夜は墓場で運動会
「ん〜!……良いな!そこはかとない憎悪の気がする!」
「ふむ……どうやらこのエリアでは私の能力が制限されない様です、我が主」
どうも、人類悪(予定)な死霊術師のハデスです、現在我々は日の沈む少し前程に見つけた〝西の廃教会〟と呼ばれる廃墟へ来ています。凄いね、森の中にこんな所有るとか……何で町中に作らないのか分からんが。
「おやぁ?プレイヤーが居ない……?」
「恐らく日没故かと……我々不死者は日没からが本領ですので……特に丑三つ時は本来以上に強化されます」
「成る程、つまり今がベクターの本領と?」
「その通りで御座います」
一歩踏み出す……次の瞬間。
―――ボコボコボコッ!――
「「「ウアァァァ」」」
「中々シュールな光景だな♪」
腕を這わせ墓から出て来ようとする不死者共、ソレを手分けして仕留めて行く。
――――――
【下級屍人】LV:10
生命力:300
魔力 :300
筋力 :150
速力 :150
物耐 :200
魔耐 :200
信仰 :0
器用 :100
幸運 :50
【保有能力】
〈悪食〉LV1
〈気配察知〉LV:1
〈状態異常無効〉LV:1
〈聖属性脆弱〉LV:1
【保有称号】
無し
――――――
「おおう、夜のゾンビかなり高スペックだな?こりゃ雑に作って夜に放流したら中々使える……いや、非効率か」
――ガンッ――
――ドシュッ――
這い出るゾンビの頭を殴り、インベントリから敵からもぎ取った短剣を取り出す。
「ふんふふ〜ん……お、見っけ!」
胸元に光る紫の石をもぎ取る……その瞬間ゾンビは全身を脱力させる。
「いやぁ、元々死体と魂回収の為だったが〝魔石〟も手に入るとは……幸先良いな」
獲物はまだまだ、まだまだまだ居る、じっくりたっぷり集めていこうか♪
〜〜〜〜〜〜
「え〜……魂が500と少し、肉も同数……序で動物の骨と狼の魂が十数……こんな所か?」
廃教会の壇上に腰掛け、現状で集めた素材の確認をしてつい頬が緩む……いやぁ、どんな死霊を作ろうかねぇ〜?……楽しみだなぁ、愉しみだなぁ♪
「主様、御耳に入れたい事が」
「クフフッ♪……んぁ?どうしたベクター、話せ」
「はい、実はこの廃教会の地下に奇妙なモノが御座いまして……我々と同じ〝死霊〟に類する物の濃密な気配が」
「何?……案内しろ」
「御意」
死霊に類する物ねぇ……此処だけに死霊が集っているのと無関係……ではないか?
「コチラに御座います」
「………ふむぅ」
案内されたのは、荒廃して久しい私室……恐らく神父か、修道女の自室だろう……見てくれは荒れ果てただけの一室……なのだが。
「匂う、匂うなァ……血の匂いだ、死の匂いがする、それにこの辺りが異様に瘴気が溜まってる」
先刻の死霊乱獲の際、死霊術のレベルが上がった事で使えるように成った機能。
〝不浄感知〟
周囲に内在する負の魔力……不死者の源である〝瘴気〟を認識し、不浄の匂いを嗅ぎ取り、負の音色を聞き取る……それを手にした時、この廃教会と墓場の周囲に薄い瘴気の場が展開されているのを見た……それに廃教会の中が最も濃いのは僅かに知っていた、と言っても外と内で誤差の範囲だったが。
「本来神聖な筈の教会、それも神に仕える職業の者の部屋が最も濃い瘴気を帯びている……匂う、悪意の匂いがするぞ?」
そう独り言を呟きながら、近くの本棚の……〝やけに〟キレイに立てかけられた本を引く。
――ガコンッ――
何処かの何かが作動する……するとベットと本棚の間の床が動き、石階段が出来る。
「成る程?随分と手の込んだ仕掛けだ……魔法を使わない事で魔力探知を躱したのか、注意力を割くように周辺の物を配置すればさぞ有効だったろう」
しかし生憎、朽ちかけの部屋で唯一丁寧な本棚を見れば其処が怪しいのは容易に想像出来るので有る。
「さぁベクター、死人の罪科を確認しよう」
先人の残した悪意の末路、墓暴きと行こうか。
〜〜〜〜〜〜
――ザッ……――
「おやおやおや?おやおやおやおやァ?コレは、コレはコレは……何とも〝悍ましい〟事だ♪」
「瘴気が濃いのも納得ですね」
地下を進む……そしてその先に続く階段を下ると開けた室内に出た……そこは〝赤黒い〟色が大部分を染めた、石畳の室内、其処には古びた机と、長方形の〝机〟、鉄の拘束具に、床に散らばる無数の骨片が有った。
「邪教?悪魔崇拝?或いは天然物の狂気そのもの?……何れにしろ、ここの主は中々の腐れ外道で間違い無いらしい♪」
神父か修道女か……何方かはどうでも良い、聖職者の皮を被り、孤児を集め……丁寧に偽装した上で実験体にする……肉を割く為の物だったメス、〝何か〟を吊るす為の鎖、二重に施錠されていた鉄扉……此処の主は何を求めたのか……?
――ズオォォォォ――
「なぁベクター?……アレ何だと思う?」
「ふむ、私の見立てでは……胎動する"心臓"でしょうか?碌でも無い呪物には変り有りませんね」
「だよなぁ……取り敢えず鑑定」
古机の上に脈動するソレへ鑑定する
『〈鑑定〉のレベルが上がりました!』
「嘘ん」
―――――――
【偽悪■の■■■】
あ■■■者が狂■の果■■■■■■■―――――
―――――――
「偽悪…の」
「鑑定が弾かれましたか……中々どうして厄物ですね」
ベクターの言葉を聞きつつ、俺は心臓に近付く……試しに少し触れて――
「ッ!?主様!?危険――」
――殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――
――憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い――
――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――
「………糞煩いだけか?」
「―――ッいえ、私から見ても相当な呪詛なのですが」
「ふむ」
インベントリから死体を取り出し死霊にする……ソイツに試しに触れさせると。
「※※※※※※※!?!?」
――ブパァッ――
「ふむ……込められた呪詛に、屍人が耐えられてないな、器の強度か?ベクター、お前は触れるか?」
「……恐らくは……ですが、あれだけの呪詛を抑え込める自信は無いですね、私には荷が勝ち過ぎるかと」
「そか……さて、そんじゃやるか」
俺はそう言うと魔力を放出する。
「いやぁ、いつかはやるつもりでは居たんだが……〝こうも早いタイミング〟で機会が来ようとは」
使うのは百の魂と死肉、そしてあの心臓。
「一体どの様な死霊を創るつもりで?」
「創る?……いやいや、違うぞベクター……コレは俺の為の物だ」
「……は?…ッ!?主様――」
俺の言葉に一瞬呆けたベクター……を尻目に、俺は瘴気の中に飛び込んだ。
「主様!?!?」
「其処で待機してろ、直ぐ戻る」
焦るベクターを最後にそう伝えると、俺は瘴気よりも暗い黒に意識を塗りつぶされた。