陽は沈み、百鬼は駆ける③
――ザザザッ――
――ドシャアッ――
「カッカッカァッ―〝火走り〟!」
「♪…〝氷華之舞姫〟」
夜の戦場、その境に駆けずり回る灼熱と美しく花弁を散らし触れる物を氷像に変える氷の華が乱れ飛ぶ。
「夜戦も悪くは無いのう!?」
「ん…でも、見えないのは…厄介?」
「なぁに、その時は気配と殺気、匂いと音で敵を見つければ良い話……」
――ザシュッ――
「ブゲェッ!?」
「こんな風にのう?…儂等を差し置いて隠れ進もうとは良い度胸よのう?」
そう言い睨みを利かせる三郎丸とニノに妖魔達が尻込みする。
最前線、人間共の矢と鉛の雨から突如として現れた化物へ恐れ、しかし立ち止まれずに惑うままに進み続ける…結果はただ〝死ぬ〟だけ。
このまま行けば妖魔達は負ける、己等が勝つと遠巻きに戦場を見る守護者達が喜色を浮かべた……その時。
「「ッ!」」
「「ヌウオォッ!!!」」
血濡れた大地が吹き飛び、土塊を周囲に撒き散らす…薄暗がりに起きた異常を捉えんと砦から幾つもの灯りが飛び、三郎丸達の方向へ向く……其処には。
「よもや、同族が人間共に付いて居ったとは…それもかなりの腕とお見受けするが…フフッ♪」
「此方の娘も強い…フッフッフッ♪」
「「やはり戦は愉快だなぁッ!」」
三郎丸に上から叩き潰すように棍棒を振り下ろす赤鬼と、ニノへ襲い掛かる二刀流の刀を持った青鬼が其処に居た。
――ドォッ――
「グゥッ!」
「ッ!」
二人の鬼はそう言い獰猛に笑うと二人を弾き飛ばして武器を構え直す。
「どれ、戦場の習いよ…我が名は〝紅天童〟、鬼共を統べる長の一人よ」
「我が名は〝蒼天童〟…同じく鬼を統べる長の一人…さて」
「「我の手柄となり討ち取られる貴様等の名は何と言う?」」
その顔に張り付けられたのは強敵と相見えた事への喜びとソレを殺すと言う殺意…並みの者なら萎縮してしまうだろうその殺気を受け、二人は。
「「ッ――♪」」
――バコンッ――
その顔に狂喜の笑みを浮かべて二人の鬼へ迫った。
「儂ァ〝三郎丸〟じゃ、宜しくのう若いのッ」
「〝ニノ〟…宜しく」
「そいじゃ斬り合いと行くか!」
「ん♪」
2匹の鬼と、二人の鬼が打つかり合う…。
――ギリィンッ――
「何と硬い……まるで岩じゃなぁ!」
「ん…反応も良い…楽しい♪」
四人が斬り合う…その剣戟は早く、速く速度を増して行く…始めは余裕を持っていた鬼達もその速度と技に目を見開き、驚嘆を口にしてその剣戟を捌いていく。
その直後…。
――ドッ――
ニノと三郎丸がその足を横に踏み込む…そして。
「さっきは良くもやってくれたのう」
「今度は…此方の番」
「〝村正〟」
「〝骸雪姫〟」
――ゾワッ――
二人が交差し、それぞれが横から相手を狙う…その刀に込められた魔力を見て二人が咄嗟に防御の構えを取り、その武器と相手の武器が触れ合い――。
――ギリィンッ――
打ち合った瞬間、二人の鬼が別々に吹き飛ぶ……その身体中に血を吹き出させて。
●○●○●○
「――蒼天童、紅天童に当たったのは三郎丸とニノか…ふむ…てっきり上澄みは日出の方に固めてると思ったが…コレは……まぁ、コレはコレで…」
瀧夜叉姫の方もやり合ってるらしい……相手は…〝彼奴〟か。
「……成る程成る程、多少はマシに成ったか……相変わらず俺には合わん性質なのは変わらんが…」
火種は上がっては居るが……だが、まだだな。
「まだまだ足りない…〝アレ〟を呼ぶにはまだ煙が少ない」
しかし各々の街に守護者の上澄みが数人居るのは予想外に良い方向だったな…。
「守護者等がそう動くなら、思ったより楽に事が進むな…重畳重畳」
……等と、楽観視する程俺は馬鹿じゃない。
「どうせ〝プロフェス〟が何か仕込んでるだろ…後は鉄打ちとクラフターの連中…アレの技術力と質ならあの程度の壁だけで終わらせる筈がない」
地雷も無いらしいし…一体何をするつもりなのか……。
――カラカラカラカラッ――
――カラカラカラカラッ――
「ッ!――ほほう…他の街にも動きが…どれどれ…おぉ!」
俺はカタカタと鳴り響く骨の音を聞き、その場所に目を移す……其処には。
――バリッ…グシャグシャッ――
「『ふぅ……取り敢えずコレで前線の盾には成れるか…後は任せたよジャックさん!』」
「『って言うか何で私等だけで処理してんの!?――皆も手伝ってよ!?』」
妖魔の群れを踊り喰らう黒く蠢く化物を操る少年と、群れの中で妖魔達を刈り取ってゆく暗殺者の少女がそう言いながら街を守っていた…。
「あぁ、アレも夜に向かう程強くなるのか……しかし強くなる〝悪夢の眷属〟を制御し切れるとは…やはり見込んだ通り、素晴らしい逸材だったな」
他の街でもほぼ同じ頃に打つかり合ってるのか……良いな良いな♪
「皆ちゃんと動いてるらしい……見えてないのは〝アーサー〟と〝プロフェス〟とその他複数の上位プレイヤー共か」
大方日出に固まってるのだろうが…コレだけ分散してるなら問題無いな。
「後はタイミングを見て適宜風を扇ぐとしよう♪」
○●○●○●
――シュウゥゥゥッ――
「――ウゥム…まさか一撃を受けるだけで身体中が裂けるとは…何と言う〝力〟」
「――カッカッカッ♪…そりゃあ此方もそれなりに力込めて殴ったからのう…手傷を追ってもらわねば此方が困るわい…」
蒼の鬼と炎の老鬼がそう言葉を交わしながら戦意を震わせる…。
「――三郎丸よ、一つ問うぞ?」
「ん?…何じゃ?」
「何故貴殿は人に付く?…貴殿ほどの強者ならば貴殿よりも弱き者と手を組む必要等あるまいに」
蒼天童はそう問い掛けると三郎丸はその問いを笑って否定する。
「馬〜鹿、元より儂ァ人の元に付いとる訳じゃ無いわい…ただ此方側の方が強い奴と戦えるから居るだけじゃ♪」
「……あの小娘もか?」
「?…そりゃそうじゃろ、ニノは儂の孫でも特に儂に近いからのう♪…もう直儂を追い越すんじゃ無いかと儂も気が気でないわい♪」
そう言ってケタケタと笑う三郎丸の言葉に蒼天童は小首を傾げて問い掛ける。
「その割に随分と嬉しそうでは無いか」
「――あったりまえよぉ…儂より〝強い〟ってこたぁ、〝ソイツに挑める〟と言う事…儂より強い者が増えるのは大歓迎じゃ、その尽くを食らってやるとも♪」
その答えに、蒼天童は理解する……目の前の〝老鬼〟の腹の内を。
「――クハッハッハッ!…〝喰らう為に育てる〟か…成る程、その発想はこの数百年生きて生まれたことも無かったぞ!」
そしてその答えに蒼天童は愉快そうに笑い、そしてその刀を構える…。
「貴殿を殺した暁には…我もそのやり方を試してみよう♪」
「ほざけ、殺すのは儂じゃ♪」
そうして二人は同時にかけて、その斬り合いを再会し周囲の妖魔を巻き込んで切り刻んだ……。




