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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十三章:日出る国に屍の影は降り
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月が覗く地獄絵図

――ヒュンッ、ヒュンッ、ブンッ――


「チィッ、んだその動きッ!?」

「当たってんのか!?」


剣と剣と剣と槍、囲む守護者の攻撃を避ける躱す…動きは速く、力は強く、殺意は鋭く…けれど、それが己の肉を、柔肌を触れる事は無い。


――ガシッ――


振られる直前に剣を掴む、不完全な姿勢から放たれる剣には力は籠らず、この膂力でも抑える事は出来た。


「シィッ!」


両手が剣を押さえた瞬間、真ん中の、俺の首を槍が迫る。


――ボキボキッ――


ソレに対して新しく生やした腕で己の首を捻ると、その首は捻れて槍の軌道から外れる。


「クヒッ♪」

「ッ!?」


両手を離し、今度は槍を掴む…その槍を持って跳び、ポールダンスの様に槍を起点に守護者の顔に蹴りを入れる。


「ッ残念!」


そのまま倒れる守護者の頭を右手に作り出した障壁で押し潰すと地面は脳髄と血と砕けた骨と臓腑で満たされる。


「あぁッ、邪魔だ人間共ォォッ!!!」

「お♪」


瀧夜叉姫がその手の蒼炎に息を吹き掛けると、その炎は膨れ上がり炎が山々を燃やす。


「その技は知ってるぞ♪―確か三郎丸がやってたな♪」


空に鴉の羽を羽撃かせ俺は眼下の瀧夜叉姫と睨み合う…その目は忌々しげに歪んでいた。


「――さて、実際問題守護者共は無尽蔵に湧き出し、此方へ来ている…」


始めは雪崩れて来て居たが時間を経てば隊列を整えて来るのだろう……眼下の守護者退魔師共は今の所苛烈な攻撃の対処に精一杯と言った所か。


「正直な話、今プロフェスやらアーサーやらと殺り合うのは〝負け〟だから余り時間を掛けるのも困り物だ」


ソレに眼下の人間共ももう殆ど目新しい術は無さそうだし……なら。


「〝一息に〟片付けてしまおうか♪」


――ドクンッ――

――パチッ…パチパチッ…――


「〝平の世より我は己を呼び醒ます、爾は古き旧き妖である〟」


黒い魔力が〝()〟を染める…空に渦巻くは黒い雲、月を覆い隠す暗雲。


「〝鹿の脚、狸の腹、猿の顔、蛇の尾、鴉の翼…爾は何者にも成れぬ者〟」


暗雲は唸りを上げ、空高くを守護者共が見上げる。


「〝爾は成り損ないの妖、孤独な化物、人成らざる者のあぶれ者…しかして爾は恐るべき雷の者、忌雷の獣である〟」


俺はその姿を変える、頭蓋には鹿の角を、その手には猫の手を、その脚は狼の者、背中には鴉の翼、その尾には蛇を――。


「〝一屍:人妖形剥ぎ狂鳴の雷獣じんようかたはぎきょうめいのらいじゅう〟」


――ビシャアァァンッ――


その背には〝轟雷〟を。


鳴り響くは狂った様に打ちつける雷鳴それは山の頂へ降り注ぐ、その空の上に舞うはかつて古い時代、平安の世に現れた継ぎ接ぎの化物。


その名を〝鵺〟…何者にも成ろうとし、何者にも成れなかった哀れな化物だ。


「〝悪兆ノ雷鳴〟」


狂い鳴く雷鳴は山の頂を雷光で埋め尽くす……悲鳴は呑まれた、恐怖だけが残った…そして。


「後は〝お前〟だけだな♪」


俺は焼け焦げた大地に降り立ち、瀧夜叉姫を見る…その顔は冷や汗を流し、その顔は涙を浮かべ恐怖が其処に在った。


「オイオイッ♪――そんなに美味しそうに〝恐れるなよ〟…もっと虐めたくなる♪」


――パキッ…パキッ…――


焼け焦げた骸の腕を枝の如く踏み折りながら近付く。


「ヒィッ…い、いや止めッ…」

「どうしようか、どう喰らおうか?…先ずは指を全て折ろう、その次は脚を削ぎ落とすか♪」


――パキッ、ゴキッ――


「お前の恐れを、絶望を長く喰らおう、味わおう…その為に永く生かそう、お前もそうしたのだろう?…生皮を剥ぎ、肉を削ぎ、骨を削り、腸を引きずり出し、死なぬ様に丁寧に〝処理〟しよう♪」


なぁに、やり方はお前の背後の〝ソレ〟が教えてくれるさ。


「先ずは自死出来ぬ様に歯を引き抜こうか、或いは顎が動かぬ様砕くか♪…大丈夫、心だけは死なぬ様に呪いを掛けてやるさ♪」


どうした、そんなに怯えて…?…後退るのは構わないが後ろを見ろよ?


「ッキャウ!?」


――ドサッ――


「ウッ……ヒィ!?」

「逃げなくて良いのか?…ほら、捕まるぞ、捕まってしまうぞ?…餓鬼を捕らえてこうしたんだろう?…逃げなければ食べるぞと、鬼ごっこだろう♪…餓鬼を嬲ったんだろう?…そして脚を折り砕いた、餓鬼の叫びを肴に酒を飲んだんだって?…捕らえた餓鬼を嬲り殺し、嘘を吐いて殺し合わせ、死んだ餓鬼を食わせたと?…ハッハッハッ♪――良い趣味してるなぁ♪」


――ボキッ――


「ウグアッ――」

「あ〜あ、逃げないから足が無くなっちゃった…ほら…返して欲しいか?…なら取りに来いよ♪」


俺は脚を千切り、瀧夜叉姫から離れた場所に足を置く。


「ほら頑張れ♪…頑張れ♪…手で這え♪…後少し、もう少しだ♪」


這う、這う、無様に滑稽に、その衣服を土で汚しながら…だが瀧夜叉姫の顔は優れない、何故ならば、この光景に既視感が有るのだから。


「ほら、〝手を伸ばせば届く〟ぞ?」

「ッ……あ、ウアァッ――」


――ザクッ――


「残念、届きませんでした♪」

「アァァァッ!?!?!?」


そう、コレだ……足を取り返そうと伸ばした腕を地面に縫い付ける…己が子供にした行為を再現されている…。


「――フフフッ、良い〝恐怖〟だ♪」


そして、その後は…。


「や、止めてくれッ…我が、私が悪かった!――だからッ」

「『助けて』、『コイツだけでも逃がしてくれ』、『死にたくない』、『食べないで』…お前が殺した餓鬼共も、そうやって命乞いしたんだろう?…さて、ではお前は1つでもその声を聞き入れた事は有ったかな?…いやいや、無いだろう、無いだろうさ♪――お前は〝鬼〟だ、残虐で、冷酷で、人の事を辱め殺す事を至高の肴にする〝悪鬼〟だろう?…ならば当然、己に行為が返ることも、その覚悟も有ったろう?」

「ア…アァ…」


瀧夜叉姫が涙を零す…その濡れた瞳の奥の俺は、酷く〝良い笑顔〟をしていた。


「さぁ、それじゃあ……〝頂きま――」


俺がそう言い、その瀧夜叉姫の目玉に手を伸ばした瞬間。


――ガシッ――


「〝そこら辺にしねぇか?〟…〝骸の〟よ」


何者かが、俺の腕を止める……。


「――♪……随分と来るのが遅かったじゃないか、覗き見していた変態鬼君?」


俺は腕の主、覗き見変態鬼改め一匹の名も知らぬ鬼へそう言うと、その鬼は肩を竦めて瀧夜叉姫を見下ろす。


「〝コイツ〟の度が過ぎた御遊びの躾の為だ……おい〝瀧夜叉〟…この勝負、お前の負けで良いな?」



その彼の言葉に瀧夜叉姫は酷く涙を流して首をコクコクと頷かせる。


「ッ!――あ、あぁみ、認める!」

「――だそうだ」

「……ハァ…折角〝久し振りの食事〟だったと言うのに…」

「〝双鬼〟の奴等からお前が何をしようとしているのかは聞いてる…コイツは性根がアレだが、力は有る…お前にも利用価値が有るだろう?」

「私としてはこんなのが一匹減った所で痛手では無いが…まぁ良いさ、勝負は着いたからね」

「……詫びと言っちゃ何だが、〝茨木〟におはぎを作らせた…食うか?」

「分かってるねぇ♪」


俺はそう言う赤鬼の手からおはぎを1つ受け取ると口に運ぶ…小豆の素朴な甘さが堪らないね。


「所で〝茨木〟と言ったが…もしかして君は〝大江山〟の?」

「あぁ、俺の名は〝酒呑童子〟だ……一応鬼共を纏める頭領だ、宜しくな」

「まぁ宜しく……さて、勝負は着いた、甘味も食べたし…久し振りに此処まで暴れてスッキリした!…案内してくれ、話を聞こう」

「あぁ、此方に〝嫌な気配〟と〝面白い奴〟が来てる…急いで離れるとしよう」


そう言うと赤鬼改め、〝酒呑童子〟は〝瀧夜叉姫〟の足を繋ぐと腹に抱えて駆ける…俺もソレについていき、闇夜に消え去る。


暗雲は晴れ、月が地面を覗く……其処には焦げた地面に黒く焼け焦げた屍肉の大地が広がっていた…。

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