襲撃計画
「さて、どうやって襲撃しようかねぇ?」
進化を終えた後、俺はベクターにネームド全員を集めさせて、一足先に会議室に居た……。
――グネグネッ――
「人間のストックも減ってきたし、各都市半分位壊せば十分足りるだろうしなぁ」
――グニャグニャッッ――
「全部が全部同じ手法だと流石に対処されやすい……4つ全部違う方法で襲うか」
「お〜っす、来たぞ〜……って気持ち悪!?」
――キョロッ――
「「「おぉ、やっと来たか」」」
「良いから元に戻れ!」
――グシュンッ――
「んん、これでよし……あ、目が一個多かった、良し……それじゃあ、早速会議を始めようか」
俺は全員が座るのを確認して、声を出す。
「そんじゃあ、早速今後の方針だが、まず地図を用意して……よし」
机の上をだだっ広い大陸が広がる……コレはヴィル製、精密なこの大陸〝アルフ〟の転写地図だ。
「俺達が今居るのが此処、でこのエリアの街が〝ファウスト〟、大陸のど真ん中に存在する中立商業都市だな」
そう言い、地図の4方向に線を伸ばす。
「で、今後俺達はファウストから東西南北に進み、各四エリアへ進出出来る様になった……各四エリアの都市……其処を襲撃する、守護者も煽って集めさせたから、殺せば殺すだけ素材がたんまり手に入る、コレを逃す手は無い」
「各四都市……セレーネの報告書から推察すると、大体1都市5万程か……良いんじゃないかな?」
「それで?俺達は何すれば良いんだボス?」
バリッドの問い掛けに俺はニンマリと微笑む。
「お前達四騎士には四都市の襲撃補佐をしてもらう、簡単に言えば、今回のゲームに手は出すな」
「えぇ〜!?殺しちゃ駄目なのかよ〜?」
「お前のワンマンゲームなんざ見てても面白く無いだろうが、それなら俺の創った劇場で掘り出し物でも見つける方が万倍良い、多少見所の有る奴が出てくるかもな?」
「なら良い!」
(((((単純……)))))
「まぁ、四都市の襲撃プランも各々違う物を用意するから、お前達は観戦でもしておけ、干渉しすぎるのは困るが多少のアクセントは構わんぞ」
「んまぁ、直接やり合うのとは違う方法をやるのも一興かねぇ?」
「面白そうだから良いよ〜!」
「私も異論有りませんわ!」
「それなら私も、でも襲撃プランについては私も混ぜてもらうよ?」
「ソイツは結構……それじゃあお前等、ヴィルとその弟子達連れて四エリアの此処に〝砦〟造って来い、デザインとかはお前等に任せる」
「「「「え!?」」」」
「んだよ、此処じゃ駄目なのか?」
「いや、此処からじゃちと遠いだろ、流石に一エリアに1つは休息拠点が欲しい」
「〝転移〟でもありゃなぁ〜」
「ホレ、良いから行け行け」
目下の目標を決めた所で、俺は会議室を出る。
「ベクター、砦建造に使う資材の準備は?」
「既に滞り無く、必要な物は全て揃っております」
「オーケー……しかし、そうか〝転移〟か、確かお前の蒐集品に〝魔術関連〟の書物が在ったな?」
「はい、一般的な魔術から〝特異属性〟と呼ばれる通常と異なるモノの書物まで、禁術以外の物はそれなりに」
「十分、後で俺の実験室に運び込んでくれ、俺は少し街に行く」
「承りました」
○●○●○●
――カチャッ――
此処は〝白鳥の羽休め〟、守護者の学者達が店主の娘へ押し掛けてから数日経ち、以前より来訪者が少し増したものの、以前と変わらぬ穏やかな空気が流れている。
「………」
――カランカランッ――
「いらっしゃいませー!テスさん!」
「えぇ、お久し振りですね、リーアさん」
――ピクリッ――
約束の時刻丁度に鳴ったドアベルに緊張してしまう……店主の娘と仲よさげに会話する男は、それから店主へ一言二言告げると、歩き出す……私の方へ。
――カツッ……カツッ……――
「何時来ても此処は良い、穏やかな空気、雰囲気の良い空間、甘い林檎の香り、こうした上品な静けさはとても心地良い」
――カタッ――
「君もそう思うだろう? 〝タマモ〟さん?」
「えぇ、そうね……ハデス」
「フフフッ、此処ではテスだ、折角こうして変装しているのだから、そちらで頼むよ」
私の視線の先に居る、白い上品な服を着こなす男はそう微笑み、愉しげにそう言い放つ。
「驚いたわね、まさか貴方から私にコンタクトを取るなんて」
「折角大商会の会長とコネクションが有るんです、有用に使わせて貰いますよ……既にご存知でしょう?」
「えぇ、貴方がコレからやる、〝ゲーム〟の事は既に知っているわ……アレだけの宣戦布告だったからね」
「それは重畳、というわけで、今回貴方に〝運んでもらいたい代物〟が有るのですよ」
「お待たせしました!〝白鳥のアップルパイ〟と〝紅茶〟です」
「おっと、コレはコレは、ありがとうございますリーアさん」
「へ?私の分も?」
「ええ、このアップルパイ、とても美味しいのですよ?……サクサクのパイ生地に甘酸っぱい林檎のコンポート、紅茶に良く合う……是非食べて行って下さい」
彼のその言葉を聞き、ナイフを手に取り、パイを切り分ける……サクッと割れるパイ生地、中から溢れる林檎のコンポート、ふわりと香る林檎の甘酸っぱい香りに、思わず喉を鳴らす。
――パクッ……――
「……美味しい」
「でしょう?」
思わず漏れた声にクスクスと彼が笑う……その顔は無邪気な子供の様で、以前合った時の、威圧感はまるで無かった。
――サクッ……――
それから私とハデスは、暫しの間この美味しいお菓子を堪能していた。
――カチャッ……――
「ふぅ……さて、甘味を堪能し、糖分を補充した所で〝取引〟と行きましょうか」
そして、商人の闘いが始まった。
●○●○●○
俺……いや私は、眼の前の商人に、4つの指輪を見せる、〝蒼いサファイアを嵌め込まれた金の指輪〟、〝紅いルビーを嵌め込まれた銀の指輪〟、〝緑のエメラルドが嵌め込まれた金の指輪〟、〝黄色いトパーズが嵌め込まれた銀の指輪〟……どれもが一級品の物であり、売れば相当の値が付く代物だと理解出来る。
「コレの相場は……そうだな、1つ辺り50万zは行くかな?或いはオークションならばその倍、更に倍と膨れ上がるか……売ればそれなりの儲けになるだろうね」
「………」
「コレは私の部下が作成した何の効力も持たない装飾品だ……君がとある頼みを聞いてくれるなら、コレを〝安く〟売っても良い」
私の言葉に、タマモは顔を引き締める……警戒と、興味、そして少しの矜持か。
「条件は?」
「新しく進出可能となった四エリア、其処にある各国家の四都市でとある〝品〟を売って欲しい、生憎と今はまだ制作段階だが、〝ゲーム〟に使うんだ」
「……」
「君には〝品〟の販売……出来れば、そうだね、平民より少し位の高い者へ向けて販売して欲しい、そしてその事を誰にも漏らさないでくれると助かる……どうかな?」
「……随分と気前が良いのね?」
「私はゲームに出し惜しみはしないタイプだからね、君が約束を守るなら、このアクセサリーを……そうだな、1つ5万zで売るが」
「いいえ、駄目ね、私は商人よ? 物を売るのが仕事なの、顧客が減る様な真似はしたくないわ」
「ふむ……では、そうだな……この提案を呑むならば、私が君へ、1度だけ、〝頼み事〟を聞いて上げよう、叶えられる範囲ならば全力で遂行すると約束するし、その約束を反故にはしない、〝契約〟をしても構わない」
「……何でも?」
「叶えられる範囲で」
「……本当に?」
「無論」
「どんな事でも?」
「構わないよ」
私の提案に、タマモは身を乗り出して聞いてくる……何とまぁ正直な女性だ、そこまで分かりやすい反応をされると少し面白い。
「ッ!……コホン、良いわ、その提案乗ってあげる」
「クフフッ、〝契約成立〟ですね」
私は懐から取り出した書面にペンを走らせる。
「コレにサインをすれば、私と貴方に〝繋がり〟が出来ます、双方の契約を遵守する事、契約に反する行動を取れば相応の対価を支払わされる、〝契約〟という手法は悪魔にとっての常套手段であると同時に、悪魔を縛り付ける枷でもあるのですよ」
契約書にサインすると、私の左手とタマモの左手に紋様が浮かび上がる、そして契約書は消える。
「解除するには契約を果たすか、或いは双方の合意を経て初めて解除されます……貴方は〝物品の販売と情報の秘匿〟、私は〝装飾品の割引と遂行可能範囲の願いを達成する事〟……どんな契約媒体よりもずっと強力な〝悪魔の契約〟です」
――コトッ――
「それでは、コチラを」
「ええ、20万よ」
「確かに……それでは件の〝品〟はまた完成した時に、なるべく急ぎますよ」
私はタマモへそう言い、立ち上がる……直前、懐から1つの指輪を取り出す。
「あぁ、それと……コチラの指輪を差し上げます、コチラは銀と魔石を混ぜて創られた〝魔銀〟と呼ばれる金属の指輪で、優秀な魔術触媒ともなるのですが……私の扱う術とは幾分相性が悪いので、貴方へ贈ります、是非有効にお使い下さい」
「んぇ……?へぇ!?……こ、コココッ!」
「コケコッコ?」
「違うわよ!〝魔術威力10%上昇〟って!? 嘘でしょ!?」
「創る術の死霊術とは相性が悪いんですよねぇ……やはり、使うなら呪物でしょうか、それでは私はこれで」
今度こそ、私は店を出た。




