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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十三章:日出る国に屍の影は降り
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夜明けに見えるは屍か未来か⑥

――勇者とは何ぞや?――


「ソレは〝悪を滅ぼす者〟…そして、〝己の意志で善を貫く者で有る〟」

「グウゥッ!?」


不屈の精神、曲がらぬ信念…ソレを以て困難を踏破する者こそ〝勇者〟で有る。


――〝善〟とは何ぞや?――


「ソレは〝遍く生命、その個人個人の判別する者〟…で有ると俺は考えるが、より視野を広げるならば〝大多数が〝善〟と認識する事柄、人物、存在〟の事を言う」


人と人の群れ、即ち社会と言う1つの生命が判別する〝良き行い〟こそが〝善〟なのだろう。


「――お前は確かに、〝善人〟なのだろう…ただ人へ良く有ろうとする、少なくとも悪性の存在では無いのだろう…」


ボロボロのユウシャへそう言いながら、術を行使し続ける…アーサーのその心の奥底を俺の忌々しい眼が映し出す…あぁ、やはり――。


「――だが、やはりお前は〝勇者〟で無い…形だけ真似た〝模造品〟、神が気紛れに創った〝仮初〟の勇者だ」


やはり俺はコイツが嫌いだ。


――ゴッ――


「お前は確かに人間だ、良くも悪くも変わりゆく者だ…だからこそ不愉快でならない…勇者と己を定めた癖に、たかがこの程度で心折れかける…勇者足り得る〝強靭な精神〟も〝不屈の心〟も持たない…神の遊び道具だ」


杖でアーサーの顔を殴る…蹌踉めき倒れ…その地面に血を湿らせ…しかし何とか残った薄っぺらな矜持でその剣を振るうアーサー。


その腹の奥を見ていると不愉快で仕方が無い。


コイツは〝善の俺〟だ…〝守護者〟と言う役職を全うするだけの存在、他者から与えられた〝役割〟を熟すだけの伽藍洞だ。


故に不愉快…故に嫌悪が湧く。


コイツは正しく人間で有る、本物の〝心〟が有る…其処だけは本物なのに、その心を扱えていない…自らが持っている至高の宝を磨かずに埃に塗れさせて居る…〝だから嫌いだ〟


本物の様な偽物(オレ)〟と〝偽物の様な本物(アーサー)〟…その本質は事実として異なるが、本物が偽物よりも〝無価値〟で有ることが許せない。


「――どうした、敵は此処だぞ…さぁ立てよ、立って俺を殺しに来い、呆ける暇など有るものか、恐れる隙など有るものか、お前は勇者と宣った、ならばその〝勇者〟を貫き通せよ」

「ッ――く…そ…」


痣だらけ、傷だらけのボロ雑巾へそう告げる…俺よりも強い癖にこの体たらくか。


「……ハァ、そうか」


――パチンッ――


「ならば死ね」


立とう足掻くも立てぬソレへ、俺は殺す為の術を投げる、コレで終い…コレで茶番は幕を降ろす――。





「――〝障壁〟!」


…その、筈だった…意識の外から聞こえた祝詞、その魔力がアーサーの死を阻み、一人の〝死に損ない〟を作る。


――ギイィィンッ――


「「チッ!」」

「――成る程、成る程お前達か♪」


背後から刃が俺へ迫る、その方向を見ると其処には懐かしき顔触れが俺へ殺意を向けていた。


「良いぞ、良いぞ…丁度紛い物の相手を終えて暇だったんだ…遊ぼうか♪」


――ズズズッ――


腕に魔力を込める…その魔力の奔流に勘付いた〝リヒト〟と〝ウェイブ〟が俺の下から飛び退く。


――ズォッ――


その一拍後、俺の腕が空を薙ぎその軌道を死肉の刃が地面を空を抉り切る。


「〝炎竜ノ業火〟!!!」


リヒトとウェイブが入れ替わる様に俺の方へ蒼く燃える〝焔〟が迫る、その焔の遥か奥には…コレまた懐かしい〝少女〟が居た。


「良い力だ〝リリー〟……火力勝負でもするか♪」


――パチッ…パチパチッ…――


死肉の腕に炎が募る、蒼くも赤くも無い…黒く紫に燃える〝異端の炎〟…ソレは身体中を覆い尽くし膨大な熱でその身を焼く。


「〝焼葬ノ紫炎〟」


蒼の炎と紫の炎が打つかり合う……ソレは互いの身体を食い潰し合い拮抗し、そして対消滅を起こして霧散し、己の視界に焼け焦げた大地と3人の〝敵〟を映す。


――ジュウゥゥゥッ――


「――相変わらず良い〝火力〟だ…コレならば神ですら焼き殺せるだろうな」


己の身体を修復しながら、油断も隙もない3人へその眼を向ける。


「ハデス…随分と好き勝手しやがったな?」

「お前の巫山戯た遊びを終わらせてやる」


二人から吐き出される憤懣の声を聞く……実に甘露な味わいだ、そして何より。


「油断しないでね二人共ッ…行くよ」


純粋な〝殺意〟……リリーの眼から感じ取れるただ俺を殺すと言う〝殺意〟が俺の目に広がる…酷く面白い。


「挨拶も程々に、そろそろ演るか♪」


真夜中の街外れ、人気獣気無い夜の森、誰に見せるでも誰に聞かせるでも無い、3人の勇者と一人の悪魔の〝劇場〟が幕を開けた…オーディエンスは唯一人、ボロ雑巾の勇者モドキだけだ。


「依然に増して剣のキレが増したか、ウェイブ!」

「チィッ!」



●○●○●○


「「キシャァァァッ!!!」」


――ドゴッ――


「チッ…どんだけ出てくんだよ!?」


水の蛇の頭蓋を砕く…そしてその次の瞬間起きるその減少にダルカンは苛立ちと困惑の籠もった声を上げる。


その言葉に、皆は語らぬまでも賛同に頷き忌々しい蛇の群れへ視線を投げる。


其処には通常のサイズだが、その数を無尽蔵に増やした水の蛇が蠢き、其れ等はまるで波の様に己等へ降り掛かった。


「〝死ぬと増える〟…厄介な術だ」


水の大蛇を殺す…それまでは良かった…だが一度死んだ大蛇はその姿を二つに分かちまた蛇を生み出した、2つは4つ、4つは8つとその数を倍々に増やしてゆく…厄介なのはその〝形〟だ、切る度少しずつ形は小さくなってゆくが、その力は依然とそう変わらない…ソレが厄介極まった。


「このまま殺し続けても増えるだけだッ、どうにかコイツラを完全に殺さねぇとマトモに八岐の大蛇を攻撃出来ねぇ!」


多くが水蛇の処理に手間取っているその時……。


――ゴオォォォォッ――


その戦地の一角で炎が燃える、其処には炎を纏った三郎丸と、その炎を避ける様にジリジリと後退る蛇共が居た。


「……成る程…此奴等、炎を避けおるぞ?」


その声の弾みと、その悪辣な笑みを浮かべて三郎丸はそう言い、蛇の元へ向かう…そして、その脚で小さな水蛇立場を踏み潰すと。


――ジュウゥゥゥッ――


水が蒸気に変わる音と、消え行く蛟の身体を皆に見せる。


「成る程のう……此奴等切れば切るほど数は増えるが、その分身体が脆くなる様じゃのう…」

「ん……最初に使っても効かなかった…先入観?」

「じゃなぁ、見事に騙されたわい」


ニノの言葉にそう言い、三郎丸が剣を構える。


「奴の種は分かった…効くのが炎だけってこたぁ無いじゃろう…主等も色々試してみぃ」


――ジュウゥゥゥッ――


「儂ァ、一足先に大蛇を〝取る〟ぞ?」


そう言い三郎丸が小さな水蛇を踏み潰し、眼前に蠢く水蛇の津波へ刃を振るう…その背後では。


――ピキピキピキッ――

――バチッ…バチチッ…――


冷気と雷を纏った二人の〝戦士〟が己の力を水蛇へ振るっていた……。

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