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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十一章地の底に堕ちる者
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人肉喰らいの料理人

「……〝一番〟変化無し〜」

『〝2番〟もだ』

『〝3番〟も無いニャア』

『〝四番〟も同上』


暗闇の中でミケは定期報告をして欠伸をする。


(退屈だなぁ…でも持ち場は離れられないしなぁ…)


監視開始から凡そ1時間、静かな夜が続いていた…時偶聞こえる風の音色に体を揺らし、水晶の様な瞳で窓辺に眠る男を観察する…コレが中々辛い。


(ミケ姉はこーゆーの案外得意だからなぁ……暇だなァ)


せめて日向ぼっこでも出来れば……いや、それだと寝ちゃうか…。


そんな事を思考しながらも何とか退屈な監視を続けていた…その時だった。


――ピクッ――


「ン?――」


ふとミケの猫耳が動く、ソレは何かを探る様に様々な方向へ動き、やがてその音を正確に聞き取る。


――誰か…助けて…――


「ッ!―」


ソレは助けを求める女性の声…その恐怖と焦りのこびり付いた声を聞き、ミケが立ち上がる。


「『皆、今誰かが襲われてる――場所は後で送るよ!』」

『『『ッ了解』』』


――タンッ――


そうしてミケが駆け出す、丁度その時。


――ゴーンッ、ゴーンッ、ゴーンッ――


21時を告げる鐘が鳴った。



●○●○●○


「ケヒヒッ、ヒヒャッヒャヒャヒャッ♪――やはり女の悲鳴は良いなぁッ酷く〝唆る〟」


「ヒィッ…ば、化け物……」


壁に追い詰められたその女は腰を抜かして〝俺〟を見る…その恐怖と絶望の入り混じった〝感情〟を見て思わず悦が込み上げてくる…道すがら喰ったアレよりも上質な人の肉だ、そのまま喰らうも良いが…。


「――〝少し手を加えてみるか〟」


――ガシッ――


「ッ!?――ッ〜〜〜!?」


先ずは〝血抜き〟から…殺して抜くと楽だが生かしたままの方が美味くなる…動脈と静脈を切って、その血はスープにでもするか♪


「腕を一本もぎ取り出汁にしよう…確か其の辺の店で野菜とか有ったな…」


帰ってくる頃には血が抜けてるだろう――。



「にゃぁ」

「ッ〜〜〜♪――ん?…何だ、お前も腹減ったのか?」


仕方ねぇなぁ……ちょっとだけだぞ?


「髪は……味も食感も悪いし、そのまま食うか」


さて、そろそろ解体してくか…。


――スゥッ――


肉を裂く、赤く程よい脂肪が中々に美味そうだ…が、我慢だ我慢。


「スープには塩胡椒と、後は腿の肉を使おう」

「胸肉は…そのままステーキにするか」

「臓腑は刻んで薬味と合わせて」


いやしかし、一ヶ月前よりも成長している事を肌身に感じるなぁ……あの時は首を千切って食う事しかして無かったからなぁ。


「偶々陽の時間に小僧の動きを見ていて良かった♪」


お陰でそのまま食うよりもより美味くより腹の膨れる喰い方を知れたからな。


「――っと、完成だな♪」


頭骨はデザートにしよう―。


――ヒュンッ――

――ゴシャアッ――


「………あ?」


手を合わせ、いざ食事と言ったその時…俺は腕に突如奔る痛みに持っていた骨の器を落とす……地面に俺の料理がぶち撒けられ、俺の腕には一本の短剣が深々と突き刺さっていた……。



○●○●○●


(良し、取り敢えず皆に位置情報は送った――後は―)


私は目前で悍ましい料理を喰らおうとした化物へ短剣を投げて相手を見る…。


(人で料理を作るなんて…狂ってる)


正直な話、短剣を投げたのは条件反射だった…人を料理し人を食おうとする、化物が人間の真似事をする悍ましさについやってしまった。


「……ハァッ――〝勿体無い〟」

「ッ!?」


――ズズズズッ――


床にぶち撒けられたスープが男の足へ集まる……ソレは男に吸収されてその場から消失するが、男はその目に不快感を宿して私を睨む。


――グプッ――


ソレだけじゃない、地面に散らばる人肉の料理を骨の器ごと引き裂かれた口で喰らいながら、その化物は私を睨んでいた。


「ッ――貴様、確か昨夜見たな…あぁ、確かに見た、朧気ながらも覚えているぞ」


化物は睨んだまま、私を見てそう呟く……。


「この気配、この匂い……そうか、〝守護者〟か…フッフハッハハ♪」


そして、その顔を歪めて一人笑い始める……その余りの気味悪さに思わず私は口にする。


「ッ何を笑ってるの?」


私の言葉が届いていたのか、その化物はふと私を見るとその顔を歪めたまま、〝殺意〟を膨れ上がらせる。


「――イヤイヤ、男女子供、〝人間〟は料理した事は有るが、〝守護者〟は無かったなと思ってな」


その次の瞬間、ソレは一瞬にして私の前に現れ、その腕を振るった。


●○●○●○


――ブンッ――


俺の腕が宙を裂く…ギリギリで躱され、後ろへ飛び退いた女はその短剣を油断なく構え、毅然と俺を見据えていた…ふむ。


「……成る程、成る程…首を取ったと思ったがこの程度では殺せないか…」


……ケッヒヒヒッ♪


「いや結構……たらふく飯を喰らう前に腹を空かせるのも良いか」


腹が減り過ぎると少し〝我を忘れる〟が…何、大した事じゃない…それよりもこの女…恐らくは今まで見た中で群を抜いて〝質が良いな〟…。


「さて迷うな…此処はオーソドックスに焼くか…煮込みは…無理か、材料と時間が無い…炙ると言うのも悪くは無いか?」


良いな、この女を見ていると料理のインスピレーションが湧いて来る…。


――……――


「あ?――〝黙ってろ〟…ったく」

「?…何を言ってるの?」

「あ?――あぁ、悪いな聞こえてたか…気にするな……それよりも、だ♪」


――ドンッ――


地面を砕き、眼の前の女へ加速する……今はこの女を仕留める事に集中しよう。


「ッ!?」


俺が拳を振るい顔を狙った瞬間、その短剣で受けようとする女に笑ってしまう。


「ハッ!…ソレは〝悪手〟だろう?」


――ガシィッ――


「ッ!?」

「肉は叩けば美味くなると言うし、どれ――」


試しにこの女を投げてみる。


――グォンッ――


そんな空気を巻き込む音を発して女が宙を舞い、壁へ激突する…そして、壁を僅かに凹ませて崩れ落ちる。


「――カハッ…!?」

「まだ硬いか♪」


ならまだまだ叩く必要が有るなァ♪…。



○●○●○●


「ッ――クラーノ、ミケ!」

「あぁ、魔力を認識した…だが」

「チシャの反応が弱くなってる!?」


暗がりの屋根を駆け、3人はそう言い脚を速める…彼等の感知範囲に激しく動く2つの反応を見ながら…。


そして彼等が辿り着いた…その時、彼等の間を凄まじい勢いで何かが通り抜け、鈍い音を立てて壁へ激突する…。


「ン?……何だ、また誰か来たか――正直後はあの女食うだけで満足何だがナァ…」


その声を聞き、3人が前を向く…其処には一人の男が居た。


姿形は人間のソレだ、大きめな体躯に筋肉の付いたからだ…構成するパーツは凡そ人間と言って差し支えない…。


その腕の鋭利な爪と、裂けた口、黒い目を除けば…だが。


ソレの放つ殺気に3人はソレが標的だと理解し、次に思考する。


――先程飛来した者は何か?――


――と、アガサカはそう思考した時、まさかと振り向くだろう…そして、ソレを認識すると同時にその名を叫ぶ。


「〝チシャ〟ァ!」


アガサカはその今にも死にそうな程夥しい血を流し、疲労と痛みに虚ろな目となったその少女へ駆け寄り、己の持つ回復薬を掛けてゆく…。


――ジュウゥゥゥッ――


「ッ!?…治らねぇッ、クソッ何でだよ!」

「―当たり前だろ、そりゃあ〝血抜き〟する為に処理してんだからな」


アガサカの叫びに面倒くさ気な声で化物はそう言う…ソレへアガサカが振り向き、憎悪と共に叫ぶ。


「テメェッ、何者だ!?」

「……何者?――あ〜…しまったなァ…〝今の今まで〟名前何ざ考えた事も無かった…う〜ん…そだなぁ…」


アガサカの問い掛けに化物はそう言い何かを考え込む…と、ピタリと止めて何かを呟き始める。


「〝ハイド〟…うん、適当にハイドとでも呼んでくれよ♪……と、ソレはそうとして、もう〝24時〟も近いか…今の所腹も空いてねえし…後は守護者の女を食えたら良かったが…この数じゃ時間が掛かりそうだし…今日はもう止めとくか」


――ドンッ――


ハイドと名乗る化物はそう言うと地面を蹴って一瞬で距離を取る…3人が反応するよりも早くに夜闇に消え、最後に言葉を吐き捨てて消えてゆく。


「〝明日の夜にまた会おうか〟」


と…残された3人は空へ消えたハイドを睨み、そしてチシャは静かに…だが確信を以て告げる。


「〝ジキルとハイド〟…〝二重人格〟…」

「ッ!?―チシャ!?」

「アガサカ…敵は〝取り憑いてる〟…〝悪魔憑き〟」


そう言うと、チシャの身体はガクリと崩れ…其処に倒れ伏す。


「「……」」

「…取り敢えず、戻るよ二人共」


ミケはそう言い二人へ呼び掛ける……其処に普段のお巫山戯は無く、至って真剣な、そして明確な殺意が有った。



●○●○●○


「――あのチシャと言う少女は、中々良い観察眼をしてる様ですね…」


アレの微妙な動きの違和感から其処まで行き着くとは…。


「さぁ残るは後一夜…貴方達は何方の結末を手に取るのだろうか?」


全てを上手く運んだ〝良い結末〟か、或いは全て上手くとは言わないが、問題無く事件を解決したと言う、〝普通の結末〟か。


「しかし〝悪い結末〟には転ばないだろう…ソレはつまりもう一つの結末の目も低いと言う事だが…いや良い、ソレもまた資格者の選択だ」


私はただ此処で待つとしよう…彼等が扉を叩く事を。

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