色欲住まう霧の谷
――ガラガラガラッ――
「〜〜〜♪」
夜が明け、各々休息と準備を済ませた昼下がりを馬車は進む……生憎空に陽が無い故に今が何時かは俺しか知らないが。
現在は火山を超えて西南へ向かっている……目的地は遥か遠方に見える〝白の世界〟
――…………――
〝色欲〟住まう霧の谷だ…色欲…色欲か……。
「――お前達にも性欲は有るのか?」
「「「ッブフ!?」」」
ふと疑問に思った事を聴いてみると3人が飲んでいた紅茶を噴き出す…。
「ぬしっ、主様!?…何を言うのですか!?」
「テメェ人が物飲んでる最中にッ…ケホッ…カホッ…」
「……いや、本当に急に何なんだ?」
3人がそう言い此方を睨む…確かに、急な話だが、話題なんてものはそんなものだろう?…。
「いや何、此度向かう旅の終着点…〝色欲〟の根城の事を考えていてふとな…元はと言えばお前達は魔物と人間だが、俺の術で死霊に成ったろう?…死霊に成っても性欲は有るのかと思ってな……一応タラトの薬品で欲情はするみたいだが…素のお前達ならどうかとな」
俺の言葉にセレーネとグルーヴは少し考えて顔を背け、バリッドは頬を掻きながら気不味そうに「まぁ…」と呟く…成る程、性欲は有るのか…ふむ。
「成る程…」
「……それよりもボスはどうなんだ?」
「ん?…まぁ人並み程度には有るんじゃ無いか?」
俺かて生き物、性欲食欲睡眠欲は持っているとも。
「「「……」」」
「……何だその驚いた顔は?」
「い、いやぁ……だってボス、アンタ顔も身体も上玉なセレーネやグルーヴとくっついても何ともねぇじゃねぇか」
「顔はって何だバリッドテメェ」
「ブッ飛ばしますわ?ますわ?」
「いやいや、冗談キツイぜ姐御ッ、言葉が悪いのはすまねぇが仕方ねぇだろ!」
「ふぅむ……別に何とも無い訳では無いぞ?…ただそれを表に出さないだけで、タラトもグルーヴもセレーネも皆んな美人だとも思うが、だからと言って無差別に情欲を向ける程私は獣では無いよ」
俺達はそんなこんなと言葉交わして暇潰しに暮れながら…霧の谷へ向かってゆく……。
「――おぉ、コレは凄いな…何も見えん」
スレイ達を撫でながら俺はその光景に感嘆の念を示す……空は、大地の先は白霧で覆われ何一つ見えやしない…。
「気温の乱高下や湿度の高さが原因で霧が周囲を包む事は稀に有るがこうまで常に白い霧が出てくるのは少し不思議で面白いな」
一体どういう原理でこうなっているのか……調べるのも楽しそうだ♪
「――だがまぁ、先ずは」
俺の探知範囲に映る急速に迫る反応を見ながら、俺は言葉を続ける…既に3人は臨戦態勢で反応が迫るのを待っている。
「――このエリアに巣食う魔物の〝味見〟でもするとしよう♪」
急速に迫る反応は既に直ぐ其処まで迫り、そして姿を――。
――シ〜ン――
現すことは無かった……。
「……ほう?…コレはコレは――」
――ジャリィンッ――
「〝霧自体が魔物〟とは…中々珍しい」
以前私が創った蠱毒の生き残りにもそんなのが居たな…。
――――――――
【霧の獣】LV:80
生命力:350000
魔力 :450000
筋力 :250000
速力 :500000
物耐 :500000
魔耐 :500000
信仰 :150000
器用 :350000
幸運 :200000
【保有能力】
〈悪食〉LV:5/10
〈具現化〉LV:8/10
〈霧生成〉LV:7/10
〈隠蔽〉LV:9/10
〈物理無効〉LV:5/10
【保有称号】
〈霧の住民〉、〈近接職の敵〉
――――――――
「物理耐性をすっ飛ばして無効とは、確かに〝近接職〟にとっては世界一嫌な敵だろうな♪」
己の障壁をガリガリと削り唸る狼に手を伸ばす。
――ガキィンッ――
「だがまぁ〝魔力の籠もった攻撃〟なら効く訳で…」
――バシュンッ――
獣に障壁を纏った腕を噛ませて術を風の刃で斬り殺す……斬り殺すと同時に霧は霧散しその場に牙と魔石を落とす…。
「ふむ…具現化した身体はそのまま素材として落ちてくるのか…どう言うことなんだ?…」
霧が本体だが具現化した物も本体としてカウントされるのか?…触れた感じからして霧で構成されている訳では無く、しっかりと骨で出来ている……何とも不思議な生態だ……。
と、そんな事を考えている内にセレーネ達の方も処理を終えたらしい。
「何だ案外何とかなったな!」
「私としては新しい謎が出てきて少し楽しくなって来たが……む?」
後処理を終えて談笑していると、ふと探知に掛かった反応に眉を寄せる…同じく探知に掛かったのだろう3人もその目を丸くしてその方角を見ていた……。
――………――
音は無い、匂いもない、風を裂く音も大地を踏み鳴らす音も無く……ただ魔力の反応が其処に有った。
何十、何百、何千の魔力が霧の世界から無音で此方へ雪崩れて来ている……特殊な〝獣災〟に我々は立って少しの間驚嘆に留まっていた……そして。
「〝見えない敵〟とは面白いッ♪」
「俺としちゃ殺り辛えから面倒だがな!」
「取り敢えずぶっ飛ばしゃ何とか何だろ!」
「相変わらず野蛮ですわね……ソレが正しいのが何とも言えないですわ…」
「ふむ……折角だ、スレイ達も殺るか♪」
「「「ヒヒーン♪」」」
こうして四人と、恐ろしい闘気に満ち溢れた三馬の馬車が獣災を食らわんと駆け出す……それを。
〜〜〜〜〜〜
「――ンフフッ♪…久し振りの再会ねぇ♪」
霧の谷に住まう、色欲の女は艶のある笑みで見ていた…。
「カァ……ァ…」
「ねぇアマイモン様〜コレはどうします〜?」
「う〜ん……もう〝美味しくない〟し、食べちゃいなさい♪」
「「「は〜い♪」」」
――バリバリバリッ――
部下の〝食事〟を尻目に色欲のアマイモンはその手にグラスを預けてその赤い雫を舌に絡める…。
「さぁ、貴女達…お客様がもうすぐ到着よ♪――精一杯〝おもてなし〟する為に、準備しましょう♪」
「「「「は〜い♪」」」」
アマイモンの言葉に悪魔の娘達はそう言い地面に滴る赤い血を掃除し、その肢体を衣で覆う…その内に秘める野性をひた隠す様に。
「あぁ、貴方が来るのが待ち遠しいわァ…ハデス…♪」
その甘い声は霧に消え、世界に滲んで静寂へ移ろう…そして。
――ガラガラガラッ――
『『『ッ!?!?!?』』』
「「「ヒヒヒーンッ♪」」」バキッゲシッ
「ハッハッハッ!――行けぇい〝戦馬〟達よ!」
「「「ヒヒーンッ!!!」」」ドカドカドカッ
彼の大地では霧の獣達を轢き潰して猛進する3匹の戦馬と、その背に立って嗤う冥王の姿が有った。
最後の三馬+ハデスの構図は戦国BASARAの武田信玄をイメージしてくれると分かりやすいかも……ちゃんと三馬の上に足を置いて立ってます。
え?足は2本しかない?…生やせば良いじゃない。




