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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十三章:日出る国に屍の影は降り
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陽は沈み、百鬼は駆ける⑦

ただ妬ましかった、ただ憎かった。


己の愛は報われない、己の幸福は手に入らない…なのに他人は幸福を享受する、愛に報われる。


ソレ等はそう言い人を襲う。


ただ己の穴を塞ぐ為に、己の心を癒やす為に。


悍ましい心根、醜い怨嗟を燃やしながら…。


その姿は、その形は〝醜い〟の一言に尽きた。


――とある男の日記より抜粋――

――ザッ――


「酷いな…こりゃあ…」

「…えぇ、本当に…」


色の街〝春桜〟…夜の街〝春桜〟と言われるほどの活気ある街の大地を踏み、その地獄絵図に〝ヨイチ〟と〝リエナ〟含めた銃兵と神官部隊は立ち並び死屍累々の光景に目を見張る。


――ポタッ……ポタッ……――


並び立つのは何百何千の死に体の人間達…男も女も子供も区別無く、その地面に伏せ、その血の海を作る一部と成っていた…。


「まだ息は有る…だが徐々に弱くなってるぞ…リエナ、コレは?」

「〝呪い〟…〝呪術〟の類いなのは確かです……でも…コレは…ッ!?」


そんな彼等を癒やす神官達の指揮官、エリセへヨイチは問う…だが、その瞬間エリセが声を出すよりも速く、ヨイチ達は蹌踉めき、頭をクラつかせる。


「――何だ……〝呪詛汚染〟…〝壱〟?」

「可笑しい…不浄に対する抵抗力が高い筈の神官達も呪いの影響をこんな早くに受けるなんて……どうなってんのッ!?」

「落ち着けエリセ…騒いでもどうにも成らん…行くぞ…元凶はこの先の筈だ」

「ッ―…はい、すみません……分かりました」


混乱に慌てるエリセをヨイチは諭すと、クラつく頭を押さえながら街の中心に進む……。


――ザッ…ザッ…ザッ…――


進む進む…その度呪いの影響は強くなり、進めない者達がその場所で止まる……五十人余り居た守護者達は進む度数を減らし…街の中心は向かう頃には半分が耐え切れず進軍を止めた…。


「〝四〟…クッ…不愉快だ…」

「〝聖域〟を使っても薄まるだけの様ですね…」


そう忌々しげに言葉を零し、彼等は遂にその場所に辿り着く…。


「ッ……アレは……」


其処に居たのは人間の骸の山…そして、その骸を切り刻み、肉塊にしながらその血肉を貪る2匹の〝化物〟……。


「『ゲヒッ…ヒヒッ?』」

「『アッ、ヒヒャッ…ヒャウッ!』」


その顔は悍ましい〝怒気〟を見せる〝真蛇〟の面と、その怒気とは反対に笑みを浮かべる能面を顔に貼り付け、縫い付けられた人と獣を足して割ったような化物…それ等は手に持った鉈を振り回しながら暴れ狂い執拗に女の顔や子供の身体を切り刻んではゲタゲタと下品に笑う。


その二匹が紛れもなく敵で有り、排除すべき異物だと守護者達は理解する…しかしその指揮者たる二人の視線は二匹の化物のその更に奥――。


――………――


真っ黒な木の、見るからに複雑な構造をしたコレまた黒い鉄の留具や装飾に覆われた箱に有った。


「成る程……アレが今回の〝呪い〟の原因か…」

「どういった呪物なのでしょうか?」


二人はそう言い、未だ気が付かない鬼共を無視して考察をしようとした……そのタイミングで。


「――知りたいかな?」

「「ッ!?」」

『ッ!?』


二人の間から声を上げる、その〝脅威〟が愉しげに声を上げる。


――バシュンッ――


「グェッ……いやいやチョイ待ちチョイ待ち…流石にソレは早計だって――あ〜あ、〝バレた〟じゃん」

「「ッ――!?」」


鉛を頭に喰らいながら、男はそう言う……その瞬間二人は背中に感じる視線に勢いよく振り返る……其処には此方へ顔を向けて、不気味に立ち尽くす二匹の化物が居た。


「「ッ―――!!!」」


そしてその化物は二人が見た瞬間に動き出しそのなたを振るわんと迫る…そしてその鉈が振り下ろされる瞬間。


「――コラコラ……〝何やってんの?〟」


――バシュンッ――


その二匹の両手が男の言葉と共に吹き飛ぶ。


「駄目駄目、駄目だって〝鬼モドキ〟…言ってるでしょ〜…僕の玩具に勝手に手を出すなって……首も吹き飛ばされたいかな?ん?」

「「ギヒイィッ!?」」


その男は微笑みと共にそう言う…すると二匹は明確な恐怖を浮かべてその場から後退る。


「良い子♪――それじゃあ説明しようか、このゲームの〝ギミック〟♪」


――パチンッ――


その男はそう言うと指を鳴らす……その瞬間周囲の肉塊は影に沈み、その場にいた人間達はその場から消え去る…。


「大丈夫…〝箱〟が起動してから〝春桜〟ではまだ1人の死者も出てないよ♪…皆虫の息で生きてる、痛みと苦痛に悶えて吐き気を催しながら、ね?」

「…なら、あの肉塊は何だ?」


ヨイチがそう問うと、男はその問いに笑みを作り指を立てる。


「アレは僕が用意した〝フレーバー〟だよ……大部分は僕が用意した飾り物の死体だ…ま、それでも本物だけど」

「大部分?」

「あ〜……残りはこの街で色々悪さしてた奴に〝手伝ってもらった〟んだ♪…まぁまぁ、僕はゲームの飾り物が出来てハッピー、君達も街のゴミが処理できてハッピーって事でさ♪……おっと行けない、話題が逸れた…さて、それじゃあこの〝春桜〟での〝ギミック〟について幾らかヒントを出そうかな♪」


男はそう言うと、手を叩く……その瞬間、中央でただその場所に置かれていた箱が独りでに動き出し、その箱の中からドス黒い瘴気を放つ。


「〝コトリバコ〟…或いは子取り箱は知ってるかい?……所謂都市伝説、オカルトな噂話で出て来る〝呪物〟…長々と語るのも楽しいが簡単に言えば、〝箱を開けた者〟の一族を呪い殺す箱…特に狙われやすいのは一族の繁栄に大きく貢献する女や子供だったかな?」


瘴気は周囲に満ちた瘴気を吸い取りながら、周囲に黒い壁を生み出して退路を閉ざす。


「〝コレ〟は確かに同じく〝コトリバコ〟と呼ばれる呪物だが…ソレの更に改悪版だ♪…システムとしてはコトリバコをベースに、その呪殺範囲を〝無差別〟に作り変えた…コストは掛かったがその分呪殺範囲は丸々街一つ分という…ま、箱から遠ければ呪詛汚染の侵食も遅くなるが…まぁつまりはこの街のギミックとしては…街全域の住民を〝人質〟にした〝時間制限付きのボス戦〟って所だ♪」


男はそう言うと、守護者に背を向けて箱へ向かう…。


「流石にこんな有名な呪物をベースにしたのが分かれば、ソレの〝特色〟も薄々分かる奴も居るよねェ……コトリバコの性能はその箱の中に収められた子供の肉体部分の数で上昇する…〝壱方〟、〝二方〟、〝参方〟、〝四方〟、〝五方〟、〝六方〟、〝七方〟…そして、最上にして最悪、術者本人も死にかねない〝八開〟…数字が上がる度、術は強くなる……起動から十分で街が死にかけてるのも無理は無い……さて」


その男はそう語りながら守護者に顔を向けてニコリと、その場に不相応な笑みを作る。


「〝僕〟を壊す事が、〝春桜〟を救う唯一の手段…しかし一筋縄とは行かない……〝僕〟を守る〝猿〟を倒さねば僕にはその刃は届かない」


そしてその笑みを変えず、その姿を徐々に薄れさせて男は言う。


「今直ぐに街の者達が死ぬことは無い……だが、急ぎなよ…〝長々と手を拱いて〟しまえば、街はその灯火を吹き消されてしまうからね?……ソレじゃあ、期待してるよ?」


……と、そして男の姿が完全に消えたとほぼ同時に。


「「ッ※※※※※――!!!」」


抑圧を解かれた二匹の化物が暴れ始め、守護者等に迫った…。

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