魔女の呪い
「この子は四日前に秘密の場所に行くと言って、友達と外に出たんです…それで、こんな事に…」
「…成る程」
「この人は2週間前に狩猟に出て、その夕暮れに…ウウッ…」
「そうなんですか…」
「家の人は一ヶ月前に薬草を取りに行って…村の人間に運ばれてきたんです…」
「……成る程、分かりました…有難う御座います」
村人達の家々を回り、空が薄暗く成り始めた頃…5人は最後の家へ向かいつつ考察を進める。
「〝外に出る事〟が呪いの起動条件らしい」
「呪いの強さは強いけれど呪いによって死ぬことは無く、衰弱による死亡の可能性が有るみたいね」
「でも呪いに掛かっていない人達も居るみたいですよ?」
「つまり、その辺りが呪いの元凶を探り出す鍵になるのか?」
「ン〜……?」
難しい顔のまま5人が進む…呪いに掛かった者達の発症トリガーが外に出る事なのは理解した…その時、ブレイドがポツリと声を上げる。
「じゃあ何で村人は依頼の発行が出来たんだ?」
「「「「?……あッ」」」」
ブレイドの言葉に四人が声を上げる…それと同時に最後の家へ辿り着く。
「先ずはこの家に話を聞いてからだ」
そしてルドルフが扉を叩こうとしたその時、扉が開き、中から老婆が現れる。
「ッ!」
「おや、コレは……成る程、タッカーが雇った冒険者かい…」
「ッ―コレは失礼、私はルドルフです、貴女へ話を伺いたくて来たのですが」
「――そうかね…婆婆の話で良いなら入りな」
その老婆はそう言うと部屋へ戻り、5人を案内する……。
「――さぁ、お飲み…薬草茶だよ」
「貴女は薬師なのですか?」
「いいや、私はただの婆婆さ…他の村の人間よりも少し長生きなだけのね…この茶は健康の秘訣だよ…ヒッヒッヒッ♪」
そう言いルドルフ達よりも更に濃い茶を飲みながら、老婆は笑う。
「プハァッ、苦い!もう一杯!」
「五月蝿いぞブレイド…申し訳無いお婆さん…質問をしても良いだろうか?」
「ヒッヒッヒッ、構わんよ…威勢の良い子は好きだからねぇ……それで、質問だったね…呪いの事かい、魔女のことかい?…何でも聞くと良いよ」
「?…魔女とは何の事ですか?」
「おや?…あぁ、そう言えばアンタ達には言っていなかったね…勘違いしていたよ……魔女って言うのは私が生まれる前にこの村から追い出された娘の事さ」
そう言い、老婆は言葉を続ける…その話とは、1人の少女と村の歴史だった。
「元々此処の村は何の変哲も無いただの村だったのさ…富むも貧しくも無い普通のね…狩猟や農耕で生計を立てて時偶くる貿易商や、街へ食料や毛皮を売って生計を立てていたんだけどね」
「ある時、そんな村に1人の少女がこの村にフラリと現れた…何でも街での喧騒に嫌気が差したとかだったかね?…酷く疲弊していたみたいで、村の人間も快く受け入れてやったんだとさ」
「それにその少女は感謝し、御礼に魔術で村に豊穣を与えたんだとか…村人は大層喜んで少女へ感謝し、少女もまた村人と良好な関係を気付いていた…」
「でもね、ある時村は大規模な不作に陥ったんだよ…明日食うもままならない程にね…その時、皆は少女を頼った…今度もまた何とかなると誰もがおもったさ……でもね、無理だったんだよ…どんなに魔術を掛けても作物は育たない、村人は疎か少女ですら当惑したさ、何せ幾ら魔術を、使っても豊穣も何も変化は無かったんだからね」
「それでも腹は減る、日に日に食料は減ってゆく……ある日飢えや何やらでとうとう村人の不満は限界に達し、少女の家を押し掛けた……そして見たのさ、少女の家に並ぶ血や怪しげな道具の数々を」
「村人は少女を魔女と言って糾弾し、魔女を追い出せば村の不作は収まる筈だと騒いだ、少女の話に聞く耳も持たずにね」
「そして魔女は村の外の山に追放された…って話さ…私の母や父からの又聞きだけどね…」
「……成る程」
「そう言えば、あの娘も外から来たんだったかねぇ、もしかすれば魔女が仲良く暮らすアメリアに嫉妬したのかもね」
そうしみじみと言う老婆へブレイドは言葉を掛ける。
「その魔女ってまだ生きてんのか?」
「さぁねぇ…私が生まれるちょっと前の事だからねぇ……気になるなら行ってみたらどうだい?…村の裏手にある山に追い出されたって聞いたよ」
「……成る程、有難う御座いますお婆さん」
「もう良いのかい?…行くなら気を付けるんだよ?」
「えぇ、勿論」
そうして5人は老婆の家を出て、ルドルフが告げる。
「取り敢えず、一応この魔女が元凶ッぽいのは分かったな」
「カチコミは何時にするんだ?」
「俺としちゃあ今直ぐの方が良い気がするぜ?」
「そうね、もうほぼほぼ情報は無いし行っても良いと思うわ」
「僕はちょっと嫌かなぁ、夜は弓が通り辛いし」
「メアリーと俺で光源を確保すれば良いだろう……良し行こう、此処で迷うのは時間の無駄だ」
「ん〜……まぁ良ッか…分かったよ〜」
「相手は高度な呪いが使える相手よ、油断したら殺られるわ」
「油断何かするかよッ」
ブレイドはそう言い、大地を踏む、それに続くようにゾロゾロと5人は山へ進み始める……日はすでに赤く空を焼き、黄昏が静かに世界を包んでいた。
●○●○●○
――バササッ――
「お帰り……ほぉ、守護者が来るのかい♪」
空が黄昏に焦がれる頃、寂れた山に聳える家の窓から入り込んだ鴉を手に止め、銀髪の美女は艷やかに笑う。
「案外早かったね…もう少し掛かると思っていたのだけど…いいや構わないさ…ソレはソレで面白い♪」
独り言を呟いて美女は鴉を撫でる…その姿は絵画の様に美しく、ミステリアスな雰囲気だった。
「彼等が来るまで少し暇だね…そうだな、クッキーでも焼いておこうか?」
「カァ?」
「甘いお菓子だよ、待っていると良い……フフフッ♪」
鴉を止まり木に乗せ、美女は席を立つ…。
「〝クッキー〟を引き立てる〝飲み物〟は〝ミルク〟が良いかな?…それとも〝紅茶〟?…或いは〝珈琲〟も捨て難い…いやもしかすれば〝劇物〟に成るかな?…ソレはソレで面白そうだ♪」
独り言を呟きながら、美女はお菓子を作り始める…その瞳の深い紫を揺らしながら。




