陽は沈み、百鬼は駆ける㉑
悍ましく生まれ、醜く育ち、無様に散る。
造られた命無き意思有る被造物、ソレが僕だと分かってる。
それでも僕はこの心は偽りだとは思わない。
あんなに綺麗な物を見た、その美しさを尊いと思う、この心は…きっと、誰かに造られた物じゃないよね?…。
――記憶保管サーバー〝追憶〟より抜粋――
――ドゴッ――
「キッヒィィィッ!!!!」
「――ッエリセ、ソッチは!?」
――ジュウッ――
「大丈夫ですッ、ヨイチさんッ〝その武器〟には触れないで下さいね!」
「あぁ、分かってる!」
ヨイチとエリセが化物達を相手取る、その顔をより一層警戒心に染め上げて…ただ一匹の化物、その手に握られた〝鉈〟と、〝短刀〟を見て居た……。
何故その二つだけなのか?……ソレは二人の背後を見れば分かるだろう。
「ウゴッ…ガボッ…!?」
「また一人ヤラれたッ」
「解呪は!?」
「だから無理なんだッ、〝聖域内〟でも解呪出来ない!」
其処には身体を赤い梅の花の様な痣を作り、身体の所々を膿み腐らせる半死半生の守護者と、顔が焼け爛れ身体中から血液を噴出させる悍ましい守護者の地獄絵図が広がっていた。
其れ等は全てその化物の手に握られた〝武器〟によって引き起こされた〝呪い〟だった。
「生かさず殺さず…長く苦しめる為の物…酷い」
「あぁ…並々ならない悪意だな」
一体どれ程恨めばこんな物が出来るのか、二人はそう思いながら荒れ狂う二匹を見る…。
(アレは悪人と、彼奴は言ったが…)
(だからと言ってこんな悍ましい化物にするなんて許された事じゃない筈です…)
「〝心臓〟が急所……」
「でも、あの速さじゃマトモに狙えない…」
((どうする……))
●○●○●○
「う〜ん…思ったより苦戦してるね…困ったなぁ、この位なら問題なく対処できるだろうと思ってたのに…」
――サーッ――
箱の中でその青年……〝絶死の子取り箱〟は己の眼前に映像として映し出される、二人と十数人の事を見ながらつまらなそうに鼻を鳴らす。
「……でもこれ以上ヒント上げるとゲームとしては温いし……それにもう〝残り僅か〟だし…僕が出て説明する事はタイムロスだよねぇ」
青年はそう言いながら、その空間に備え付けられた無数の砂時計、振り子時計、掛け時計を見てその顔を愉しげに染めて動くに動けない二人を見て薄く笑う。
「さぁ、どうするかな……もう落ち着いて動けるだけの時間は無いよ?…一つ掛け違えばその時点でこの街が終わる…十分時間は上げた…その上でソレならば、君達の怠慢だ…」
僕はそれでも構わないけど……と、青年はそう言いクスクスと笑い、またその視線を映像の方へ映した丁度その時。
「お?……アレは…」
二人の男女の背後から駆ける数人の〝呪われた男女〟がその足を早める……その目は何かを企む様で、緊張と微かな恐怖に満ちていた……。
「――ンフフッ♪…一体何を考えてるのかな?」
その様子に身を前に屈めて、食い入る様に、愉しげに…その青年はその動きを目で追っていた。
○●○●○●
「「「「〝ヨイチ〟さん!」」」」
「「「「〝エリセ〟さん!」」」」
己等を呼ぶ、その声に背後を振り向く…その二人の目には呪いに侵され身体の至る所を痣と血で塗れさせた仲間達がその痛みを無視するように此方へ駆けていた。
「ッ――お前達ッ、動けるのか!?」
「安静にした方が良いですよッ、その傷では武器も使えないで――」
二人が思い思いの言葉で静止を呼び掛けるも、彼等はソレを無視して二人よりも前に向かう。
「「「「来いやァッ!!!」」」」
「「「「エリセさん、ヨイチさん!」――トドメ〝は〟任せました!」」」
そして、そのまま獣達の方へ挑発しながら迫ると、ソレが理解できたのか二匹が怒り狂いながらその刃と共にその〝人間達〟へ迫る。
――ドゴォッ――
「「「「グウェッ!?」」」」
その刃が数人の腹へ減り込み、守護者達はその顔を痛みと吐き気に染める……溢れ出る血に、二人が何をしてると言う思いで言葉を紡ごうとした…その瞬間だった。
「「「「――〝捕まえたァァ〟!!!」」」」
「「「「ナイス!」」」」
その刃に貫かれながら、血反吐を吐きそう叫ぶ守護者の言葉に残る守護者達がそう言い、それぞれが別々の脚に組み付く。
「テメェ……このクソ猿がァ」
「エリセの姉御ォ、ヨイチの叔父貴ィ…ヘマァせんでくださいよ?」
「「ッ――!?」」
――カチッ――
――カランカランッ――
そして、その地面に十数個の〝何か〟の留具が外される……その瞬間、凄まじい衝撃と爆炎が広がり。
――『ドゴオォォンッ』――
組み付く守護者と、その化物達の手足を全て吹き飛ばし…硝煙が二人を包む……その瞬間。
「「ッ!」」
二人は駆ける……何も語らず、ただ目の前で弾け飛んだ〝彼等〟へ怒りと、そして感謝を抱きながら…。
彼等は託した……己等の〝生命〟を捨ててまで〝己等〟に、己等ならば仕留められると〝信じて〟……だから、二人は何も語らない…ただ、感謝と――。
――ザッ――
「「グイィィッ!?」」
「「〝ありがとう〟…」」
彼等へ捧げる〝無垢な祈り〟…空に踏ん反り返る〝神〟とやらへ与えるものでは無い、純粋な祈りを以て。
――カチャッ――
「「〝私達の勝ち〟だ」」
祈りを込めた〝弾丸〟と、〝聖なる剣〟が化物の胸を貫き…。
――パキンッ――
その心臓の何かを〝砕いた〟……その瞬間。
「「ッ―――!?!?!?」」
化物達がかつて無いほどの絶叫と、苦痛の声を上げて暴れ狂う…その身体を硬い石灰の様に変えて、その先から徐々に塵に変えて行きながら…。
――グォンッ――
「「……」」
二人はその化物へ背を向け、その先へ歩む……その二人の背後へ向けて、化物達が最後の抵抗の様にその腕を振り下ろした……だが。
――ズバンッ――
――『パチパチパチパチッ』――
「ッおめでとう〝守護者達〟!……見事〝僕〟を守る〝猿〟を殺せたようだ!」
その抵抗は二人の背の奥で手を叩きながら此方を見向きもせず守護者へ賛美を贈る、その青年によって邪魔される。
「素晴らしいッ、君達の〝想い〟と〝彼等〟の覚悟!…ソレだ、ソレこそが〝人の正〟…〝有るべき人間の善性〟だッ…さぁ、お前達はあと一つ成さねばならない、それは何か、即ち〝僕〟の〝破壊〟だ!」
青年はそう言うと、その顔を嬉しそうに無邪気に歪めて己の手を広げる。
「さぁ……〝僕〟を殺せ」
「言われずとも」
――カチャッ――
その青年へ、ヨイチはその銃口を向ける……その目を真っ直ぐ見ながら、青年は満足気にその顔を頷かせて、綴る。
「〝撃て〟♪」
その言葉と同時に、ヨイチの指がトリガーを引く……その鉄の筒から放たれた弾丸は空気を引き裂き、その青年の心臓部を撃ち抜き…その身体を倒れさせる。
――バキャッ――
「――おめでとう…〝完璧な勝利〟だ…この街に仕込まれた悪魔の罠は〝全て〟を壊され、街の死者は〝零〟だ……そして、ゲームクリアの〝報酬〟を」
――ズオォォォッ――
消え行く青年はその街全域に満ちた己の瘴気を一塊に集め、〝空へ〟投げる。
「〝呪い〟…〝転じて福と成す〟……今、この街の住民達の呪いを全て解いた…1日もすれば全て何もかも元通りだ……そして、コレは僕の個人的な君たちへの〝称賛〟……僕の〝創造主〟からすれば好ましくはない行為だが………〝春桜〟へ進行していた妖魔達の半数を〝呪殺〟した……本当は全部殺してあげたかったけど…ごめん、無理だったよ……本当は君達全員に何かプレゼントしたかったけど…生憎と僕が作れるのは〝呪物〟だけだから、あげれないや…。」
青年はそういいながら、その肩を残念そうに竦めると、その身体を薄れさせてゆく。
「さぁ、そろそろお話も終わりだね……何度もしつこい様だけど……〝おめでとう守護者の皆〟」
青年はそう言うと、少し考え……残り僅かな時間に忠告を残す。
「――最後に一つ……〝日出〟の都に、〝災厄〟が来る……その時間はもう僅かだ……急いで戻ったほうが良いよ」
その言葉に、二人がその言葉の意味を問おうとしたその瞬間…青年はその場所から完全に消え、残ったのは弾丸の減り込んだ壊れた血の漏れた木箱だけだった。




