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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第二章:悪夢に足掻く者達
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巡る悪意①

東の街、ブルエナ……夜が陽を隠す頃、とある場所では人が密集していた。


「さぁ!今宵、この場にいらっしゃる紳士淑女の皆様!御初にお目に掛ります!私此度のオークションを進行する司会者をしております、ノーツと申します、どうぞよしなに……」


――ガヤガヤ……――


どんな街にも法は有る、人を守る物、生活を守る物、法とは規律とは、それに属する者達にとって最大の防波堤で有る……が、一部の……或いは多くの権力者にとっては隠れ蓑に過ぎない、薄っぺらな紙切れの様な物でもある。


「美しい着物!龍を断つ剛剣!絢爛豪華な調度品に選りすぐりの奴隷等など!此度のオークションは前回を超える一級品揃いに御座います!」


〝法〟の届かない、裏の世界、其処の会場には古今東西あらゆる非合法な者達、富豪、領主、商人、裏組織の頭領……そして莫大な金が集中していた、そしてそれらを護る様に配置された優秀な番犬も。


「さて、さてさて!前置きも此処までに早速一品目の紹介を致しましょう!」


――パチンッ――

――ガラガラッ――


「コチラは古い時代!かつて栄華を極めたと謳われる大帝国の有った遺跡から発掘されたと言われる〝金の大壺〟で御座います!気品ある金の彫刻、上品な白い陶器は正に芸術と言えるでしょう!……さて、そんな芸術品は100万zから!」

「110万」

「おっと130番様110万!」

「120万」

「150万」

「なら180万だ」


金が積む積む、積み上げられる。


「236番様、1000万で落札!」


盗品の調度品、違法薬物、奴隷、其処に出される一級品が高額で買われていく、そして夜は深け、終幕は近付いて行く。


「え〜それでは、皆様残り僅かとなった舞台、調度品、武器、薬品、奴隷、それぞれが残り1点ずつ、それも最上級の物が残っております!」


――ガラガラッ――

『おぉ……』


運ばれて来る1つのショーケース、それを見た多くの者が感嘆の声を漏らす……綺羅びやかで美しい、見る者を魅力する金の金具、その中心には、けして小さくない立派な澄んだ紅い宝石が嵌め込まれた金の指輪が有った。


「コレは、匿名で登録された一品ですが、ご覧下さい!全てが純金で出来た金の装飾! 1点の曇もない美しい紅い宝石! まるで神が与えた様な、そんな幻の如きこの指輪が、この終幕の先鋒となります! 最初の値段は1億zから!」


「1億5千万だ!」

「1億7千万!」

「1億8千万よ!」

「なら2億だ!」


此処から一転、オークションを今まで俯瞰していた者達が沸き立つ……1億が2億へ2億は瞬く間に3億へ、4億、5億、そして――。


「66番様!11億3千万で落札!」


凄まじい、それを通り越して悍ましい値段を以て落札された……取り切れぬ悔しさ、憎しみ、殺意が会場を蠢く。



――ドクンッ――


それを受けて、紅い指輪は脈打つが、その場の誰も、気付く事は無かった。




○●○●○●

南の街ガルムにて。



スラム、貧困街……貧しい者が集まる場所を、黒い小さな影が駆ける。




「シ、シスター!」

「ん?どうかしましたかリース?……ッ!コレは?」


其処に建てられた古ぼけた孤児院に少年達は駆け込む、それに気付いた修道女は、少年達の手に握られたその指輪に目を細める。


「この指輪は何処で?」

「あのね!何時もの掃除のお仕事の時に見つけたゴミ箱に入ってたんだよ!」

「本当に?」

「嘘じゃないよ!ねぇヨタナ!」

「うん、本当に入ってたよ」


その言葉に修道女は目を瞑り考える。


「……分かりました、それじゃあ今度、私がこの指輪の落とし主を探します、ですのでその指輪は私に預けて?」

「うん、分かった!」


少女が蒼い宝石の指輪を渡すと、修道女はニコリと微笑む。


「それじゃあ、今日もお疲れ様、身体を拭いて、ゆっくりと休みなさいね?」

「は〜い!行こ!ヨタナ!」


少女が少年の腕を掴み駆けて行く……それを柔らかく見つめる修道女は、その少女の姿を見送った後。


「素敵な指輪……運が良いわねぇ?」


そう微笑んだ……先程の柔和な笑みでは無く、とても醜い、欲に塗れた顔で。


「こんな見窄らしい教会に派遣された時は本当にムカついたけど、偶には良い事もあるものねぇ〜?」


そう言い、指に指輪を嵌めて、ウットリと見詰める。


「さて、それじゃあ餓鬼共の餌でも作らないとね」



凡そ清い者の吐く台詞では無い言葉を羅列しながら、修道女は教会の中へ入っていく。


――ポゥ……――


その蒼い宝石から薄い靄が放たれたことも気付かずに。





●○●○●○




「ほぉ?コレはコレは……中々悪く無い指輪じゃ無いか」


北の街カトベル、その領主館にて、二人の男が密会していた。


「はい、ありがとうございます、コチラの指輪、実は例の商会から騙し取った物でして、ヨーリス様の様な高貴な御方に似合うかと、こうして持ち寄った次第です」


無精髭の如何にも胡散臭い小男はゴマをする様にヨーリスと呼ばれた、醜い肥えた男を見やる、その軽い見え透いた賛美に気付かずに、肥えた男は顔を更に醜く歪ませる。


「グフフッ、主も悪よのう……良かろう、その指輪、高く買ってやる……そうだな、1億でどうだ?確かお前の所は借金で首が回らなかった筈だな?」

「おぉ!それはありがとうございます!いやぁ、流石ヨーリス様!その慈悲に感謝致します」


その言葉に、小男は嫌らしい笑みを浮かべて頭を下げる。


「それでは、コチラを!また良い物を手に入れた際はヨーリス様に献上致します!」

「うむ、それでは去るが良い、くれぐれも人に見られるなよ?」

「勿論で御座いますよ、へへ……」


小男がそそくさと去る、それに見向きもせず、その肥えた男、領主のヨーリスは下品な笑みを浮かべて、指に指輪を通す。


「グフフ、グフフフッ…あの馬鹿、儂が本当に約束を守ると思っているのか?……グフフ、おい、スラムで殺して棄てておけ、良いな?」

「はい、承りました」


無機質な顔の老人はそうお辞儀すると、煙の様に消える、それを見てヨーリスは更に嗤う。



――ジ〜……――


それをただ、黄色い眼が観察していた。




○●○●○●


――ガチャンッ――


「―――ッ!?」

「喧しいわ、下等種族が」


西の街ルタル・バチュル、要塞都市の地下中央、許可された者しか入れない都市の闇の中で、1人の森人が冷たく見下ろしていた……その先には幾人もの人間の男女が居た、皆身体が欠けて、痩せ細っている、目は虚ろで、ただ痛みに声を荒げるだけしか出来ない……森人の過激派、選民意識の高い〝至上主義者〟達の後ろ暗い根城だった。


「貴様等下等種族が、一々叫ぶな、耳障りで吐きそうだ……全く、巫山戯た話だ、何故我々の街に〝紛い物〟共を入れねばならん?」


――ボキッ――

「――ッ!?」


幼子の悲鳴を聞き、苛立ちを紛らわせる森人の男、それを止めるどころか同じ様に顔を苛立ちに染める周りの者達。


「魔術も碌に扱えん無能種族等、さっさと滅ぼせば良いものを……やはり今代の長は駄目だな、我々至上の生命と、下等な家畜が対等など馬鹿げた話だ!」


――ボキッ――


――コロンコロンッ――


「ん?……何だコレは……ほう?コレは指輪か?それもかなり良い物だな?」


殴りつけた男の懐から、1つの指輪が転がり落ちる、それは緑に、美しく輝いていた。


「貴様の様な醜い豚よりも、我々の様な美しい人が使うに相応しい、ふむ、見れば見るほど美しい……」


見惚れる様に、その指輪を愛でる森人。


「おい、此処の家畜共を殺して棄てておけ」

「御意」



上機嫌にそう命令して、その場を立ち去る森人。



それを、緑の〝種〟は静かに見ていた。



●○●○●○



「お、四つとも良い〝餌〟が見つかったか………どれどれ……フハッ!」


そう言いながら、男は独りで腹を抱える。


「〝血濡れた殺人鬼〟、〝ロクデナシの修道女〟、〝堕落した統治者〟に〝選民思想の腐れ外道〟ッ……良いな良いな!素体として最高だ!……良い餌を〝選んだ〟なぁ♪」



――コレは面白くなって来た♪――


「思ったより〝面白いの〟が出来そうだ♪」

「キシャー?」

「ん?……あぁ悪い悪い、ほら食え食え」

「〜♪」



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