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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十三章:日出る国に屍の影は降り
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夜明けに見えるは屍か未来か⑤

――ドオォォッ――


飲み込む濁流が木々を押し流す……その氾濫は一方行へ轟音と共に駆け抜け、己へ敵意を向ける愚者共を押し流さんと迫る。


「蛟の中でも一際規格外な大蛟が扱う術は規格外よのう!」

「ん、凍らない……厄介」

「剣鬼のお二人さんは良くこんな足場のグラつく大木をスイスイ進めんなぁ…無茶苦茶滑って超怖え!」

「いや進める皆が可笑しくない!?」


しかしその大木を足場に、次々と此方へ進み己の大波を乗り越え、余裕有りげに談話する其れ等に大蛇は苛立ちに呻く。


その十六の眼が捉える十人の戦士…その先駆けたる二人の剣鬼がその刃を月光に煌めかせ己の前へ飛び掛かる。


「「〝裂き嵐〟」」


その二匹へ牙を開き、食い殺そうとしたその刹那……その赤熱に燃える、或いは身震いするような冷たい刃が乱れ回り、口を…いや、己の頭部をそれぞれ破壊する。


『ギシャアァァァッ!!!』


己の頭部を貫き壊し、中に浮かんだ二匹の鬼へその尾を叩き付けるべく身を翻す……それとほぼ同じタイミングで、己の胴体に強い力の脈動を感知する…しかしその体勢のまま避ける事等出来るはずもなく…。


「〝開放〟!!!」


――ドゥムッ――


その力が己の腹を突き、その衝撃と力に身体を浮かせて少し押し飛ばされる……己の身の幾らかの骨が砕け、腸が潰れたのを感じる…。


――不愉快だ――


破れた腸から煮え滾る血を流し…己の中で同仕様も無く膨れ上がる怒りを只管に押さえる…。


己の放った術理を見事に対処してみせ、剰え己の肉体を容易く切り裂いてきた……即ちソレは、己の脅威成り得る存在で有ると言う事…。


「「「「「ギシィィシシシィィッ」」」」」

「――うわ、再生持ちかよ」

「竜に超再生とか反則じゃない?」


己の姿に人間共がその顔を忌々し気に歪める…数匹の〝獣〟を除いて。


「生えてくるなら叩き切るまでよォッ!」

「ん…モグラ叩き?」

「穴に隠れてねぇんだよなぁ」

「死ぬまで斬りゃ殺せるだろ!」


二匹の鬼がまた此方へその刃を振るう、ソレに随伴するのは大鎧の男と重い剣を担ぐ男…最も不愉快で、最も〝脅威成り得る〟…〝獣〟共へ術を放つ。


――ドパァッ――


「おぉ!?――〝分身〟か!?」

「――いや、水の〝術〟だ!――尼倉の炎の竜と同じタイプか!?」


その瞬間先程まで意気揚々と此方へ駆けていた奴等の足が止まる……その目の前には赤水の大蛇が二匹、トグロを巻いて目の前の餌共を睨み……己を守るようにその人間共と対峙していた。



○●○●○●


――ギィンッ――


「流石禁術だ、力も中々悪くねぇ!」


山から吹き飛ばされたその平原で、二匹の鬼が剣戟を放ち合う、その最中酒吞童子はその顔を楽しげに歪めて稲穂の剣を弾いていた。


「だがまだまだ甘えなぁ!」


そして、一際強く稲穂の剣を弾くと、その腕を掴み己の方へ引き寄せ、その腹へ蹴りを放つ。


――ゴッ――


「ッァ…ハッ!?」


その衝撃と鈍い痛みに呼吸を止めて、稲穂の動きが鈍る…その瞬間を酒吞の刃が咎めるように振り落とされる。


――ジィィンッ――


間一髪、何とかその剣を間に挟み…しかし勢いを殺しきれずに稲穂が地平を転がるのを見ながら、酒吞童子は満足気にその顔に笑みを咲かせる。


「ハッハッハッ!――良いねぇこの〝空気〟!…やはり戦いってのはこうじゃねぇとなぁ!」


そのダメージを何とか抑え、その刃を己へ向ける稲穂を見ながら酒吞が叫ぶ…その言葉に稲穂は眉を顰めて、静かに問う…。


「貴様は…己の部下を死地に追い遣りながら、何故そこまで楽しめる?」

「あぁ?……何が言いてぇんだ?」


稲穂の言葉に酒吞はその顔を不思議そうに傾げながら問い返すと、稲穂は苛立ったように語気を荒げて叫ぶように問い返す。


「貴様はッ、部下に〝罪悪感〟を抱かないのかッ…それでも長か!?」


その言葉は戦場に木霊する……その叫ぶような問い掛けに、酒吞は目を閉じて少し考える…そして、答えを選んだのかその頬を緩く笑みを作りながらこう返す。


「〝罪悪感〟?……んだそりゃあ?……んなもん感じた事もねぇし、部下の生き死になんざどうでも良いさ」

「ッ――」


その言葉に稲穂が声を上げようとするも、ソレを遮るように酒吞は続ける。


「部下を死地に送る…そりゃあそうだ、戦争だからなぁ…生き死にごった返しの〝地獄〟に部下を仲間を放り込む…所詮強けりゃ、運が良けりゃ生き残る戦場で何百人の仲間に一々罪悪感なんざ抱いてられるかよ?」


――ギリィンッ――


「ッ貴様はそれでも長なのか!?」

「――あぁ♪…テメェからすりゃ長の風上にも置けねぇだろうがコレでも俺ァ鬼の〝頭領〟だ♪…俺が鬼の中で一番強えから、俺の下に鬼共が付いた……そりゃあテメェ等だっておんなじだろうが、金のより多い奴に、一番人を惹きつける奴に、或いは俺らと同じで一番戦いが強え奴が多くの生命を従える……やり方は人も妖魔も変わりゃしねぇよ……だが、テメェ等からすりゃ当たり前でも、ソレが俺等に当て嵌まるなんざ有り得ねぇだろ」


剣戟を捌きながら自論を語り、そして稲穂へ剣戟を返す…否定しようにも苛烈な攻めに稲穂は思考が削がれて、苦しい声を出すしかない。


「彼奴等も俺も〝戦い〟が好きで好きで仕方ねぇから此処にいる、好き好んで地獄に行ってやりたい事をやるだけやって死んでんだ、そんな馬鹿共が馬鹿をする為に俺は〝地獄〟を探してそこで暴れてんだよ、そもそもテメェ等の尺度で〝俺達()〟を語るのが間違いってもんだ♪」

「ッ!」


――ドゴォッ――


「カハッ!?――良い一撃だ!」


そう言い切る酒吞の言葉を遮る様に稲穂が拳を酒吞の腹に叩き込む…酒吞はソレを避ける素振りすら見せずマトモに受けて吹き飛びながらそう笑い飛ばす…。



――ザザザッ――


「――テメェが俺に怒ってる理由も、まぁ幾らか理解は出来るぜ?……テメェは人間で、人の暮らしを守る為にあれこれせにゃ成らん、堅苦しい仕来り、私利私欲に塗れた重鎮…其れ等を制御しながら国を回す…その為にゃ自分で自分を雁字搦めにせにゃならん…そんな堅苦しい生き方しか出来ねぇテメェからすりゃあ、〝自由(好き勝手)〟に生きる〝妖魔(俺達)〟が憎いってのも分かる、俺が同じ立場ならブチ切れるさ」


痛みを和らげる為に大きく深呼吸しながらそう言葉を吐く酒吞の言葉に稲穂が構えながら言葉を聞く。


「だがな人間、テメェが幾ら罪悪感を持った所でテメェが〝部下を地獄に送った〟事は変わらねぇ…そんなもんは自分を慰める為の都合の良い身代りだ……あぁいや、ソレが悪いとは言わねぇよ、俺にとってはそんなもんってだけの話だ妖魔の戯言だとでも思ってろ…で、こんだけまどろっこしく長々と語っちゃいるが俺の言いてぇことはつまる所だ」


酒吞はそう言いながら、その顔を獰猛に歪めてその指を稲穂に向ける、そして。


「暗い顔して〝地獄〟で戦うよりゃあ、楽しく殺し合って〝地獄〟で戦う方が万倍良いだろ?……どうせどっちも地獄なんだ、変に気負わず好き勝手やりゃあ良いんだよ♪…此処にゃテメェを見張る民も家臣も居ねぇんだ…〝我儘に暴れようぜ〟…〝稲穂〟よぉ?」


そう稲穂へ投げ掛ける……その言葉に稲穂がその顔を動揺に揺らす。


「……我儘に…?」

「さぁ!―話は終わりだ続きしようぜ!」


そんな稲穂の事など気にも留めず、酒吞がその身体を躍動させ、稲穂へ迫る……。


夜の月がその姿を陰らせ…この一夜続く大祭りの終幕の音が足音を鳴らし始め…炎の最後の一燃えの如く、燃え盛る闘争の焔が唸りを上げた。

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