるだけだろう!?――ならば、我へその身を明け渡せ!――貴様の望む血濡れた闘争を魅せてやる!」



妖魔の己がそう叫ぶ…先程までの怒りは何処へやら、今は焦りと動揺に揺らいでいた…その刃の何と軽い事か。


「――不要だ、私は貴様に〝成らない〟……私は〝人間〟…人間の天光稲穂だ」


――カチャッ――


屍の山から刀を手に取り…私は構える……心を不動に…しかし確たる殺意と意思を以て。


「ッ!?」


その刃に恐れたか、妖魔の私が逃げようとする……だが。


――ガシッ――


「ッ!?――貴様等!?」


骸の腕が逃げようとする私を捕らえる……その顔は冷たく、だが、その瞳は高潔な意思を帯びていた。


「――ありがとう…私の民達……そして済まなかったな…一時とは言え、心を屈した事を深く恥じよう」


私の言葉に骸達が頷き…そして消える。


「待て、待て待て待てマテェ――!!!」

「良い加減に〝戻って来い〟…この馬鹿者め」


そして、妖魔の己へその刃を振り下ろし……〝世界〟が無に染まる。


「『―――』」


その間際、何か誰かの声が聞こえたような気がした……。






「――応、戦の最中に眠りこけるたぁいい度胸じゃねぇの」

「……あぁ、済まないな…少しばかり悪夢に魘されていた」


そして目が覚める…屍の夜に、胡座を組み待ち侘びたような笑みを浮かべる酒吞へ言葉を返し、起き上がる。


「憑き物は取れたか?」

「いいや、依然として私の中で燻っている…だがもう問題無い…飼い慣らしたぞ」

「ソイツァ結構…じゃあ」

「あぁ」


私と酒吞が相対する……その殺意を互いに向けて。


「「仕切り直し、と行こうか!」」


今一度、その刃を構え直してそして、先程とは違う…真なる意味での〝戦い〟を再開した。

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