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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十二章:冥界統べる屍の王
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龍は恐れ、屍人は嗤う③

――トンッ――


「警戒、敵意、混乱、忌避…〝何が起きた〟…〝この状況は何だ〟?…何、そう驚く事じゃ無い…〝俺はお前〟で〝お前は俺〟だ♪」


当惑する龍を見ながらそう意地の悪い笑みを浮かべて、男は屍肉の龍に手を翳す。


――ズゾゾゾッ――


その肉は溶けて形を無くし、男の手に吸い込まれて消えると、男はくるりと此方へ向き直り手を叩く。


――パンッ――


「――さて…何処まで喋ったかな?」


――ズドンッ――


ソレへ龍が尾を振るった……だがソレは。


――ガシィッ――


男に片手で防がれて無為に帰す。


「〝何故お前が此処に居る?〟…オイオイ、随分と随分な言い草じゃ無いか、此処へ俺を連れて来たのはお前だぞ?――お前が〝俺を喰らった〟だから、俺は此処に居る、お前の血肉と混ざり、俺は〝お前〟と成ったんだ♪」


攻撃を捌き、そう言う悪魔のその言葉に…己は瞠目する…。


「何千、万人に与えた俺の〝欠片〟を喰らった…お前の血肉に俺の〝生命〟が混ざり込んだ……そして、本体で有る〝俺〟…が龍を模造した俺が外からお前へ入り込み、今お前の目の前に〝俺〟は居る…難しい事は無い、お前の中に俺が居て、お前の魂と俺の魂がこの場所で〝相対している〟…それだけ分かれば十分だ♪」


――ズオォッ――


一人喋るその男へ息吹を放つ…男はソレを受けてその奔流に身体を消し飛ばし、其の場から消え去る……倒した――。


「『フフフッ♪――いややはり、龍種とも成れば実る〝感情〟もまた格別の味わいだなァ♪』」


――ザクッ――


そう、ぬらりと背筋を凍らせる様な笑いを押し殺す様なニヤケ声に声の方へ顔を向けた…その瞬間、己の肩に深い痛みと赤い血が噴き出した…待て。


――血…?――


「言ったろう、俺はお前でお前は俺だと…今のお前は霧の龍では無い、ただの龍でも無い……俺が〝創った〟器へ姿を変える屍肉の醜い龍モドキだ」


悪魔はそう言い、その手の赤い雫をグラスに落として飲み干す…その顔は三日月の様に歪み、己を幾多の眼が見据えていた。


「――〝恐れたな〟?」


その言葉の刹那、己の首が千切れ飛ぶ……痛みが、今まで感じた事の無い痛みが己を襲う。


「龍はやはり素晴らしい、一騎当千、一国を容易く滅ぼす力、漲る生命力、絶対な自信…凡人才者尽くが憧れ恐れる、完璧な命……故に、他の追随許さぬ絶対者故に…ソレから得られる〝食事〟は何者にも代え難い極上の〝贄〟と成る……苦労したんだぞ?…己の内で荒れ狂う〝暴食〟の性を抑えるのは…」


転がる己の首を掴み、その悪魔が顔を合わせる…その目に浮かぶ、〝捕食者〟の〝飢え〟を見た…。


――己が喰われる――


初めての状況に理解が追い付かない……己を喰らう、龍を、頂点の種を喰らう……その傲岸不遜に、普段の己なら失笑と共に切り捨てた筈だ…〝有り得ない〟…と。



だが、今…この状況は…〝有り得ないが有り得たこの状況〟この状況は何なのか、夢なのかと己の脳が問い掛ける……ソレを。


――違ウ――


本能が否定した、夢幻や、微睡みの幻想では無い……正しく現実、疑う余地のない〝現在〟だと、本能が警鐘を鳴らし、そして。


――ゾクッ――


初めて……遅くも己の心臓が鷲掴みにされ、命を握られる恐怖と〝絶望〟を理解した…。


「もう良いだろう、これ以上は最早辛抱為らない……なるべく永く、長く…濃密に〝恐れてくれ〟…♪」


そして悪魔が牙を開き…その真っ黒な口へ己の頭蓋を近付ける……飢えに飢えた獣の焦燥と、高揚に力んだ悪魔の腕に、恐怖を掻き立てられる…そして。


――バクンッ――


悪魔の口が、己を喰らった……そして、喰らい、飲み込むと…。


「ッ〜〜〜♪」


悪魔はその顔を喜色に染め、今度は己の身体を喰らい始める……その光景をずっと暗闇で見ていた……何も出来なかった。


己の腹を割く悪魔へ手を伸ばす事も、声を上げる事も、息吹も牙も爪も尾も、最早何一つ動かせなかった……ただ食われた…食われるしかなかった。


痛みに呻く事も出来ず、ただ心を蝕む恐怖と…何も出来ない絶望だけが己に与えられ、ソレすらも悪魔の口に消えて行った……。



そして、全て喰い尽くされ…己はその意識を闇に落とした……。



――パチッ――


『―――は?』

「――コレで終わると思ったか?」


その次の瞬間……意識が急激に浮かび上がり、目が覚める……同じ景色、同じ光景、首だけの己を掴む…口元を朱色に染めた悪魔…。


「〝この一度限りの機会〟をそうみすみす見逃して成るものかよ…♪」


そう言い、また己を喰らう…そして己はまた暗闇に落とされ、其処からまた己を喰らう悪魔の牙に痛みを覚え、そしてまた喰らうのを見せられる……そしてまた……。


――パチッ――


己を、悪魔が見ていた……口を笑みに歪めて……。


何十、何百、何千と繰り返し、繰り返し…くりかえしクリカエシクリカエシクリカエシクリカエシクリカエシ……クリカエシテ……。


――パキンッ――


等々、己が〝砕けた〟……。


「『なぁんだ…まだたかが2335回目じゃ無いか♪……つまらないなァ♪……まぁ良いや♪』」




○●○●○●


「――御馳走サマ、美味かったぞ♪」


虚ろな目で、身体を痙攣させ…身動き一つしない〝霧の龍〟の頭を踏み潰し…ソレを喰らう……。


そして再生する兆しの無いソレを完全に喰らい……この戦いに幕を降ろした……。


「『――〜〜〜♪……アァ疲れた疲れた♪…お前達もそうだろう?』」


龍の形を解きながら、俺は未だ傷を修復している3人へ触れてそう言う。


「――いや、色々言いたいんだが…」

「……お前彼奴に何やったんだ?」

「……♪」

「――アッ、聞いちゃ駄目な奴ですわね…私は何も聞きませんわッ」


俺の沈黙にいち早くグルーヴがそう言い耳を覆う……流石グルーヴだな…さて。


「聞きたいかい?」

「「……」」

「……どうしても、と言うなら教えてやらないことは無いケド…」

「「い、いや…止めておく」」

「遠慮するなよ、今ならリアルタイムで見せてやるぞ?……なぁに、ほんの〝一瞬〟だよ、ほんの一瞬、何なら一緒に見てやろうか?」

「「遠慮する!」」


……ソレは残念…さて。



「『君達はどうかな?』」


どうせ見ているんだろう?……覗き見趣味の〝観測者〟達?…。



●○●○●○


「――ウワァ…中々スプラッタだねぇ……」


その〝映像〟を見ながら…ソレは苦笑交じりに引き攣った笑みを浮かべる……。


「食べられてる子には堪ったものじゃ無いねぇ…本当に」


そしてその指を空に振るうと、幾多のウィンドウが現れ、ソレを慣れた手付きで操作して、その映像を黒いウィンドウに移すと…男は笑う。


「太一君辺りのお仕置きに使えるかな?」



同時刻、藤原太一の背筋に突如悪寒が奔ったのは、恐らく偶然だろう…恐らくは。

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