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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十三章:日出る国に屍の影は降り
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淫蕩の果実

夕暮れが日を飲み込む、その頃には信太は家へ帰り、俺は一人新たな日出の街…〝春桜〟に足を運んでいた…。


その街の光景をより分かりやすく現代に例えるならば…〝浅草〟だろうか?…達並ぶのは絢爛豪華な大建物、道行く人々はその身体から甘い蜜の香りを放ち、色情が渦巻く花の街…一方で…。


――ドサッ…――


煌々と夜に抗う強い光の裏は、その人の光の内を表すような伽藍堂の闇に包まれていた。


「アァッ…アァッ…」


居るのは肉を食む野良犬とその肉の元達…腐り果てた目玉を零して痩せこけた肢体を晒しながら腐り落ちるか食われるかを待つ骸、或いはそんな骸の中で呻くしか無い脳の腐り果てた〝男女〟…その悍ましい情事はその刹那に狂気を帯びた暴力へ代わり、かと思えばまるで何年も待ち焦がれた者との再会を果たす様な熱烈な口吻を交わす等、その行動は理性と本能を半端に混ぜ合わせた様な気色の悪さを抱かせる。


「〝性病〟の中でも特に質の悪い〝梅毒〟の系譜か?…何にせよ見ていて気分の良いものでは無いか」


――ザシュッ――


抱き合う二人の首を刎ねて骸を灰にする…他者の情事や痴態を見せられたとて何にも思わぬが、流石に此処までくれば気色悪い。


「〝情事〟は人の繁栄にとって不可欠だ…そしてソレを促す為にその行為に人は快楽を覚える……行き過ぎればソレは〝(色欲)〟と成る、毒は当然その身を破滅へ追い遣り、痴情の縺れは人間関係に大きな亀裂を生み、軈ては血濡れた〝終わり〟を迎えてしまう」


何て事は良く有る事だ、不貞を働き死にゆくもの、死をも生温い報復に悶える者……此処は特にその気が濃い。


――ゴチュッ、グチュッゴキッ…――


「〝良い苗床〟が手に入りそうだ♪」


一国一月を巻き込んだお祭り騒ぎを飾るには簡単で妥協に屈した物は相応しくない。


「先ずは〝土選び〟から…かな♪……〝ソッチは任せたよ?〟――〝私?〟」

「――任せなよ、〝私〟」


紫色が4つ並び、そしてその身体に香りを纏い二人の男女が暗がりから夜の街を進む……その暗がりの中には、とろける様な、脳に染み付いて離れない様な〝色香〟が満ち、獣も虫も微かな息を持つ腐りかけた肉も、皆してその身体を盛らせるのだった…。



○●○●○●


――ガサッ、ガサガサッ――


「匂う、匂うぞぉ?…懐かしい匂いだ」


ソレは夜の中、月も隠れる暗がりの中赤を帯びた瞳を地面に向けて、〝ソレ〟に触れる。


「千も昔に地の底に落とされた〝奴〟の匂いだ」

「確かに、間違いない…この匂いは違える事は無い…この〝死の香り〟は正しく彼奴のモノ…」


ソレは〝足跡〟…其処から染み出した微かな魔力とその匂いに、二人組の何者かはそう言い合いその目を見開き小さな黒粒を揺らす。


「〝紅天童〟よ…分かっておるな?」

「応とも、〝蒼天童〟よ…我等〝妖魔〟が人に追い立てられて千年…漸く奴が封印を解く鍵を見つけたらしい」


――……クヒッ、クヒッヒッヒッ♪――


声を押し殺す様に、二人のソレは笑う…薄雲が月の光をぼやけて散らす、ソレは風に攫われ…蒼い月光が地面を照らしたその場所には。


――ヌオォォ…――


赤と青の〝鬼〟が…その顔を歪めて笑い、そして言葉を吐く。


「「〝コレ〟を探せ♪」」


その瞬間、森は大きくざわめき…影が散る、ソレを見送り、二匹の鬼は声を押し殺す様に笑い、夜闇にまた溶け消えて行くのだった…。



●○●○●○


「ねえ旦那?――今夜どうだい?」

「おぉ?…良いねぇ♪」

「おい婆婆ッ、テメェ巫山戯んなッ」

「巫山戯てんのはテメェだろがッ、二度と家の店に来るんじゃないよッ!」

「――聞いたかよ、あの〝夢の宮〟の遊女が身請けされたんだとよ」

「まじかよ、彼処の女を身請けするとかどんなおえらいさんだ?」


其は人里夢の里、夜も昼も色事金事嬌声怒号と響き渡る街〝春桜〟……日出一の女遊びの街と名高く、多くの人間からは〝色の街〟と呼ばれる程に、事〝色情〟には事欠かない夢の街。


道行く者は皆一様に美しく色に蕩け、酒よ飯よと活気は満ち、その日その日を燃やす〝勇者共(馬鹿共)〟で溢れ返るそんな街。


ある者は言った…『此処では老若男女が色を知る』と。


またある者は言った…『己の半生を費やしてでも一夜の夢に溺れる価値は有る』と。


……そんな何処を見ても色好き物好き乱痴気騒ぎな、良くも悪くも〝盛況〟な街の二箇所は…普段この街に滅多に見られない〝静寂〟と、相反する様に大きな〝色欲〟が渦巻いていた。



――カンッ……カンッ……――


石畳を軽やかな下駄が成る…その余りに心地良い音に、街の者共はこぞってその場所を見る…そして、〝蜘蛛の巣〟に囚われる。


「〜〜〜〜♪」


耳に響くは美しい声の歌……その男、或いは女を見た者は、その声とその美貌に目を奪われ、視界一色をソレに包まれる。


その美しい衣を纏い、上品な足取りでその場所を進む美女の生足に、男共は呆ける。


その美しい衣の隙間からチラリと覗く筋肉質な肢体に女達はその顔をのぼせさせる。


揺れる豊満な身体は、或いは筋肉質でありながら、何処か柔らかなその身体は見る者の目を釘付けにして離す事は無い。


美しく飾られた髪は、或いはシットリと火の光に照らされる黒い髪の美しさは天上からの贈り物とすら言える美を持ち、その大きな瞳は、その何処かミステリアスな瞳は虜にする〝魅力〟に満ちていた。


極めつけは、その〝香り〟と〝息使い〟だろう。


ソレは甘く、しかし甘過ぎず…現と夢の間へ引き込む様な、そんな香りを放つ…己には決して届かない華、だが或いはと迷い弄ぶような色の香り。


ぷっくりと実った唇から微かに漏れ出す、〝煽情〟の息使いは態とらしさを感じられない、天然の〝色気〟を纏っていた…。


夢を売る美女も、夢を買いに来た守護者や人も、皆が皆、その〝魔性〟に魅入られ固唾を呑む…。


その〝美女〟と〝美男〟へ。


「「あぁ……少し疲れた(わ)」」


静寂の中、その男女はそう疲れた様な吐息を吐き、周囲を見る…。


「「何処かで休もうか(かしら)」」


その声を聞いた瞬間、〝色の街〟の色情は大きく乱れ、天上の果実を求めんと、人々は男女を囲み大きく盛り上がる……。


「「……フフフッ♪」」


色香に充てられた人々は気付く事は無かった……その魔性の果実の奥底に隠された。


喰らう者を甘く絡め取り、緩やかに殺す…〝毒〟が隠されていた事を…。



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