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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十三章:日出る国に屍の影は降り
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陽は沈み、百鬼は駆ける⑬

――ザンッ――

――ドゴンッ――


「おいガチタンッ、俺達ャあの無茶苦茶に燃えてるトコに行きゃ良いんだな!?」

「あぁッ!」


尼倉の街道を二人の巨漢が突き進む、片や大剣を、片や大斧に見紛う程の盾を手にして、女子供を嬲り殺し、金品商品を強奪しながら尼倉の中心で燃え盛る摩天楼へ向かう黒鬼共を殺しながら…。


「ダルカンッ、お前この黒鬼共をどう思う!?」


――メキョォッ――


大盾で黒鬼を押し潰しながらガチタンはダルカンへそう問う、その問答に対して。


「知らんッ!――んなもんスパルタクスの専門だッ――って言いてぇがヤベェ気がする……俺ァ頭悪ィからハッキリとは言えねぇが、〝鬼共の動きが妙だ〟!」


――ズガンッ――


ダルカンがその大剣を振るい道の先で子供を襲う鬼の身体を斬り飛ばしてそう言う…。


「――〝妙〟ってのは何がだ!?」


そのダルカンの含み有る言葉にガチタンはそう問い返すと、ダルカンは今しがた殺した黒鬼共の身体から奪い取った金細工を手に説明する。


「ハデスの目的が〝日出〟の破壊、〝尼倉〟の破壊ならば何故鬼共を参集させる!?――それもただ虐殺しながらじゃ無くこんな金品を集めながらだ!」


そう言うダルカンの言葉にガチタンは考える。


確かに、尼倉を攻め落とすなら何故わざわざ奇襲して散発させた黒鬼達を集める?…一箇所に纏めて集団戦の為に?…なら何故金品を集めさせる。


「――コレァ俺の妄想だし、根拠も何もねぇが!」


黙考するガチタンはそう言いながら走るダルカンの言葉に思考の海から引き戻される。


「この〝行為〟にゃ何か〝大事な意味〟が有ると思ってんだッ、魔術師が術を使うプロセスに詠唱やら魔術陣を使うみてぇに、この〝奪う〟、〝殺す〟行為と〝黒鬼〟共を使って何かするつもりだと俺ァ思ってる!」

「――ッ成る程、つまりコレは〝儀式〟って事か!?」

「――飽く迄妄想だ、だがもしそうならこの儀式を完成させるのはヤバい気がする!」


二人はそう言いその足を速める…無論根拠は無い妄想だが、ダルカンの想定するソレを強く否定する事は出来ない。


何故ならば相手は何をしでかすか分からない〝男〟なのだから。


「――なら、やる事は変わんねぇな!?」

「――応、黒鬼共が集まる前に殴り込んで、ボスをブッ殺すぞ!」


「――オオォォォッ!!!!」

「「退けぇ!!!」」


そして二人は炎渦巻く化物の摩天楼へ飛び込んだ、中に蠢く黒鬼の群れを刻み殺し押し潰して、階段を駆け登ってゆく……。


その最中に二人は感じ取る、鬼共よりも遥か強力な気配が、己等の頭上に存在する事を……そして、その気配が徐々に近付き、大きくなってゆく事を。


だが、二人は気付いていない……燃え盛る〝摩天楼〟のその渦巻く炎の違和感に…無論燃え盛る炎は正しく炎だ、だがその炎は這い回り木の床を、壁を天井を階段を燃やさんと進んでいると言うのに、その空間のその木の構成物には煤が付くだけで何一つ壊れては居なかった…ただ、燃え広がりボロボロに成った布の幕と、鬼共だけが視界に入り込み、其れ等を幾度も続け、遂に二人は最上の業火と豪華に飾られた襖を蹴破り中へ入る……其処には。


「――愉快、真に愉快よのう♪」


燃え盛る炎、そこかしこに転がる鬼共の骸、盃に盛られた金品とその上で踊る紫炎を前に…異様に広い〝室内〟で此方を見据えて笑う〝鎧の男〟が居た。


「偶然か、或いは勘付いてか…何方にせよ愉快な事よ…まさか〝本の儀〟を終える前に貴様等が辿り着くとは……それもこの街に感じる〝鼠共〟の中でも取り分け大きく肥えた〝鼠〟とは……故に人生とは愉快な物よ…物事が上手く行かん不条理もまた、人の生には付き物よなぁ――」


――ドゴォッ――


悠々と言葉を並べて遊ぶ男へ空を引き裂く〝刃〟が襲う……その刃は男とその玉座をマトモに捉えて直撃すると、一瞬の静寂を生み――。


「少しは会話を楽しむ度量を持たんか、この痴れ者めッ」


そう言い少し怒る様な、面白がる様な声をしながら、鎧の男が立ち上がる。


「――全く……今生初めてにして最後に成り得る〝人間との会話〟と言うのに、我の余興に付き合わんとは…そうまでして早く斬り遊びたいのかのう?」


男はそう言いチラリと二人を見る……二人の顔はただ戦意に満ちており、会話をするつもりも無いのだと知ると肩をすくませ、そしてその顔を歪めて二人を睨み男は告げる。


「――成る程良かろう!……本来ならもう少し、後30程鬼共を喰らっておきたかったが、コレもまた宿命よ…〝悪鬼の屍肉を喰らい〟、〝血濡れた財貨を薪に焚べ〟、〝無常の哀魂を飲み干そう〟……〝悪業纏いて我は今至らん〟…〝第六天の魔王〟へ……!」


その言葉を紡ぐと、屍肉と紫炎が男を包み、その中を何百もの蒼白い人魂が入り込む、するとその屍肉と炎は胎動し……その中から声が響く。


「――…我が名は〝ノブナガ〟…〝頭蓋の呪物〟、その受肉体…しかし今、我は今…正しくこの世に生まれ落ちた…最早〝骸の王〟より与えられた名は要らず、我は我の意思で名を〝紡ごう〟!――我が名は!!!」


それと同時に紫炎の渦が晴れ、中から1人の男が現れる……その肌は白く、冷たく…その身体には黒い鎧と靡くほど大きなマントを纏い、その髪は血濡れた様に赤黒く、その目は黒と〝赤〟を浮かばせ、その姿は正しく〝魔王〟と呼んで違わない様な有り様だった。


「――〝波旬〟…第六天魔王〝波旬〟で有る!」


そしてその魔王は己が名を紡ぐ……〝波旬〟と、天の道を妨げる〝大悪〟で有ると。


「――さぁ鼠共、剣を構えよ…逃走は許さぬ、命乞は要らぬ…貴様等を殺し、日出を落として、〝骸の王〟へ反旗を翻す狼煙としよう!」


その言葉を受けて、二人はその剣と盾を構える……。


そして、二人は駆け出し、その大太刀と己等の武器を打ち鳴らし、戦争の音色を響かせる……。



「――との事ですが、如何なさいますか〝主様〟?」


その光景を見て、眼鏡を掛けたスーツの美女は一羽の鴉へそう告げる。


「『――ハッハッハッ!――いやいや、好きにさせておけ、彼奴が俺の事を憎み、殺しに来ると言うならばソレはそれで良し、そのままゲームの〝駒〟として終わるも良し…何方にせよ〝面白い〟…お前はもう帰還しても良いぞ〝ヴァイン〟』」


その美女の言葉に、鴉の口からそう声が響く、その声を聞くとヴァインは少し思案し、そして直ぐにソレを取りやめると鴉へ言葉を紡ぐ。


「了解しました……それでは主様、〝映像〟を切らせて頂きますね?」

「『了解――』」


――パチッ――


「――カァッ!」


羽撃く鴉を見送ると、ヴァインはその眼鏡を外し…その身体を変異させる……粘液を帯びた黒い烏のような身体に、能面の様な冷たい顔を持った、一匹の化け物へ。


「『こんな姿、主様に見せたくは有りませんわ……決して』」


そう言い残すとヴァインは闇夜に消える…その背後に響き渡り燃え盛る炎の叫びを一切無視して。

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