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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第二章:悪夢に足掻く者達
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第二陣との遭遇

――ガサガサッ――


「クッソ!? こいつ等多過ぎんだろ!? おいグイン! 魔術はまだか!?」

「まだ魔力が足りねぇ! 1度固まって耐えるぞ! ルストはカイの援護! ヒナ! 回復任せた!」

「わ、解った!」


第1エリアの西の森で、蜘蛛の大群を前に耐え凌ぐ四人組が居た。


「カイ! 散らせるか!?」

「任せろ! 〝ブレイドスマッシュ〟!」

「手伝うわ、〝スピア・アロー〟!」


声と同時に、大剣を持った獣耳の青年はそう叫ぶ……横薙ぎに飛ぶ剣の刃が、正面の蜘蛛達を薙ぎ倒していく……緑髪の少女が放った一矢は複数の標的を射抜き殺していく……しかし、それでも数は減らない、寧ろより増えて行く。


「チッ! おいグイン! ヒナ連れて街に戻れ! 退路は作ってやる!」

「へ!? それじゃカイ君が!」

「五月蝿え! このまま共倒れするより俺一人がデスペナ食らう方がマシだ! 行け!」


そう言い、カイと呼ばれた青年は、後ろの蜘蛛を散らすように、技を放つ。


「グイン!」

「ッ! 分かった! すまん!」

「応!」

「行くわよヒナ!」


そして、三人が後ろを駆け出したその時だった。


「うわ、気持ち悪ッ!」


何処からかそんな声が聞こえる……この緊迫した状態で、そんな能天気な声を聞いた四人は思わず立ち尽くす。


「ん? あ〜プレイヤーが居たのか……流石に戦場で立ちっぱなしは悪手だと思うぞ?」

「キシャーッ!」

「あ!? 危ないッ!」


木陰から人影がのそりと前へ進むと、それに気付いた蜘蛛達が飛び掛かる、それにヒナと呼ばれた少女は声を上げる。


「邪魔だ」


――バシュンッ――


「「「……へ?」」」


木陰から現れた黒い服の男は飛び掛かる蜘蛛を一瞥すると、無造作に拳を振るう……するとその拳に触れた蜘蛛達はまるで豆腐の様に柔らかく砕け散った。


「ほら、そんな事より手を動かせ、死ぬぞ?」

「「「「ッ!?」」」」


その声と同時に、呆然から立ち直る四人は武器を構える、突如現れた人物への警戒と疑問を飲み込み、この戦場で生き残るために、その武器を振るい始めた。


「ふぅん……重戦士、魔術師、狩人、神官……バランスの良い編成だな、それに各々の実力も高い、問題はレベルと装備か……〝第二陣〟の連中か」


蜘蛛が集るのを気にするでも無く、愉しげに戦う四人を観察する男。


「其処の魔術師、使える属性は?」

「ッ!? あ、え……火と風だッ」

「結構、〝嵐〟は使えるね?」

「あ、あぁ!」

「益々結構、では今から俺が言う言葉を魔力を込めて詠唱しろ」

「ッ! 分かった!」

「良し、〝風よ、暴風と成りて、顕現せん〟」

「か、〝風よ、暴風と成りて顕現せん〟」

「〝炎よ、敵滅ぼす破壊の炎よ〟」

「〝炎よ、敵滅ぼす破壊の炎よ〟」

「〝混ざりて溶け、炎抱く嵐となれ〟」

「〝混ざりて溶け、炎抱く嵐となれ〟」


そこまで詠唱を終えると、魔術師の身体から魔力が奔る……そして。


――ゴオォォォッ――


「何だ……コレ」

「凄い」

「あぁ、すっげぇ……」

「おめでとう魔術の子よ、お前は新たな世界を開いた、〝複合魔術〟の一端を理解したか?」

「あ、あぁ……アンタは一体……何者だ?」


蜘蛛が消え去り、場に静寂が戻ると、今度は四人の眼が男へ向く……それに大して男は目を瞬かせ、そして得心がいったかの様に顔をに笑みを浮かべる。


「そう言えば名乗っては居なかったか……俺は〝テス〟、第一陣プレイヤーだ、此処に居るのはちょっとした偶然だよ」


その言葉に、四人の顔から険が薄れる。


「アンタは魔術師なのか? あんな技を知ってるとは思わなかった」

「そうだな、魔術師ではあるが別に近接が苦手では無いぞ? オールラウンダーに出来るな、言い換えれば器用貧乏とも言えるが……今回君に教えたのは何ら特別な技術では無い、魔術と言うこの世界に確立された1つの技術、それを紐解き、理解し、改良された産物、熟達した魔術師なら持っていても不思議ではない技術だ、ちょっと〝プロフェス〟のクランと知り合いでね」

「えぇ!? プロフェスさんって、あの〝五術魔帝〟のプロフェスさん!?」

「……ん? プロフェスはプロフェスだが……そんなに有名なのか?」


男は困惑混じりに神官の少女……ヒナに問い掛けると、少し興奮したようにヒナは語り出す。


「はい! プロフェスさんは第一陣プレイヤーの中でも魔術に特化したプレイヤーで、様々な物、歴史、生命を調査する大規模クラン〝真理の開拓者〟のクランリーダーですよね!?」

「その二つ名に聞き覚えは無いが〝真理の開拓者〟ならプロフェスが運営しているクランだな」

「凄いよカイ君! グイン! ルストちゃん!」

「「お、おう……」」

「ごめんなさい、あの子、実はゲームの有名人とか調べるのが好きで……偶にこんな熱暴走を起こしちゃうの」

「構わんよ、見ていて飽きないからね」


男ははしゃぐヒナを愉しげに見ながら紅茶を飲む。


「所で君達、君達は何故この森へ?」

「私達の……主にヒナとグインの装備新調の為ね、此処の蜘蛛の糸が頑丈で触り心地の良い布になるって聞いたから来たのよ……こうなるとは思わなかったけど」

「ふぅむ……見た所各々の戦力は問題無いと思うが、やはり武器が粗末だな、単純な鉄製の一品だとやはり此処から先……ソレもボス討伐は厳しいだろうな」

「そうね……どうにか良い武器が欲しいのだけど…どうしたものかしら……」

「魔術触媒にするなら〝魔銀〟の武器が次の装備に丁度良いな、それ以外となると……あの大剣の青年は見た感じ魔術に関する物は使わないだろう……なら〝魔鉄〟を使った武器にすると良い、〝魔銀〟も〝魔鉄〟も採掘すれば希少だが手に入る、そうでなくとも高密度な魔力と溶かし合わせれば人工作製も可能だ……まぁそんな奴は滅多に居ないが……君は狩人だろう? なら此処の木材でも持って行けば良い、それなりの弓が出来るだろう」

「随分と詳しいのね?」

「まぁな、コレでも物作りはそれなりにするからな、そういうのは理解してるよ、それと〝鑑定〟を許可なく人に使うのは感心しないよ?」

「………」


テスのその言葉に、ルストは言葉を止めて肩を竦める、それを男はケラケラと笑う。


「〝情報を伏せた〟相手というのは良くも悪くも隠したい事、隠さなければならない事が有る、そういうのは鑑定を受ける事への対策もしているんだ、詮索は御法度だよ……俺にその気は無いが、最悪殺されることも覚えておけ」

「えぇ、解ったわ」

「それで良い」


「あ、あの……すいませんはしゃいじゃって」

「構わん……さて、君達は目当ての物を手に入れたのかい?」

「はい! 沢山手に入ったので大丈夫です!」

「それは良かった、俺もやることがあるんでね、君達が第二エリアへ到達する事を楽しみにしているよ?」


男はそう告げると、インベントリに椅子を戻し、立ち去る。


「「「ありがとう御座いました!」」」

「…………ッ」


3人がお辞儀をしているのを尻目に、ルストはその男を注視していた……そして、聴いた。


――また今度――


狩人の職業効果、〝五感の微強化〟が捉えた……微かな声、獣人のグインでさえ聞きこぼしたその言葉を。


「(また今度?)」


暗い森の中に消えた男の意味深な発言、警戒と怪しさに顔を顰めながら、ルスト達は街へ去っていった。


●○●○●○


「……いよし、成功成功♪」


無人の地下室で、ハデスは顔を歪ませる……その顔は楽しげで、満たされるような達成感に顔を歪ませたその顔は紅潮し、見る者が見る者ならば卒倒してしまう程に艶めかしい。


「〝魔力同調〟、彼我に分かたれた二つの地点に、全く同じ魔力の〝印〟を用意し、それを起点に召喚術ベースの〝転移陣〟を作製……転移魔術の術式解明は手古摺ったがそれに見合う成果は出来た………見た目は圧倒的に悪だが」


地下室の入口付近……其処には、赤黒い魔術陣と、それを囲う禍々しい屍の壁が有った。


「俺の魔力が悪性に振り切ったせいかね……街の広間にある転移陣は普通の見た目だったんだがなぁ」


術式は問題無く発動するが、その性質は創り手の魔力に依存するのか?


「取り敢えず、拠点間の移動手段は出来た…後は戦闘用の転移術だな」


其処さえ分かれば〈転移魔術〉も獲得出来るだろう。


「ベクター」


「お呼びでしょうか、我が主」

「遠征中の奴等はどうだ?」

「問題無く建造に移っています……恐らく明日の朝には完成するかと」

「まぁそんな所か、ヴィルの弟子は優秀だしな……ふむ、そうさな……うむ、うむ……」


取り敢えず、今回は〝ゲーム〟に集中しよう、考え事はその後だな。


「え〜っと、有った有った」


インベントリに手を突っ込み、幾つかの結晶を取り出す俺に、ベクターは疑問を投げ掛ける。


「主様、その宝石は?」

「コレは〝呪化宝石〟って名前の宝石、元はただの宝石だったんだが俺が少しずつ魔力で汚染した宝石だ、今回のイベントの目玉だな……今からコレを〝呪物〟に作り変える」


俺は4つの卵程は有る宝石を台座に乗せ、更に追加で金と……〝取っておき〟を取り出す。


「〝我は悪の魔、有らん限りの呪詛を込めて、我は忌物を創造せん〟」


台座に置かれた4つの宝石を、瘴気が包む。


「〝その輝きは優美で有る、その輝きは高貴で在る、その輝き故に人はそれを求め、忌は溜まる〟」

「〝汝等は欲望の囁き手、美しき毒牙、人心を蝕む悪逆の無生〟」

「〝我は四の悪に、名を与えよう、お前達の名は、――――〟」




そして、〝ソレ等〟は生まれた、たった1人の悪の結晶によって……そうして、ソレは各々の定めに従い、四の街へ送られ……。




街に蔓延る守護者の眼を掻い潜り、陽の光を浴びて、燦然と輝いていた。

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