女王の威厳は堕ちる事無く
どうも皆様泥陀羅没地です。
何この女王様とその配下スッゴイ高潔…イメージとしてはもう少し機械的で合理的な蟲の側面が強いキャラクターの筈だったのに…。
――パラッ…パラッ…――
地より這い出る…久しく触れぬ空の色を見てソレは空を見上げた…。
そして告げた…生まれ出る筈だった〝子等〟への贖罪と、生命を賭して己の為に働いた〝民〟へ向けて…そして、その全てを〝必ず仇は果たす〟と意味を込めて。
――「『ッ――――!!!』」――
大地震わせる〝咆哮〟と共に、己等を襲った野蛮な〝蛮族〟共を睥睨し。
――ドッ――
その歩を進めた。
●○●○●○
「なんですの…アレ?」
グルーヴは己の目に映るソレの〝情報〟にそう呟く。
―――――――
【リアンデラ・カルマ】LV:150
【黒軍死蟲女王蟻】
生命力:2000000
魔力 :1500000
筋力 :1000000
速力 :600000
物耐 :1000000
魔耐 :1200000
信仰 :500000
器用 :800000
幸運 :400000
【固有能力】
〈民は王の為に、王は民の為に〉
【保有能力】
〈贄喰らい〉LV:MAX
〈岩石魔術〉LV:MAX
〈魔力精密制御〉LV:MAX
〈鼓舞〉LV:MAX
〈軍団指揮〉LV:MAX
〈気配察知〉LV:MAX
〈魔力察知〉LV:MAX
【保有称号】
〈地中の女帝〉、〈統治者〉、〈至高の女王〉
―――――――――
その余りに馬鹿げた〝格の違い〟を見て…。
「『ッ〝―――〟!』」
咆哮…ソレと共に迸る魔力と、己等へ注がれる殺意にグルーヴは漸く動く…。
――ドォ――
「ッ〜〜!?…キャアァァァッ!?」
後一瞬動くのが遅れていれば…或いは己のこの身体は一瞬にして潰れ去っていただろう…片翼と右半身を吹き飛ばされたグルーヴは、緊張に早る鼓動の中でそう感じ、地面に堕ちる――。
――トサッ――
「――コレはコレは、些かお前達にとっては荷が重かったか?」
その瞬間、グルーヴを抱き止める〝何か〟の声に、グルーヴは空を見上げる…。
其処には巨躯の女王を見て、愉しげに声を鳴らす己の主が居た…。
○●○●○●
見て分かるその力の膨大さ…あのミェル・ワェルタを超えるその圧倒的〝暴威〟…。
「成る程確かに、〝全は1の為に、1は全の為に〟と言う訳だ」
――――――
〈贄喰らい〉
己の死すら捧げる献身の者を喰らう力。
喰らった者は献身の贄よりその力の一部を受け継ぐ。
――――――
――――――
〈王は民の為に、民は王の為に〉
王の庇護有って民は平穏を享受出来る。
故に王に不測の事態あらばその身を犠牲にしてでも我等は戦おう。
効果1:〝王〟の庇護下に居る〝民〟は、王が生きている間汎ゆる能力が〝超強化〟される。
効果2:〝王〟の庇護下に居る〝民〟は王に危機が迫ったその時、民は王にその身を捧げる。
―――――――
「――誰一人厭わず女王へ身を捧げ、女王は民の意志を汲んで〝その命を喰らった〟…」
正しく彼女と奴等で一蓮托生と言う訳だ…この馬鹿げた能力も得心が行く…。
「さて…どう調理するか…?」
「ッ――〝ボス〟!」
「ッ!…どうしたバリッド――ッ!?」
俺と女王蟻が互いに睨み合っていたその最中…ふとバリッドが大声を上げる。
――「『〝手ぇ出すな!!!〟』」――
と…その殺意にも似た言葉が俺へ突き刺さる……そして。
「――主様、私を降ろしてくださいまし」
俺の直ぐ近くで、グルーヴが俺を見据えていた…真っ直ぐと。
●○●○●○
私は主様のその眼を真っ直ぐと見つめてそう言う…その美しい紫の〝暗い眼〟を見て。
「主様へ、無様を晒したままでは終われませんわッ」
私の言葉に、主様はその瞳の奥の空洞に狂気を灯す。
「――成る程…出来るんだな?」
「やれますわッ」
「施しは?」
「不要です!」
私の言葉に主様が…ハデスが笑う、或いは嘲笑っていたのかも知れない。
「――大いに結構…では見せて貰おうか〝黒雨〟のグルーヴ…くれぐれも退屈させてくれるなよ?」
「――えぇ、主様は其処で私の舞を観ていて下さい」
「――あぁ、了解した」
主の言葉が終わると同時に、私は主の手から離れバリッドの元へ向かう。
ソレを主様はずっと見ていた…愉しげな笑みを崩す事無く。
「――バリッド!」
「ッ!―グルーヴ!」
「「ッ手を貸せ (貸しなさい)!」」
○●○●○●
――カチャッ――
「〜〜〜♪」
――何だコレは?――
今己の眼の前に居るソレの奇妙な行動に、女王は面食らい、動けないで居た…。
突如現れた〝異物〟…己の眼前に居た〝仇達〟よりも劣るその身で、仇達を超える〝魔力の渦〟に身を包んだソレのその奇妙な行動に、女王は困惑していた。
――コポコポコポッ――
「うぅむ…鑑賞にはやはりポップコーンとコーラが一番だな…お前もそう思わないか?」
椅子に腰掛け、机の上に甘い香りを漂わせる物を広げ、ソレを口に含み…敵意無く己の前に立つ〝ソレ〟はそう言い器に入った液体を飲み干す。
その一見〝無害〟に思えるソレを無視しようとした、その時…その目を見た己は立ち止まらざるを得なかった。
〝空洞〟
友好的な身振り手振りの裏に垣間見えた悍ましい〝空洞〟…ソレ故女王はその眼の前の悪魔に目を逸らせないでいた…。
仕掛ける事もせず、時間だけが過ぎてゆく……。
「――なぁ女王サマ?…コレはちょっとした興味本位何だがね」
その時、ふと男の声が響く……魔力を以て伝うソレは、己の耳に脳に届き、ソレの意味を理解する。
「〝民を喰らう〟気分はどうだった?」
「『ッ―――!』」
――ドゴォンッ――
その不愉快な〝言葉〟に、術を放つ…だがソレは何かに弾かれ、眼の前には涼し気な顔の男が居た。
「〝悔やんだか?…惜しんだか?〟…〝嬉々として贄へ成ったソレ等を見て、食らってどう思った?〟」
ソレの言葉に、更に術を放つ…それでも声は止まることはない。
「〝悔やんだ、惜しんだ…悲しく思い、それでも民の意志を継いだ〟…か……成る程、ソレは確かに本音なのだろうな……だが一方で、〝満ちた〟のだろう?…己の〝飢え〟は」
その言葉に、思わず身体が止まる……ソレは否定したくも否定出来ない事実で有ったからだ。
「〝欺瞞だな…お前は真実を一度覆い隠した…己の身体に蔓延る飢えと言う病巣の歓喜を…誰が為?…何の為に?〟」
「〝答えは民の為か?…それとも己の為か?…何方なんだ?〟」
――ドドドッ――
「…〝お前がその飢え満ちる歓喜を覆い隠したとして…果たして民はどう思う?〟」
気が付けば己の前に男は消え去り、其処には己だけが残った…。
『我が女王よ』
「ッ!」
その声を聞いた…其処には一匹の同胞……〝トルア・アルト〟が居た。
「ッ――済まない…私は、確かに同胞を喰らい、民を喰らい…〝歓喜〟を覚えた…」
空腹が満ちる感覚に幸福を覚えたのは確かだ……だが。
「だが、お前達の犠牲を望んだ訳では無い……我がお前達の意志を継ごうとしたのも確かなのだ…」
『……』
「我は…間違っていたのか?…」
眼の前の同胞へそう問う…気が付けば己の周りを無数の〝民〟が覆い、此方を見ていた。
『――否…断じて否である、我が女王よ』
「ッ……」
その瞬間、トルア・アルトはそう言うと私へ跪く…アルトだけではない、すべての民が私へ跪いていた。
『我が女王よ、飢えを感じる事は生命有る者の性で有る…我等はソレを以て生きてきたのでは無いですか?』
『然り、我等こそ…女王陛下へその様な選択を迫った事、悔やまねばなりませぬ』
皆がそう言い、我を見る…その顔に覚悟は有り…己を信じる様に、皆が口を揃えて言葉を続ける。
『『『『我等は女王の為に』』』』
「――ッ!―フフフッ♪」
気が付けば、我の目の前には再びソレが居て、その顔を笑みに変えて見据えていた。
――我は民の為に――
「―良い部下達だな、女王?」
男はそう、尊敬の念を我へ送り…そして不敵に笑い言葉を続ける。
「だが、俺の〝部下〟も負けては居ないぞ?」
――ドォォォッ――
男がそう言ったその瞬間、背後に凄まじい気配を感じてソチラを見る…。
其処には…。
「待たせましたわね」
凄まじい魔力を持った者と、その剛体を更に膨れさせた二人の〝仇〟が居た。
「な?……俺の自慢の部下達は、この程度の事で絶望しない…お前の部下と同じく、〝強い〟のさ♪」
男の言葉を聞き……我はその認識を改める…。
〝蛮族〟では無く…即ち〝敵〟として。
互いに見合い、そして合図はなく…同時に駆け出した……。




